諸行無常
《諸行無常》
しばらく呆然としていると、スマホに通知が来ていることを知らせた。
「星来からだ!!」
胸の鼓動が早まる。焦りと不安とが入り混じれた中で、俺はチャットをひらいた。
「自分で進んだ道を正解に思える人生を送ってね。ファイト!」
俺は何かを悟った。そして、いざその状況になると、ただ部屋の真ん中で泣くことしかできないのかと、自分の無力さを強く感じた。
「二十分前、八丁目駅近くで人身事故、復旧未定」
ふと視線をテレビに向けると、八丁目駅前が騒然としている映像が映し出されていた。その瞬間、俺は風になった。一心不乱に自転車を漕ぎ、八丁目駅まで向かった。道中、夏祭りの思い出が蘇る。近くを通ると、すでに多くの報道陣と警察、消防の人がいた。
「・・・うつっている監視カメラがないか確認してきます・・・」
「・・・いつごろが死亡推定時刻ですか・・・」
「・・・びっくりしましたよ。こんなに若くて綺麗なのに・・・」
「・・・いまのところ、誰かに押された可能性が高いですか・・・」
「・・・むこうにある遺品をご遺族にお届けしてあげてください・・・」
現場にいる多くの関係者の声と雑踏とが入り混じる現場。騒然とした中で一人、現実に唖然としていた。あたりは暗闇に支配されていき、しんとしている中、現場だけは眩しく照らされていた。
やがて救急車に運ばれていく担架を見たとき、一瞬だけ目が合った気がした。そのとき、流斗と星来との間に、流れ星が落ちたように感じた。
「綺麗・・・だな」
その瞬間、流れ星にのって星来の声が聞こえた気がする。
「ねぇ、流斗くん」
高い声に胸が締め付けられる。
「流れ星っていうのはね、キラキラ輝いてすぐに消えちゃうでしょ?」
目を閉じると、星来のかわいい笑顔が浮かぶ。
「でもね、だからこそ美しいんだよ」
喜びも悲しみも、全てが鮮やかに蘇ってくる。担架に横たわる星来の手には、赤い薔薇が三本、握りしめられていた。
夜空を見上げると、他のどれよりも明るい一番星がどこか孤独そうに輝いていた。