「暴れ風」
「そんで、司令さんや。俺を至る方法を使ってここに呼び出したということは何か事情があるのだろ?」
俺はソファでわくわくしながらケーキを司令室のお皿に乗っけている若奈にミルクと砂糖多めの珈琲を渡し、自分のブラックコーヒーのコップを目の前の机に置いて座った。
そしていかにも偉そうな人が使う机にの前に座っている司令の方を向きそう聞くと、司令はゆっくりと口を開いて話し始めた。
「実はだな。六王魔導師の暴れ風の彼女がこちらに帰ってきていて、何やら君に会いたいと言っていたのでな。こちらに呼び寄せたんだ。」
「…「風王」が俺を呼んだ?あの戦う事にしか娯楽を見出していない単細胞のあいつが俺に会いたいって言うなんて、どう考えてもおかしいだろう。」
「まぁ…そこの事実確認は今から入ってくる彼女に聞きなさい。」
司令がそう言うと、頑丈で重たい司令室の扉がまるで爆発したかのような音と同時に俺と若奈の方向に飛んできた。
俺は若奈を引き寄せ、どうなっても当たらないようにして水の簡易小結界を発動させ、飛んでくる扉を止めた。
扉を投げ飛ばすと、扉があった場所から出ている砂埃の中から人影が薄らと見え始めた。
「やあやあ六王の中の1人!「水王」よ!元気にしていたか?」
「…この通り最悪の気分だよ。大部分…いや、ほぼほぼ全てはお前のせいでな。」
立ち込める砂埃の中からは、緑色の髪を高く1つ結びにしている元気そうな美少女が現れた。
彼女こそが六王魔導師のうちの1人。現代最強風魔法使いの「風王」事、「五十嵐 沙耶」である。
彼女を説明する上で言えることは、「言葉で伝えるより見てもらった方が早い」というのが特徴である。
実際今の一連の流れで彼女の脳筋ぶりは大いに理解出来たことだろう。
「…で、俺に何の用だ「風王」。」
「おっと神崎くんよ。プライベートの時は2つ名ではなく本名で呼ぶのが常識だと思うぞ?」
「はいはい、わかったよ五十嵐。そんで俺に何の用だ?」
俺たちと対面のソファに腰掛けた五十嵐に、俺は寄せていた若奈の肩を離して座り直し質問し直した。
「いや?特にそんなかしこまって聞くような用件は無いさ。ただただ遠方の出張から帰ってきたものだから君の顔でも見ておこうかと思ってね。」
「…つまりはただの生存確認のためだけに俺は深夜徘徊をさせられたというわけか。」
「まぁ、端的に言えばそういうことだな。」
あまりの適当さに俺は思わず深いため息をついた。
生存確認は連絡をせず直接確認。任務中は俺たちの決めた作戦や、司令室からの敵の位置以外の指示を基本無視が当たり前。
以上のことから分かる通り、端的に言ってしまえばめんどくさいやつである。
そんなこいつも『六王魔導師』の中では俺の上にあたる序列一位である。
というのにも事情があり、実力的に言ってしまえば俺と風王がタイマンで戦った戦績は135戦132勝2引き分けと言ったように実力は俺のが上である。
では何故俺ではなく五十嵐が序列一位なのか。
それは、六王魔導師の序列一位は組織関連のパーティーへ参加をしなければならないからだ。
俺を含めた五十嵐以外の5人は、学生の身分であったり社交界の礼儀を知らないもの達ばかりである。
なので俺たちの中で唯一お嬢様上がりで社交界にも理解がある五十嵐を序列一位としてパーティーへと参加させることにした。
「まあまあ、そうため息をつかなくてもいいじゃないか。別に何か用が無いと会いに来てはいけない訳では無いだろ?」
「それはそうだが…。もうなんでもいい、どちらにせよ俺はもう帰るからな。」
俺はソファから立ち上がるとケーキを食べ終え、コーヒーを飲みながらリラックスしていた若奈がこちらを見上げてぼーっとしていた。
「どうした若奈?何かあったのか?」
「いや、久しぶりに五十嵐さんや司令にも会えたのにもう帰るのかなって思って…。」
若奈は少し寂しそうな声で話しながら、手にあるコーヒーカップの中の茶色い液体をクルクルと回している。
もちろん、こんなに悲しそうな声で言われて断れるような俺ではなく、俺はもう一度若奈の隣に座った。
「…仕方が無いからもう少しだけここに居るか。学院が休校なら特にこの後の用事も無いわけだしな。」
「…!ありがとう裕くん!」
満面の笑みで感謝を伝えてくる若奈に、俺は特にリアクションも取らずに机のブラックコーヒーを1口、口元へと運んだ。
その時
『緊急招集!緊急招集!街中にて銀行強盗事件発生!犯行人数は3人、全員が『上級』と見られます!!』
緊急の事件を知らせるアラームが部屋中に鳴り響き、俺と五十嵐はその場で立ち上がった。
「司令。この事案の解決は私と裕也に任せてください。」
「ああ、2人に任せる。『こちら司令部そちらには『風王』と『水王』が向かう。』」
司令が無線で俺たちの出動を報告すると、部屋の無線機から『了解』の2文字があったため俺たちは出動の準備をした。
「いや〜、こっちで事件対応をするのも久しぶりだな〜。一体どんな事が起こっているのか楽しみだ。」
「…また暴れすぎで街中壊して怒られるなんて真似はやめろよ。後処理が面倒だからな。」
俺がそう言うと五十嵐は「分かってる分かってる」と、明らかに分かっていないような返事をしたため、俺は不安な気持ちのまま司令室の扉を出た。