日常3
長くなってしまいました、
朝、12時に起きた俺はリビングのテーブルに置いてある紙をみて呆然としていた。
・魔法学校大運動会に行ってきます。お留守番よろしく。来てもいいからね!
俺は昨日の記憶を少し掘り返してみた。
昨日の夜、フレアとフローガがいつもより2時間ほど遅く帰宅してきた。
疑問に思った俺はなぜいつもより遅く帰ったのかを尋ねた。
そうするとフレアが元気よく「ぶっ放してきた!」と言ってきたので俺はフレアの有り余るエネルギーを消費してきたのかと思っていた。
だが、これは翌日に控えた魔法学校大運動会に向けての練習だったらしい。
俺は日本にいた頃を思い出す。
俺は運動神経が周りより、少し優れていた。
そのため、小学5年生からずっと選抜リレーには選ばれ続けていた。
走るのは好きだ。
だが、選抜リレーなんて無くなればよかったんだと思っている。
選抜リレーに選ばれると、休み時間や放課後などの様々な時間に練習が持っていかれる。
そして、そこに来る、選ばれている奴らの9割は俺の性格とは正反対の生き物であるイケイケの陽キャラというやつだった。
集合場所に着いても俺の周りには人は寄ってこず、他の奴らは皆固まり、ワイワイガヤガヤと楽しそうに喋っている。
その場では1人でいるのが好きな一匹狼を演じていたが、内心とても羨ましかった。
そして、当日の運動会本番。
陽キャ共が応援を受けながら走り、渡されたバトンをクソっと思いながら握り締め、下をじっと見つめながら走った。
ここで、何より悲しかったのが俺が走るときだけ「頑張れー!」や「抜かせー!」などではなく、「なにあいつ?」や「あんなのいた?」などの応援とはかけ離れた言葉だった。
走り終え、即座に自分の席へ戻っても特に声は掛けられず、うちわで扇がれ「おつかれー、いい走りだったよー」と称賛されている陽キャ共を片目で見ながら何回も確認したプログラムを見つめていた。
あのときの俺は本当に存在していたのかと疑ってしまうレベルで存在感が欠けていた。
はぁ、俺の人生の中で上位3位には入る辛い思い出だな、こりゃあ。
楽しいだろーなー運動会。
フレアの通う魔法学校は6歳から15歳の子供が主に魔法を学ぶための教育機関であり、日本でいう小学校と中学校を合体させたようなものである。
日本の学校を二回りほど大きくした校舎が2つあり、フレア達はここで勉学に勤しんでいる。
校舎2つの間にハンバーガーのように校庭が挟まれていて、今ここで魔法学校大運動会が開催されている。
そして今俺は魔法学校からおよそ20mほど離れた住宅路のような場所で様子を伺っていた。
入りにくい。
校庭内に入るには大きな文字で天上天下唯我独尊と書かれたゲートから入らなくてはいけないようになっている。
誰だこんなものを考えた頭の悪いやつは。
はぁ。
ただでさえ黒髪で周りから浮いていて入りにくい+過去のトラウマを思い出して入りたくない状況だっつうのに。
うぅぅ、どうしたものか。
そんなことを考えているとき少し遠くから声が聞こえた。
この透き通った美しい女神のような声は!?
あっ、知らない女性だった。
くそっ、なんやねん、洗剤屋の子かと思ったわ、ちげぇんかい。
1時間後
「あの」
「あっ、はい」
うん?誰だこのおっさん?
「ずっとここにいるのは迷惑と先ほどからご連絡が来てまして.....」
「あっ、ごっ、ごめんなさい!」
せ、先生かぁ.....
「いや、まぁ、大丈夫ですが、その、運動会をご覧なられます?」
「あっ、はい、一応そのつもりで来たもので.....」
「そうですか、そうですか!ではいきましょう!我が転換しこの赤き魂を導かれし魔境の地へ転移せよっ!ムーブ!」
移動魔法ってこんな感じなんだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「燃えるぅぅぅ!!!」
「いけぇぇぇ!!!」
着いた先ではなんか大勢の人が燃えていた。
カオス過ぎて来なければよかったと一瞬で思った。
「あの、校庭の外で見たときとなんか、全然違くないですか」
「そりゃあ、パートタイムを使ってますからね」
「なんですか、それ?」
「あー、この魔法は義務教育で習いませんもんね。そうですねぇ。これは外側から見たここの光景の時間を止める魔法ですね」
なるほど。
だから住宅路で見ていたときはほぼ無音だったわけか。
ほんとにやってるか不安になったわ。
「では、私はこれからお昼を取るのでどうぞお好きに、ムーブ!」
行っちゃった、てか前フリいらねぇのかよ。
はぁ、なんかここ思ってたんと違うし。
「みんな落ち着け!落ち着けぇぇぇ!!火事になるから、やめろぉぉぉぉぉぉ」
先生大変そうだなぁ。
てか、さすがは赤髪達って感じで火の魔法の威力が恐ろしい。
「ムーブ!」
うん?
