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一期一会

ちょっと展開はやめかも。

今後に乞う期待。


 俺は今、とても充実している。

 その距離十五センチ。わずか千円札一枚ほどの距離。聞こえてくる心音、吐息、そのすべてが僕をおかしくしてしまう。

「はぁ・・・星来っちの匂い、やばすぎ・・・」

 思わず漏れた俺の呟きに、星来っちが首を傾げる。

「え?なに?きこえなかったんだけど」

「い、いえ!なんでもないっす!」

 ったく、こんな至福な時間を過ごせるなんて、俺、生まれてきてよかったわ。マジで。

一年前の俺なんて文化部の隠れた文才の持ち主にすぎなかった。そんな俺が激かわJDを至近距離で拝めるだなんて、家庭教師と生徒という特別な関係があってこそだ。いつか彼女を俺だけのものにしてやる!

 ・・・なんて考えている間にも、星来っちの柔らかな髪が俺の頬をくすぐる。

「ねえ、聞いてる?」

 彼女は現役JDの家庭教師。名前は古橋星来。

「ねえ、ねえってば!!また寝てるの?一体どんだけ寝れば気が済むのよ!!」

「男子高校生の睡眠欲を舐めてもらっちゃ困りますよ。授業中だろうが通学中だろうが、時間さえあればものの数秒で睡眠という深い海に一瞬で飛び込めますもん」

「まったく、やる気ないんだったらもう帰るわよ!」

 ツンツンしてる星来っち、今日もかわいいなあ。

 遅ればせながら、俺の名前は五十嵐流斗。高校の二年。もともとは新聞文芸部に入ってたんだけど、成績が悪すぎたために母親の逆鱗に触れてしまい無理矢理勉強させられるハメに。

 しかし、偶然ウチに来てくれた家庭教師がかわいすぎて、そりゃ勉強なんか手付かずだわ。仕方ない。なんだかんだ部活やってた頃よりも今の生活の方がサイコー!!母親ナイス判断!

「さっきからなにニヤニヤしてるの?気持ち悪いよ」

 星来っちの声が、耳元で鋭く響いた。そろそろ星来っちがお怒りのご様子だ。仕方ない、真面目に受けてやるか。 

「・・・古橋せんせー、やっぱわかんないです」

「また学校の授業聞いてなかったの?えっと、ここはね、ここに補助線を引いてあげてあげると・・・ほら!メネラウスの定理でしょ?」

 っておいおいまじかよ。そんなに近寄られちゃうと、その、「モノ」が当たっちゃうよ!柔らかくてふわふわな「モノ」が腕にあたっちゃうよ!!

   (もしかして、これは「意識的」にあてにいってるのか?誘ってるのか?!)

 密室で男女二人きり。何も起きないわけもなく・・・なんて妄想が爆発する。

「・・・って何触ってるのよ!この変態!!」

「まったく、これだから思春期の男子高校生は。カラダのラインみてないで、図形のライン見ててよね」

 怒号とともに、激しく心が痛めつけられた。星来っちの冷ややかな声と目線、末恐ろしい。

          ☆

「古橋先生、そういえば質問なんですけど、英単語ってどうやったら覚えられますか?」

「うーん、それはね、ひたすらに音読して書いて、また音読して・・・を繰り返すしかないかな。もしかして学校で課題が出てるの?」

「実は英単語500単語を期末までに覚えてこいって言われてて・・・」

「そしたらさ、いまから一緒にやっていこっか!」

 星来っちのこういう優しいところが好きなんだよなー。ああ、心が浄化される。

「・・・アドバイス・・・助言する・・・advice・・・助言・・・」

「そういえば先生、adviceとadviseってどっちも似たような意味なのに、なんでスペルが違うんですか?」

「それはね、実は語源が関係してて、ラテン語での「ad~」と「~videre」というのが合体してadviceとadviseとが生まれたんだけど、当時の人も「助言する」なのか、単純に「助言」なのか、文字を見たときに一発で見分けずらかったみたいなんだよ。だから区別したんだって」

