不運の連鎖
あの事故から数年後、俺は、無事に第一希望の大学へ進学、卒業した。それからというものの、本業を続けながら「スターウィング」という組織に入っていた。スターウィングは、東京の雑踏の中、少し古びれたビルの一室にあった。窓から差し込む夕日に照らされて、俺は今日も活動報告書を書いていた。
「今日の活動報告・・・っと」
「シェルター利用が三人、相談が六人、電話が十八人・・・」
報告書を完成させようとした時、
「五十嵐さん、新しい相談者が来たわよ」
同じ支援メンバーでありながら、スターウィングの代表も務める後藤さんが声をかけてきた。
俺は椅子から立ち上がり、カウンセリングルームへと向かった。
そこにはうつむいて座る若い女性がいた。一八〜二十歳といったところだろうか。
俺が彼女に近づくなり、彼女は震える声で語りはじめた。宗教団体に所属する両親から逃げ出してきたこと、行き場を失い、近くの公園のベンチに座っていたところ、そして代表の後藤さんに呼びかけられたことを。
スターウィングはNPO法人で、主な活動はこうして、宗教二世やJKビジネスなどに加担してしまい、困窮している若年女性に対して、一時的な支援を提供することだ。そして、その後も自己啓発やスキルアップのためのセミナーを開催し、自立を後押しする。他にもDVからの緊急シェルターやコミュニティを提供する。いわば令和の駆け込み寺だ。
彼女に温かい飲み物を差し出すと、それで暖をとりながら俺の目を見てきた。彼女は自分を隅田羅砂と名乗った。
「自分は、群馬の実家に住んでいるのですが、昨日、親と喧嘩を起こしてしまって・・・」
「もしよかったら、どんなことがあったのか、聞かせてくれないかな。安心して。すぐに親に連絡したりはしないから」
「はい・・・。親に宗教に勧誘されて、断ったらムチで叩かれて・・・・・・これは儀式だからって・・・」
その時、羅砂は俺に倒れかかってきた。彼女の手は植物の茎のように細く、少し触れただけで折れてしまうような気がした。両腕には、青黒いあざの後に加え、火傷の後のようなものも見えた。
「だ、大丈夫か?!」
「すみません、少しふらついて・・・」
しばらくすると、羅砂も落ち着いた雰囲気になり、次第に生気を取り戻していったように見えた。彼女と話していくうちに、頭を掠めるような言葉が耳を通った。
「父が『平和教会』に入っていて・・・」
すぐさま、俺は反応した。
「もしかして、それって世界平和教会!?」
「はい・・・そうです・・・」
「実は私の知り合いにも親が宗教二世の子がいて、昔そのことについて個人的に調べたことがあります」
「本当ですか!それは心強いです」
ふと、星来の顔が脳裏をよぎる。と同時に、激しい怒りも込み上げてくる。
「まずはスターウィングの避難シェルターを案内します、今日はそこで休んでいてください」
夜が耽る中、スターウィングの灯りは消えることなく、前を照らし続けていた。
「世界平和教会・・・まだ実在していたのか・・・」
以来、その六文字を忘れることはなかった。
☆
翌朝、後藤さんの声で目を覚ました。
「もう朝か・・・今日は何曜日だろう」
眼を擦りながら、ポケットからスマホを取り出そうとする。
「っ・・・羅砂さんは!?昨日の女性はどうなったの?」
「やっと起きたわね。あなた、昨日の晩、シェルターへ向かおうとしている途中、廊下で倒れて、それからずっと眠ったままだったのよ?」
俺には全く記憶がない。まさに「記憶にございません」だ。
「そういえば、昨日の報告書と羅砂さんなら無事、シェルターまで送っておいたわよ」
ふと扉の窓から羅砂が心配そうに俺を見つめているのが目に入った。
「ここまで運ぶのもだいぶ大変だったんだからね!」
「すみません・・・数日前くらいから多忙のあまり寝られていなくて」
