これは魔法の世界の話〜帝国の太陽と光2〜
17歳。
「俺は、騎士団の団長になると思う」
芝生の上に転がって、空を見上げながら彼が言った。
先ほどチャイムがなって魔法学の授業は始まってしまった
風の魔法使いとして首席で卒業したわたしと互角で戦うほどの彼の魔力は開花しており、学校の授業からは学ぶことは無くなっていた。授業に出るならわたしと戦っている方がマシだ、と彼が言った。
「兄様たちの誰かが皇帝になった時、公爵の地位をもらって、そのまま騎士団の団長にでもなれればと思っている」
気持ちのいい風が、彼の綺麗な金髪のさらう。
空に飛ぶのは大鷹。翼が開くと眩しかったのが少し和らいだ。
もう少しで春が来る。そんな予感をする暖かさも伴っていた。
「そしたら、どこかから嫁を取らないといけないから」
わたしは彼の横で、ただただ佇んで、彼と同じ空を見ていた。
「俺と同じぐらい…強い女がいいなって思っているんだ」
彼の声は、少しだけ心許なく小さくなった。
わたしは彼の顔をみないようにして、「そうですね」とだけ答えた。
春が来れば、後1年で卒業だった。
私たちは、大人になる直前の曖昧な幻に夢を見ていた。
18歳。
現在のリセットの魔法使いが間も無く他界する。
リセットが他界するたびに若干だが国が揺れうごいた。
人は変化に弱いもので、当たり前かもしれないけれどセンシティブな問題を皇帝がどう扱うかがその時期の皇帝の手腕とされていた。
わたしはグランに連れ添い、リセットの最後を看取る為に城を訪れていた。
リセットと皇帝が話しているのを、わたしと彼は遠目から眺めていた。
リセットはこの国にとって重要な存在だった。
聖なる存在として、その魔法は国の繁栄を守り続けてくれていた。
リセットがいるから、この国は帝国であると言っても過言ではなかった。
唯一無二の魔法。
それが、魔法の代償を消すという魔法。
それもその魔法の代償はない。
けれど、リセットは短命だった。
唯一の代償は、もしかして命だったのかもしれない。
命を削っているわけではない、と歴代のリセットは口々に言っていた。
だから、実は死ぬ直前までは元気なのだと。
この世界では、魔力が強すぎると、実は死に至ることがある。
むしろリセットの魔法が、死を和らげてくれて、命をつなげてくれてという。
そしてリセットの魔法は、とてつもなく繊細なものだった。
リセットになると、結婚をしないことが多い。
女性だと、子供を産む能力が著しく低下するのだとか。
体力も落ちるのだという。
リセットの魔法使いは必ずと言って神聖な白色の髪と肌をしていた。
帝国の光を呼ばれ、その風貌は純白そのものだった。
国に守られ、国を守る存在になるということの尊さのようなものを感じた。
そんなことを、グランと共にリセットから聞いていたことがあった。
少しだけ他人事だったかもしれない。今ならそう思う。
リセットが他界すると共に、次のリセットの捜索が始まる。
でもすぐに見つかるだろう。現在の皇帝は、とてつもなく準備周到だ。
すでに全国に捜索隊を広げているようだ。
この騒動が終わると、次期皇帝の選定も始まる。
多分この1〜2年は帝国は大忙しになるだろう。
国を支えてくれたリセットの今までの功績を称え、その死を慈しみ、そしてまた栄華を求めて帝国は変容していくのだ。
そしてリセットが死亡した。
それと同時に、わたしはリセットの魔法使いになった。