これは魔法の世界の話〜帝国の太陽と光4〜
グラン18歳。学園を卒業と同時に皇帝になることが決まる。
わたし、20歳。リセットの魔法使いとしての役目を拝命。
グランの戴冠式は、過去最大級の魔力を保持する皇帝になるあなたを全帝国民が心から望む最大級の祭典になった。
そしてわたしは帝国のリセットの魔法使いとして祝福される、初めての機会になった。
遥かなる繁栄の予感に帝国中が沸いていた。
そして、私たちの関係が明確になる日だった。
『緊張しているのか、ライラ』
『可愛い可愛いグラン坊ちゃんが、帝国の太陽になるなんてって感慨深いのよ』
『怪我ばかりしていたお転婆な侍女が、帝国唯一無二の魔法使いになるなんてな』
『それは貴方がすぐ勉強もしないで、脱走するからでしょう。捕まえるのが大変だったわ』
『お前が油断しているのがいけない。ライラはどこか抜けているからな』
『はいはい、こんなやんちゃな坊ちゃんに皇帝なんて務まるのかしら』
『こんなガサツな女が帝国の光になれるのか』
『ああ言えばこう言う坊ちゃんね』
『ああ言えばこう言う女だな』
あなたのその憎まれ口は、勇気づけてくれるためだったと知っていた。
彼が掌を差し伸べてくれた。わたしはその手に指先だけを添えた。
全帝国民が待ちに待った、新皇帝の就任と帝国の柱となる魔法使いのお披露目の日は驚くほど快晴で、空が海よりも澄んだ青だった。
神からの祝福だったのだと思う。
国民の歓声と祝福に、わたしとグランは手を振って応えた。
その動きはさようならと似ていた。
そうか今日という日は、過去の自分に晴れやかにお別れをするってことだった。
『帝国の光よ、生涯をこの国に捧げよ』
グランの声が静かに頭上に降り注ぐ。
『帝国に、幸福と祝福と、この無二の魔法の全てを』
わたしは彼をまっすぐに見つめた。
多分笑えていたと思う。
あたなはグラン坊ちゃんではなく「帝国の太陽」になった。
わたしは「リセットの魔法使い」と言われるようになった。
この日から、全てが変わった。
それからというもの、忙しない毎日を過ごした。
新皇帝とともに、国中の問題を解消することになっていく。
国交問題も共に解消していく。リセットの魔法は国と国とのやり取りにおいて必要不可欠だった。
魔法に代償のある世界において、代償を消すことができる魔法は最も交渉に使われる。
まさか皇帝とリセットがこんなに一緒に仕事をしているなんて夢にも思わなかった。
結局、一緒にいることは変わらずだった。
ただ、生活は今までの私たちの時間の密度とは全くもって異なった。
二人きりでいることなんて、無くなった。
彼もわたしも、帝国のために働いて、帝国のことだけを考えた。
22歳。彼は帝国の月を娶る。
貴方の結婚式の日には、わたしはリセットの魔法使いとして彼らを祝福した。
帝国の月は、重要な魔法を持つ公爵家の方だった。
貴方の隣でベールに包まれるのがわたしじゃなかったなんてことはわかっていたことだった。
まさか胸がいっぱいになるなんて思ってなかったんだけれど、言葉にできない何かが込み上げた。
でも、笑えていたと思う。だって、笑う以外の表情を作れなくなっていた。
もしあなたが第5皇子のままだったらとか
もしあなたが公爵になっていたらとか、そんな夢を見たこともあったけど、それは本当にただの夜に見る夢だった。
でも、神様は少しだけわたしに優しくしてくれた。
わたしは、リセットの魔法使いにしてくれた。
あなたが皇帝になることが決まっていたから、きっと神様がわたしにリセットの魔法を授けてくれたんでしょう。
彼の一番近くにいるのは、月ではなく光だって教えてくれたもの。帝国の魔法使いになったからわかったことだから。
今までの家族も友人も、貴方が褒めてくれたことのあった黒髪も、人間としての肌の色も、自由も全てを捨てる立場になったけれど、その代償に貴方のそばに一生いる権利を手に入れることができた。