「何より体が一番。あなたに倒れられたら、これからスターウィングどうなっちゃうのよ・・・・・・ってあら、別に入っていいわよ?」
後藤さんに呼ばれ、彼女が入ってきた。足取りは昨日とは別人のように軽く、自信に満ち溢れているようだった。
昨晩、俺が倒れてからというものの後藤さんと、家族のことや今後のことをとことん話したそうだ。
「ありがとうございました!」
羅砂はスターウィングのセミナーで資格を取得後、テレビ局でプロデューサーになると言う夢があるそうだ。
「まだ若いから、どうにだってなる!諦めないで!」
「・・・ってやば!今日月曜日じゃん!会社じゃん!」
慌てて支度する俺と、早速参考書を買いに行こうと話している彼女。それぞれの朝が、動き始めようとしていた。
☆
「プルルルル、プルルルル・・・」
スマホのアラームが鳴り響く。時刻は夜六時。見回りの時間だ。俺は慌ただしくスターウィングの服に着替えるなり、家を後にした。
まずは一度スターウィングの事務所へ向かう。食事支援班や運転班と今日の見回りのルートと支援内容などの確認をする。何よりも周りを頼り連携をとることが必要なのは、俺が星来から学んだ大切な教訓だ。
「さあ、今日も行きましょうか」
後藤さんが発した言葉を皮切りに俺たちは動き出した。運転班はスターウィングのバスに乗り込み、今日の見回り区域である歌舞伎町のあたりから池袋までのルートを確認し、ナビに入れる。
俺たち見回り班もバスに乗り、SNSでの連絡やビラ配りの確認に追われた。
しばらくすると運転班が到着を知らせる合図が聞こえた。俺たちはバスから降り、辺りを見回す。
降りる時「自分の身は自分で守るように」と、声をかけられた。その言葉の裏には危険な地域に足を踏み入れたという意味なのだろう。
辺りを見回すと、そこら中にころがっているビールの缶やタバコの吸い殻、そしてなにより厚底ブーツにミニスカートをまとった子に、金色のネックレスを光らせたスーツ姿のホストらしき人が数名、まとわりつくようにいるのが目立つ。
「今日もひどいなあ」
スーツケースを引きずった髪を金髪に染めた長髪男も目に映る。光景に圧倒されている俺をよそに後藤さんは早速動き出した。
「最近困ってることはない?」
「何かあったら教えてね、力になるから」
「あっちで炊き出しやる予定だから来てくれたら嬉しいな」
彼らの多くはそんな言葉に耳もくれず、イヤホンをしている。しかし、何人かの子は後藤さんの方を振り向き、何やら会話をしていた。
「俺も負けてられねえ」
使命感のもとに、ただひたすらに声をかけ続けた。
何人かと話をしていくうちに、だんだんスターウィングという団体が歌舞伎町のなかでも浸透していることを実感する。「また来てくれたのか」「いつもありがとう」といった感謝の声すら聞こえる。これらすべて、後藤さんの努力の結晶だろう。
突然、俺はホストの男に声をかけられた。
「お兄ちゃん、なんで男が『素人』に興奮するかしってるか?」
「え?いや知らないですけど」
「『素人』の『自然な姿や表情』と『まだ誰のものでもない』オリジナリティを感じてるからなんだぜ!つまり男ってのは『素人』を欲してるんだよ」
突然「素人」の魅力を語りだすよくわからない人に出会った。どうした急に。しかしこの瞬間、俺も何かを感じた。
(「彼なら分かり合えるかもしれない」)
「そうっすよね!『素人』は自分にも手の届く可能性のある存在だからこそ興奮するんすよねわかります」
「やっぱりそうだよな!見た時からコイツは何か違うって思ったんだよ!よければうちの『素人専門店』でバイトしねーか?」
・・・ついその場のノリと悪趣味で行動してしまった(賢者モード)。そんな怪しいバイト、するわけねーだろ!
