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猫とシオンと日没する国の果ての果て  作者: 大本営
第一章 猫とシオンと日ノ本オンライン
6/26

第6話

 種族:ケット・シー

 名前:ケイ

 LV:1


 緑の大地に立つ僕の上に、理解できない文字が表示された。

 これ呪いじゃないよね?

 僕は猫のふりをしているだけで、別に隠しているわけではない。それでも「僕、妖精族のケット・シー。よろしくね!」と、ばらして回る趣味はないのに。

 本当に頭に来るけど、どうやらこの表示は消せないらしい。

 名札じゃないんだからさ。

 あとLV 1という文字も気になる。

 レベルという概念がなにかは知らないけど、微妙に馬鹿にされてるような。


 僕、これでも500歳以上のケット・シーだよ?


 もっと敬意を払ってほしい。

 具体的には、年齢=レベルとか。

 不平不満と口にしていると、空中に文字が表示された。


「貴方は『日出ずる国 日ノ本オンライン』を、初めてプレイされますか?」 

「Yes or No?」


 意味不明の二択。

 初めてだからなんだというのだろう?

 差別はよくない。

 僕は至高神たるマルドゥク様相手でも、NOと言える猫なのだ。意味不明のメッセージに対して、当然のように「No」を選択する。


「貴方が初心者ではないことが確認できましたので、ノーマルモードが解放されました。ノーマルモードを選択できるようになりましたが、イージーモードのままゲームを開始しますか?」

「Yes or No?」


 ノーマルモードってなんだよ! 

 初心者無用の不親切仕様に怒り満点の僕は、今度もNOを選択する。


「ノーマルモード適応により、戦闘で敗北しても戦闘開始前に戻れる回数は1回だけに制限されました。またノーマルモードが選択されたことにより、チュートリアルモードは不要と判断されましたので注意して下さい」


 チュートリアルモードがなにかは知らないけど、気にしないことにしよう。

 うん、そうしよう。


「ノーマルモード適応に伴いハードモードが新たに解放されましたが、ノーマルモードでゲームを開始しますか?」

「Yes or No?」


 当然のようにNOを選択しているので、選択というよりNOを押す作業と化している。メッセージが理解できないのはあるけれど、これでよかったのだろうかと少し不安になる。

 正直、分からないなりに理解する努力をするべきだったのかもしれない。

 でも、戻るというボタンが存在しないのだ。


 ……泣きたい。




「ハードモード適応により、戦闘で敗北しても戦闘開始前に戻ることは不可能になりました」



 墓穴を掘っている気がするが、振り返ってはいけない。

 「ふっ、僕は過去を振り返らない猫なのさ」と嘯く。

 嘘です。

 もう自棄だ!

 後退など敗北主義者の言い訳に過ぎない。前進あるのみ! と無理やり自分を鼓舞する。





 ザザァ、ザザァ、ザザァァァァァ。




 全身を舐めるように見られたように感じたと思ったら、波のような音を上げて一瞬画面が切れた。

 故障かな?

 まあ、いいや。

 そろそろ解放されたいので、故障であっても終了するのは都合がいい。

 さっさと、この場を後にして街を探しに行こう。

 けど数秒が経過すると、再び表示された。

 ちっ、壊れたままでいいのに。




「……最後の質問です。貴方は別のゲームないし、別の世界からコンバートされたキャラクターと運営によって認識されました。貴方のようなバグかウィルスじみた存在に対して、運営はベリーハードモードを適用する方針です。ベリーハードモードではアイテムボックスに保有できるアイテム数が、装備を含めて9つに制限されます。

 相当にきつい制限ですが、運営は非常に情け深い存在です。

 貴方が頭を垂れて自らの罪を認めるならば、事情を考慮してベリーハードモードの適用を特別に免除してもよいと申されています。どうなさいますか?」

「Yes or No?」


 よくわかないけど、断罪されている気がする。

 まったく内容が理解できないけれど、とてもとてもよくない流れな気がしてならない。

 僕はゲームを開始すらしていないので、罪を犯していない――と思う。NOばかり選択しているけど、いくらなんでもそれを罪とは言わないでしょう?

 だったらマルドゥク様がなにかヘマをしたのかも。

 いや、そうに決まっている。

 僕は絶対悪くない!

 運営という不可思議な存在に追い詰められている気がするけど、理解不能な問いには不同意の意志だけは押し通そう。どんな逆境でも意思の表明は重要と、マルドゥク様から僕は嫌というほど学んでいるのだ。


 ……悪い予感しかしないけどね。


 いやいや弱気になってはいけない。

 僕は至高神たるマルドゥク様相手でも、NOと言える猫。

 躊躇しないではないけど、NOを選択する。




「己を偽らず、安易な妥協しないですが。高貴な精神を持つこと方をお見受けしました」


 あれ?

 よく分からないけど、褒められた気がする。


「『高貴な魂を持つ勇者には、それに相応しい処遇で応じよう』と、運営が申されています。貴方にはベリーハードモードを適用した上で、ステータス値を本来の値から1/10に修正します。コンバートによるステータス減少は、本来あり得ませんが例外です。これは罰を与えることを目的にしたペナルティーはありません。自ら困難な道を選び続ける被虐思考の貴方のために、運営が特別に用意した御褒美です。

 代わりに運営は、貴方のような存在がゲームに参加することを、御認めになりました。


 喜びなさい。

 むせび泣きなさい。

 感謝なさい。

 そして讃えなさい。

 心広き偉大な存在を!


 さあ、旅立つのです。

 ケット・シーのケイよ。

 貴方の旅が良き日々であらんことを!」




 壮大な讃美歌と共に、巨大な虹の橋が空に現れた。

 数分にも及んだ演出が終わりを告げると、メッセージも同時に消滅する。

 

 侮辱されて枷まで嵌められたのに、最後は何故か祝福されたような?

 語るべきは語った。

 生意気な猫如きが、生き残れるならやってみやがれクソ猫が!

 と言われた気がする。

 違うかもしれないけど、ステータス値とか運営が認めるとか、まったく理解できない内容が書いてあったので、適当に解釈するしかない。

 取り返しがつかない事態に直面した気がするけど、前向きに行くとしよう。


 そうだ。

 まずは、街は目指そう!

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