「水の魔道士」
※この作品はフィクションです。実際の人物、建物、大体等とは一切関係がございません。
また異能力作品をあまり知らない為、人物や話の類似がある可能性がありますがご了承ください。
「きゃぁぁぁァァ!!!助けてぇ!!!!!」
暗闇に染まった街の人通りの少ない路地裏で、女性の甲高い叫び声が響き渡った。
それは悲鳴とも聞こえるような声色であり、事件性を感じるようなものであった。
「へっへっへっ、そんなに叫んだって助けが来るわけ無いんだな!何せここは人通りが少ない上に初級の魔術師達が大半を占める住宅街だ!」
「そうだそうだ!もし人が来たとしても俺たち中級には到底敵わねぇんだよ!」
男2人組が1人の女性を詰めているようで、女性の方はものすごく恐怖を感じているような表情をしている。
まるで蛇に睨まれている蛙のようだ。
「まぁ、さっさとそのカバンを置いていくんだな。その命が惜しければな…」
「男2人でか弱い女性をいじめて、挙句の果てにはカツアゲだなんて。流石は中級の底辺魔術師さん達だ。」
男2人が女性の持っているカバンを奪い取ろうとした瞬間、どこからか侮辱の意味が込められた言葉が飛んできた。
男達はその声に反応し当たりを見渡すと、頭上の低めの建物の上に人影が1つあるのが見えた。
「な、なんだとお前!!俺たちが中級の底辺だって!?俺の能力は「火炎使い」だぞ!!」
「そうだ!数ある能力の中でもトップに近い能力種なんだぞ!!」
男達が口々に言葉を叫び放つと、建物の上で座って聞いていた人影は下へと降りてきた。
まるでここは通さんと言わんばかりに建物で塞がれた行き止まりとは逆の場所に着地し、男たちの退路は絶たれた。
「トップに近い能力種だからと言って、使い手が悪ければそれはただの戯言に過ぎない。そもそもそんな序列にこだわっている時点で3流以下だな。」
「な!なんだとお前!!よしわかった!!お前からやってやる!喰らえ!「火炎弾」!!」
男が放った火の塊は空中で形を変え、殺傷性の高い弾丸状へと変化していった。
弾丸状になり空気抵抗が減ったせいか、少し速度が上がっているようだ。
しかし
「はぁ…。結局あれだけいきがっていたのに既存の発想に頼るだけの雑魚か…。」
「あぁ?」
人影がそう言い、人差し指を伸ばした右手を下から手首で振り上げると、突然火の弾丸に水の槍が突き刺さり……消滅した。
火の弾丸を放った男は何が起こったのか理解が出来ておらず、動揺を隠せない表情をしていた。
「な、な、な、何をした!!今のはなんだ!!俺の「火炎弾」が、一瞬で消滅しただと!?」
「はぁ…こんな事も分からないのか。仕方が無いから説明をしてあげよう。君の火の弾丸に俺の水の槍が刺さって蒸発した、以上説明終わり。」
端的にそう説明をし、面倒くさそうな態度をとっているが、「火炎使い(フレイムマスター)」とは別のもう1人の男がその光景を見て震えていた。
「さっきの水の槍…。それにあそこまで洗礼された魔力操作…。まさか!!お前は!!いや、あなたはまさか…あの「六王魔導師」の序列第2位、「水王」!!」
「おお、君は魔法の見る目がとてもあるみたいだね。魔法鑑定士として真っ当に生きていればまあまあ良い位までは登れたと考えると残念だ。」
そう言うと「水王」と呼ばれていた青年は深めのため息を吐き、いかにも呆れたような態度を取っていた。
その声色からも分かる圧倒的な余裕感と、極限まで抑えられているがそれでも尚感じる魔力の威圧感は、矛先では無い女性にも若干の恐怖を感じさせた。
「あいにく、俺は君達みたいに努力せずに立場だけで偉そうな態度を取るやつが大っ嫌いでね。流石に脅迫罪と窃盗未遂まで行ってどうぞって見逃す訳にもいかないんだよね。」
笑顔で男達を見つめているフードの中からは、戦慄を覚えるほど冷たい碧眼が見えており、まるで宝石のような眼で睨まれた男達はあまりの恐怖に気を失ってしまった。
青年は男たちが気絶したのを確認した後に水の縄の様なもので男たちを縛り上げてから目を閉じ、少しの間静寂に包まれたと思っていたら、瞬きをしたその間に黒のコートとフードを被った数名が青年の前で伏せていた。
「「水王」様。「特殊防衛部隊」只今到着致しました。」
「ああ、こんな遠くまで御苦労だった。それじゃあそこの倒れ込んでいる2人組の男を脅迫罪と強盗未遂でぶち込んどいてくれ。そしてそこの女性は事情聴取と保護で頼む。」
「は!承知致しました!」
数名の先頭にいた女性は青年の報告を聞き終えた後、縛られた男達と女性を引き連れて暗闇に包まれた都市の中へと消えていった。
* * *
「ん〜!!!はぁ…。終わったぁ〜。」
めんどくさい仕事を片付けた後、俺は少し伸びをした。
突然依頼された夜間パトロール。それに加えて最上級にイキっている「中級」の魔術師2人に普通の事件対応をしなければならない。
この上なくめんどくさい。
「はぁ〜…。もうこれ以上めんどくさいことが起こらずにパトロール終わってくれよ〜。」
俺はそう祈りながらまた暗闇の中へと飛び立って行った。