「やぁ、コンタ君、ちゃんと来てくれたのね」
「あぁ、フォティアさんっすか。まぁ、家にいても暇なんで。見学しに来ました」
「そう。で、どう?見学した感想は?」
「暑いじゃなくて熱いんでもう帰りたいです」
「ハッハッハ!確かにね。でも今この舞い上がってる炎達は1000度ほど温度を下げたヒエヒエ炎なのよ」
えっ、この人達炎の温度まで操れんの?すご。
「あの、それでも500度くらいの熱はあるんで死にますよ」
「へぇ〜、詳しいのね、でも、まぁ、慣れちゃったからな」
慣れ怖。
「それよりコンタ君」
うん?なんだ?この不気味な笑みは?
とても嫌な予感がするぞ。
「この後の親子対抗魔法リレーでない?」
「もちろん、嫌です」
「えっ、お兄ちゃんも親子対抗魔法リレーでるの!」
「おぉ、いいじゃねぇか!まぁ、期待はしてねえが諦めずに最後まで走れよ」
「いや、なんで俺が走る方向に向かってんの!」
午前中最後の競技、デビルインフェルノが終わり、俺らは昼食を取っていた。
「大丈夫よ、コンタ君、何事も挑戦、挑戦!」
「いや、だって俺ルールもなにも分かりませんし」
「簡単よ〜。ただでっかい氷塊を魔法で壊しながら走るだけ、はいっ簡単」
「いや、なにが簡単なん?俺、火属性の魔法なにも使えないし」
「そこは安心して。別に魔法はなに使っても大丈夫だから」
なにも大丈夫な気がしないなぁ。
「そ・れ・に」
そう言うと5mほど離れた昼食を取っている女の子を指さした。
「あの、洗剤専門店のとこのお嬢さんにいいとこ見せたくないの」
「くそっ、でます」
ついそう言ってしまった。
その後俺は午後の競技が始まっても尚顎を手で支え作戦を練っていた。
幸い親子対抗魔法リレーは最期の競技だったため時間はたくさんあった。
「ねぇ、あの黒髪の人ずっと何かぶつぶつ独り言言ってるわよ」
「ほんとね。一体なにしに来たのかしら」
「ごめん、それ私のせい」
なんか、フォティアさんがこちらを睨んでいるが今の俺はそう簡単には動かない。
残念だったな!ハッハッハ!
「ねぇ、フォティア、あの子大丈夫なの?なんか今度は笑い出したよ!」
「やばいって、やっぱり黒髪の子って不気味だわ」
「ほんとにごめん。あとでしばいとくから」
4時。
アナウンスが鳴った。
それではこれより親子対抗魔法リレーを開始します。参加なさるお父さん、お母さん方等は東口の門の前に集合してください。お子さん方は西口の門に集合してください。
なるほど東口か。
どこや。
その後なんやかんやあり、東口へ着いたが。
いや、ごつい人多くね。
こんなん親の方が勝つに決まっとるやん。
「ちょっと、そこのあなた」
「なんだ、黒髪少年?」
「あの、俺今年初めてこれに出るんですけどこれ、子供達に勝ち目あるんですか?」
「ハッハッハ!まぁ、そう思うのも無理はないだろう!だが、おめぇも知ってると思うが氷塊を割るのにはどんなことをしてもいい。なら、俺らお父さん組みの半数はこの筋肉でかち割んのよ。だから遅れて毎年負けてんのよ!」
いやっ、魔法使えよ。
てか、だからこんなにごつい人ばっかなんだ。
まぁ、いいや。
俺はここで何時間と時間をかけて考えてきた作戦を実行し、洗剤の子に振り向いてもらうんだ。
「ええっと、今年もこんなに集まってもらいありがとうございます!では順番は例年通りくじ引きで決めさせてもらいますが大丈夫ですかね。ではいきまーす」
そうか、くじ引きで決めるのか。
嫌だなぁ、アンカーとかになったら。
「はいっ、そこの黒髪少年、アンカー!期待してるよ!」
くそっ、だと思ったわ。
つくづくついてない。
走る準備運動をし、自分の待機場所に戻ったとき、ここで1つ衝撃の事実が発覚した。
それは俺が走るレーンの横で洗剤の子がちょうどいるのだ。
全力でカッコつけてやる。
「ねぇ、あんた」
「うん?」
俺と同じアンカーのやつが話しかけてきた。
ツインテールにした髪にクベーラでは滅多に見たことのない緑色の目、頬に貼ってある絆創膏から少し強そうに見えた。
「あんた、私とそんな歳変わんないっしょ。それなのにもう父さんやってんの。いつセックスしたん?」
な、なんだこいつ。
初対面の歳上に敬語も使えないのか。
ちょっと歳上の貫禄を見せつけてやろう。
「ふっ、お子ちゃまにはわからんさ。未知なる世界の扉を開いたその時、君にもその真実の裏側がわかるであろう」
あー、失敗したー、途中で自分でもなに言ってんだかわからなくなったけど引くに引けなかったよぉ。
「なに言ってんの、きもっ。それよりいつセックスしたんだよ?」
「お前、セックス、セックスって、俺はそんなもんしたことねーよ」
「うん。だろうね、童貞顔してるもん」
「うるせーよ、俺はあ・え・て守ってきてんだよ。オメェみてえなビッチと同じにしないでもらいます?」
「誰がビッチだ糞童貞。相手がいないだけだろう?えぇ?まぁ、一生守り続けてな」
「んだとコラァ」
「かかってこいや、糞童貞」
「ちょっとそこ、静かにして!もう始まるんだから!」
くそっ、怒られてしまった。
もうこの屈辱はリレーに向けるしかねぇ。
そう思っていると始まりを告げるピストルの音がいきなり鳴った。
「いけぇぇぇ!!!そこだぁぁ!!!」
ダメだ、いくら応援しても差が広がっていく。
あの筋肉集団があんまりにも遅い。
なにが自慢の筋肉だ、ひびを入れるので手一杯じゃないか。
それに比べて.....
