暖炉の先は
「暖炉の先にはね、宇宙があるんだよ」
暖炉の前で眠っているぼくに毛布をかけて、兄さんが言った。
眠っているふりをしていると、背中をトントンしてくれる。
ぼくはこれが大好きだ。
火がぱちぱちと歌う。
ほっぺも、からだも、じんわりとあたたかい。
なんだか眠くなってきた。
「暖炉の火の先を辿って長い煙突から出た時には、真っ青な地球を見下ろすことができるんだ。行ってみる?」
なんでだろう、目を閉じているのに、溶けたオレンジのアメのような炎の先が踊っているのが見えた。
ひら、ひら、と妖精みたいに。
炎の羽がぼうっと大きく揺れたとき、
ぼくは初めて空を飛んだ。
「そのまま、煙突の中へ」
掃除機に吸い込まれていくように、ぼくは上へ上へと引っ張られていく。怖くはない。ジェットコースターが後ろ向きに走っているような、そんな感じでちょっと楽しい。くすくす笑うと、背中をトントンしてくれている兄さんも笑った。
「さあ、もうすぐかな」
兄さんの言葉で、スポンッとぼくは煙突から飛び出した。
黒い画用紙に宝石を散りばめたような宇宙の中で、一人ぷかぷか浮いている。
ぼくの家の煙突が、しゅるしゅると縮んでいく。
その先に、地球が見えた。
青い海に、サンタクロースの髭をちぎったような雲、ぼくがまだ一度も完成させたことのない世界地図が、ひとつの丸いボールになってぼんやりと光っている。
なんてきれいなんだろう。
この中のすみっこにぼくがいて、兄さんがいる。
たくさんの人たちが、笑ったり、泣いたり、嬉しくなったり、怒ったりしているなんて、不思議だった。
「おいで。色々見に行ってみよう」
それからぼくは、兄さんの案内でたくさんの星にジャンプした。宇宙にはいろんな石が飛び交っていて、上手によけなければいけないのだ。エメラルドの石に乗って、ガーネットの星に着地して、ダイアモンドの天の川を走って。
全部回って、ぼくはまた地球に戻ってきた。
そこに、誰かが立っている。
長い髪に、薄紫のワンピース。
「会っておいで」
とん、と背中を押されて、ぼくは恥ずかしくて手を握っていたけれど、お母さんがぼくを呼んでくれた時には、全力で走っていけた。
ぎゅっとしてくれて、頭を撫でてくれて、ぼくは久しぶりのお母さんのあったかい手をしっかりと握り返した。
「……おはよう」
ぼんやりと目を開けると、兄さんがぼくを見ていた。
ぼくはすぐに抱きつく。
嬉しくて嬉しくて、ぼくは兄さんに今見た夢を話すのだった。
読んで下さり、ありがとうございます。
なろうラジオ大賞参加五つ目です。