そうこう話していくうちに今まさに助けを必要としている人がいることを知った。
仲良くなったホストの一人についていくと、ビルの隙間わずか三十センチほどの隙間で、うずくまり、呻き声をあげている子がいた。周りには何人かの子が心配そうに背中をさすっている。
俺が近寄るなり、息を吸うのが苦しいと訴えてきた。辺りを見回すと市販薬の風邪薬の箱が大量に散らばっている。
「ODか・・・」
ODとはオーバードーズの略称で、市販薬を大量に過剰摂取することで、一時的に苦痛を和らげる効果がある反面、摂取許容量をはるかに超える量を飲んでしまうために呼吸困難や、最悪の場合死に至ることもある。
「肩持って!動くよ!」
俺は彼女を担ぐ。
「たとえどんな理由があろうが死んじゃだめだ」
果たしてそれが本当に正しいのか、俺にはわからない。彼女からしてみれば、死ぬ方が楽なのかもしれない。そんな迷いとともにただひたすらに少女を抱えながらバスへと走った。
バスに着くと、産婦人科医の雨宮先生が待ち構えていた。
「症状は?」
「呼吸困難の症状がありました、周りの状況から見て、おそらくODです!」
雨宮先生はすぐさまバイタルを確認し、酸素マスクを装着させた。
「Hrは145、Bpは80の下は測定不能!」
「五十嵐さん、そこにある生食を取って!それからすぐに救急を呼んでください!」
辺りは緊迫した空気が流れていた。
しばらくすると救急車が到着し、雨宮先生は救急隊員と話をしていた。
「簡易血液検査の結果、血液中ASTが105です。数値がかなり高いのでオーバードーズ、もしくは急性アルコール中毒の可能性が高いです」
「わかりました、状況を詳しく知りたいので誰か付き添いをお願いできますか?」
救急隊員が雨宮先生に伝えるなり、雨宮はこちらを向いた。
「彼が現場にいました、彼に行っていただくのが賢明に思います」
「後藤さんに現状報告をお願いします」
俺はそう言い残し、バスを後にした。
救急車のサイレンが夜の街に鳴り響く中、救急車に同乗した俺は、救急隊員に身元確認を求められたが、何も答えられない。
そんな中、インスタのDMにホストからのメッセージがあった。直接交換しなくともメッセージを送れるのがSNSの便利なところだと、改めて痛感した。
「ODしてた子って大丈夫でしたか?」
私は即座に返信した。
「今、救急車に運ばれているところです。とりあえず一命は取り留めたもののまた容体が急変する可能性もあるし油断はできない。この子の年齢と名前ってわかりますか?」
「確か名前は『ゆい』だった気がします、去年、十六って言ってたから今年は十七だと思います」
「わかりました!ありがとうございます」
すぐに救急隊員に内容を伝えた。警察にはすでに連絡済みで、身元照会の連絡待ちだそうだ。最近特にこのような事案が多いと隊員の一人がため息交じりに漏らした。
やがて病院に着くと裏口の救急入口に案内された。俺はそこで降ろされ、救急窓口の前で待っているように言われた。少女は担架のまま入り口に入って行った。
待っている間、スターウィングのSNSを確認していると炊き出しの様子が写真に収められ、投稿されていた。また、今日だけですでに三〇名以上の緊急保護の報告も添えられていた。
しばらくして、警察官と女医に付き添われて少女が戻ってきた。
警察によると少女の名前は高橋唯、年齢は十七歳。保護者はどちらも行方不明だそうだ。
「それでは、私たちはここで失礼します。また何かありましたら新宿警察署まで」
警察は何かに追われるようにそそくさと去って行った。やけに対応が雑だと嘆いていると、俺は女医に話しかけられた。
「エコーによる確認を行ったのですが、おそらく妊娠している可能性が高いです。おそらく推定九週といったところでしょうか。本人に直接聞いたところどうやら父親はわからないそうで、妊娠を隠すためオーバードーズをしたそうです」
俺は動揺を隠せなかった。
「わかりました、私も初めての状況なので一度代表の方と相談させていただきます」
女医は話し続けた。
「妊娠十二週目までは簡単に中絶が可能となりますし、法律上は保護者による親権も必要ありません・・・ですが、当病院で実施する場合責任者によるサインが必要となりますし、費用も二〇万円ほどかかりますので、そこのところもご確認ください」