「他にもlicenseとlicenceは、イギリス英語かアメリカ英語かによってスペルが異なってくるし、deviceと deviseも、アドバイス同様、品詞によって変わってくるよ!」

「へー、そうなんですか!やっぱ何でも知ってる古橋先生って神ですね!」

 自分からしてみたら神どころか天使だよ。教え方も面白いし、好きになっちゃう。

          ☆

「今日はありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました!来週もよろしくお願いします!」

 至福のひと時が終わりを告げてしまった。毎週水曜十八時から一時間の癒されタイムが。虚しさを感じつつ、テキストやノートを片付けていると、ふと、あるものが目に止まった。

「ん?ゴミか?」

 よく見てみると、それには「八丁市夏祭りチケット」と書いてある。

「この前母さんから貰ったやつか。どうせ今年も一緒に行く人いないし捨てちゃお」

 ゴミ箱に手を通し、ゴミを手から離そうとした瞬間、ある考えが脳裏をよぎった。

「星来っち誘えるかな」

 物はためし。来週、直接聞いてみることにした。

          ☆

「夏祭り一緒に行きませんか?」

「えっ、急にどうしたの?(笑)それにどこの夏祭り?」

 驚いたような、と言うよりも半分呆れた様な声だった。

「八丁目駅あたりで毎年やってるやつです!先生!一生のお願いです!!」

 こちらの誠意(?)として、あれはまさしく半○直樹も唸るほどのスライディング土下座をしてみせた。

 と、次の瞬間、

「おっと、おっとっと!!!」

 スライディング土下座の瞬間、俺は体勢を崩してしまった。スローモーションを見ているかの如く。そのまま星来っちの方へ倒れていった。

「オワッタ・・・」

 星来っちとの思い出が走馬灯になって頭を通り抜ける。

 ドサッ!

 その瞬間、俺の顔を予想していた地面の感触ではなく、何か柔らかいモノが受け止めた。

   (これは・・・もしかして・・・!)

 弾けんばかりの幸福感と、多少の罪悪感。しかし、そんな甘美な時間も束の間。

「ッ・・・変態っ!!」

 頬に激しい電流が走った。と同時に、俺は宙を舞った。

「いってぇ・・・」

 しばらくして、目蓋をあけると心配する星来っちの顔が。

   (なんだ、俺、まだ生きてたのか)

「ごめんね、流斗くん。やりすぎちゃった」

 涙目うるうるの星来っち。やっぱかわいい。

「その、さっき言ってた約束・・・その・・・・・・オッケー・・・だよ・・・」

 星来っちの麗しいお顔が、みるみるうちに赤面していく。

 一方、俺はというと、さっき言ってた約束?なんだっけそれ。

 俺の脳はフリーズした。というかいろんな感情が複雑に交差して心の中がスクランブル交差点。ちなみに朝ごはんにはスクランブルエッグ。

「もしかして・・・さっきの約束って・・・夏祭り?!?!」

「う、うん・・・」

 照れてる星来っちかわいしゅぎ。

 そこからの記憶は、ほとんどない。ひたすらに喜んで、夏祭りで何するか話し合って・・・。ただ星来っちも俺も、勉強なんかすっかり忘れていたことだけは覚えている。

「よっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 輝いた瞳は、夏の日差しの様に眩しかった。そしてついに、星来っちのLINEもゲットできたのだ!!

 この瞬間、俺らが「家庭教師と生徒」という一線を超えた日でもあった。

 そこからの俺はというものの、勉強に身が入り、成績はぐんぐん伸びていった。なぜかって?だってわからないことは星来っちに聞けるのだから。

 勉強を教えてもらいながら、ふと星来っちの横顔を見る。これほどまでに至福なひとときは他にない。それと同様に、星来っちへの想いも比例していった。

 青春ってこんなに眩しくて幸せなものなのか・・・。そう思いながら毎週水曜十八時。テキストを広げる。

 今日も星来っちに会える。それだけで胸がいっぱいになる。


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