「大地に広がる全てのエネルギーよ。僥倖されし八百万の神々よ。我は体を巡る全ての血を持って遂行することをここで宣言しよう。さぁ、轟け、そしてこの不条理な世界に篠突く雨を恵むのだ!木花咲耶姫命の元で今それを命ずる。シーオブファイアー!」
こっちはこっちで前フリが長い!ワンチャンある!
「くそっ、おせーよ、あいつ.....」
「ドンマイだねぇ、あれ?これ俺ら貰っちゃうかもなぁ?」
「うるせぇ、糞童貞、負けてるくせにしゃしゃり出てんじゃねえよ、引っ込んでろ」
.....。
「ウォー!!!勝てぇぇぇ!!死んでも勝てぇぇぇ!!」
「残念だったわね、もう私のバトンも目の前ね」
くそっ、こいつのバトンは次だってのに俺なんて2個前。
やばい。
「はいっ、ありがと。じゃあね、おーじーさーん」
「ちょっと待った!おいっ、おーい」
あー、全く待たずに行ってしまった。
だが、まだいける。
なんてったって最後の氷塊は今まで2つ分の重さの氷塊だ、時間はかかるはず。
「おー、すまねぇな、黒髪、ちょっと筋肉がうまくさd」
「うるさい!寄越せ!」
よしっ、まだあいつのは割れてない、見えた勝機!
「フッフッフ、ハッハッハ!」
「くそっ、全然割れない」
「おいおい、君は馬鹿かね?うん?少し頭を使えばこんなの簡単だよ」
「黙れ!」
「ふっ、では実行させてもらおう!アイスロック!」
「えっ?」
「これこそが俺の考えた階段作戦じゃ!わざわざ壊す?馬鹿か!」
「卑怯者!」
なんとでも言えばいいさ。
俺の目的はクールに勝つ、それだけなんだから。
「シーオブファイアー!」
「おいっ、お前、俺の作り出す氷溶かしてんじゃねえよ!」
「うっさいわね!これも私の作戦の1つよ!」
ちきしょう、なんだこの俺が氷を作ってその氷を隣のやつが溶かすって、なにも進んでないじゃないか!
「ねぇ、ねぇ、フォティア。あれは一体何をしてるの?」
「いや、私も同じ気持ち」
はぁ、はぁ、まずい、俺の魔力が少なくなってきた。
こいつの顔を見るにまだ余裕はありそうだ。
新しい、新しい作戦を考えなければ。
そうだ!
「わりぃな、ビッチよ、ちと、お前には向こうへ行って貰うわ」
「はっ?」
「くらえ、全力ストリーム!」
「てめぇ!」
よしっ!吹っ飛んだ!
だが、魔力がもう本当に少ししかない。
足りないかもしれないがやるしかない!
「いけっ!圧縮ストリーム!」
そのとき、観客のほとんどがこいつは何をしているんだというような眼差しになった。
だが、俺の勝ちだ。
「えええ!!!!!」
「なにやったんだあいつ!?」
「氷塊を動かした!!」
先程のこの氷塊のように冷たい反応とは違い、観客は盛り上がっていた。
作戦は成功した。
ただ、全力でスクリームを打つというだけ。
だが、これでいい。
この氷塊は置かれてからおよそ15分ほどの時間が経過していた。
そして、ここはクベーラ、とても暑い、いや熱い。
ならば当然溶け、氷塊と地面の間に水が生じる。
だからこんなの思いっきり押せばとっても動く。
実に簡単だ。
「アイスロック!」
「えっ?」
「いやー、惜しかったぞ!コンタ!あとちょっとだったな!」
「でも、お兄ちゃんダサかった!」
「こらっ、頑張った人にそう言っちゃダメでしょ!」
気がつくと、俺は家にいた。
そして、フォティアさんとフローガからすごく慰められている。
「もう、慰めはいいから、俺は今までどうしてたのか教えてよ」
そう聞くと迷いながら答えてくれた。
「氷になってた」
「ですよね」
また、トラウマが1つ増えてしまった。
ありがとうございます。