すぐに俺は後藤さんに連絡を入れた。今日の炊き出しを終えたら、すぐに来てくださるそうだ。それまで俺は唯と二人きりで話をした。
「なんで妊娠に気づかなかったの?」
「体調は少し悪かったけど、ストレスか何かかと思って・・・」
唯は震える声で話した。
「だけどずっと続くから、友達に妊娠じゃないかって相談したら、ODすれば中絶できるって言われて・・・」
「相手は?」
「妊婦の方がいいって・・・かわいいからって・・・」
その後も詳しい状況について語ってくれたが、俺は生々しさのあまり言葉も出なかった。
「いくらなんでも、あまりに無責任すぎる」
唯の話を聞きながら、俺は言葉を失った。若くして大金を手にすることで金銭感覚が崩壊し、自己肯定感の欠如から少しの甘い言葉に騙されてしまう。根本には家庭環境の問題がある。この連鎖を断ち切るには、愛情と教育が必要だと、身をもって痛感した。
後藤さんが到着し、唯と話をした後、決断を下した。
「私が仮の親権者となり、責任者になります。費用は私たちが負担します」
俺は胸を撫で下ろした。
病院側も特例として治療費をタダにしてくれた。対応してくださった先生や事務の方にお礼を言い、俺たちは病院を後にした。時計は夜の九時を回っていた。
後藤さんが迎えのタクシーを呼ぼうとスマホを開くと、突然ニュース速報の通知が飛び込んできた。その内容を見るなり、後藤さんは固まった。
「うそ・・・」
「どうしたんですか?もしかしてスマホのバッテリー切れました?」
俺が聞くなり、彼女はスマホの画面を見せた。
「【速報】秋葉原でトラック追突炎上、死傷多数」
そして添えられた写真には無惨にも横転したスターウィングのバスが映されていた。
「・・・・・・・・・」
俺たちは現場へ向かった。周辺の道路は報道関係者や救急車やタクシーで渋滞していた。
現場には規制線が引かれ、警視庁と書かれた服を着た男たちが詰め寄る報道陣を背に規制線を守っていた。無造作に横転する複数の車両、そのうちのいくつかは炎上していた。
道端で意識が朦朧としている人、倒れている人、あちらこちらで聞こえる叫び声に飛び散る血痕の赤茶色。エプロンは赤色に染まり、顔は黒く煤のついたままで慌ただしく走る消防や救急隊員。警察はその周りに設営されているテントで被害者の身元確認や状況確認を行っていた。現場に秩序は存在せず、悪夢を見たかのように時が進んでいった。
一歩進もうとすると、誰かの血や肉片が地面に飛び散っていて妨げようとする。横断歩道の白線は赤茶色でわからなくなっていた。
足が震える中バスを探していると、炎上している炎の中にそれはあった。
中にはまだ人が残っているらしく声が聞こえる。消防隊員が懸命に消火し、救助しようとしていた。
「・・・たす・・・けて・・・」
聞き馴染みのある声が聞こえた。
「この声は・・・雨宮先生・・・?!」
すぐに俺は近づこうとした。が、近くにいた警察に声で制止されてしまった。後藤さんはそれでも進もうとした。
「中には保護した子達がいるから・・・!」
「まだ、火が止まってないから!危ない!近寄らないで!!」
警察が後藤さんに掴みかかり、それとほぼ同時にバスから聞こえた声も止んだ。
やがて火は完全に消え、車内から黒く焦げた遺体がいくつも運ばれていった。その中には俺にメッセージをくれたであろうホストや、雨宮先生も含まれていた。
周りにはスマホをこちらに向ける人や、カメラマンの人たちが集まり、フラッシュが星のように瞬いていた。その光の海の中、夜空の中にある星は姿を見せず、深々としていた。
どこにぶつけていいかわからない怒りを彼らにぶつけようとし、「人でなし!」と叫んでいる人を背に、俺はその場で泣き崩れた。
(「なんでこう、一人助けるとまた一人死んでいく・・・」)
世の中の不条理さに打ちのめされた瞬間だった。
その後、後藤さんは警察に呼ばれ、事情を聞かれていた。
誰か恋人が置いたのだろうか。現場には、黒く焦げた赤い薔薇が手向けられていた。
やがて観客がいなくなると、あたりはお化け屋敷のように恐ろしい静けさに包まれた。人々の喧騒は遠のき、あたかもここだけが社会から分断されているかのような気がした。
その時、恐怖に立ち向かうように一筋の光が煌めき、辺りを照らし出した。まるで全てを見渡す瞳のように静かに、しかし確かに存在している。光は柔らかく周囲の暗闇を切り裂くように差し込み、恐れを少しずつ和らげていく。
「一番星の光だ…」
思わず呟く。その星の光は地球のあらゆる場所に平等に降り注いでいる。この瞬間、世界のどこかで辛い思いをしている人々がいるかもしれない。しかし彼らにもまた、一番星の光が降り注いでいるのだ。どんなに暗い場所でも希望の光は決して消えない。
その光を見つめながら俺は心の奥にあった不安が少しずつ薄れていくのを感じた。恐怖は確かに存在するけれど、光があればどんな闇も乗り越えられる気がした。俺はその瞬間、運命を変える力が自分の中にあることを確信した。
「さあ、行こう」
静まり返った空間に向かって、俺は一歩踏み出した。光が導く先には、きっと新しい世界が待っている。恐れを抱えながらも俺はその光を信じて進むことにした。どんなに暗い道でも希望の光があればきっと道は開けるのだから。
事務所に戻るなり、メンバーの一人から労われ、ペットボトルを貰った。それを飲みながらテレビをつける。どのテレビ局も連日、そのことについて報道していた。
現時点でわかっている死者は十七人、重軽傷者は二〇人を回るとの報道がされていた。また、警察官の中にも死者が含まれていることも伝えていた。そしてどうやらただの事故ではなく、通り魔事件だったようだ。
犯人が現場となった交差点に向かって大型トラックを走らせ、大規模な火災を発生させるために現場付近にガソリンを撒いていた。
何より腹がたったのが犯人の動機だ。犯人はインターネット掲示板で煽られたことに腹を立て、自分の存在感を高めるために通り魔的事件を起こしたそうだ。
「自分勝手な理由のために多くの人を傷つけて・・・」
怒りと悲しみが込み上げて来るあまり、食事すら喉を通らなかった。
そして同時に「愛情の欠如がこんな事件を引き起こすのか」と犯人に微かに共感してしまう自分にもまた、腹が立った。
犯人の「注目を浴びられるなら(殺す相手は)誰でもよかった」という肉声を忘れられる時は二度とこないだろう。この悲劇を通じて私たちの活動の重要性を改めて感じた。
愛情と教育を通じて少しでも悲劇を減らしていく。星のように夜空を照らす目印になる。それが私たちスターウィングの使命なんだ。
☆
夜闇が明け、日が出でようとしている中、後藤さんが戻って来た。疲れ切った様子で私たちの前に立った。その顔には今まで見たことないような重圧が刻まれていた。
後藤さんが今回のスターウィング関係者の被害を伝えた。
「スターウィングのメンバーの死亡が一名・・・」
その言葉が部屋中を沈黙に包んでいった。
「見回り班は各病院を、運転班は車を出してください。それ以外の人は事務所戻って引き続きSNSやメディアの対応、食事作り、今保護している方へのメンタルの支援をお願いします」
俺は保護している子たちが気になり、施設へ向かった。扉を開けるなり、今回の事件を心配する声が相次いで聞こえてきた。
「何があったの?」
「みんな大丈夫なの?」
深呼吸をし、俺はありのままの全てを話した。今回亡くなった人の知り合いもいて、一度会いたいと言う子もいた。
SNSを見ると「俺らのせいで死んだ」といった意見で埋め尽くされていた。スターウィングの活動停止を求める声も高まり、中にはスターウィングの事務所前に居座り抗議し、活動を妨げるような人もいた。
その都度警察に連絡はしていたが、スタッフが対応に追われ、みるみるうちに疲弊していったのは言うまでもなかった。
代表の後藤さんも例外でなく、一時は活動もできないほどに落ち込んでいた。ストレスからか一日中ベッドで横になっていたり、食事もほとんど配達を利用したりと家から一歩も出ない生活が続いた。
まさに犯人が俺らの生活を変えてしまったのだ。スマホを開けば届く俺らへの悪口、しかし、何をするにもスマホを見ないわけにはいかず、また落ち込んでしまう。このループだったのだろう。
一方の俺はというものの、後藤さんの後を継ぐ形でスターウィングの代表(仮)になっていた。しかし、俺は圧倒的に経験不足。周りのサポートを借りながら続けていた。事務仕事までもこなす後藤さんがいかに凄いかがよくわかった。