これは魔法の世界の話〜帝国の太陽と光1〜
あなたとの人生は、本当に明るい光で溢れていたわ。
わたしだけの太陽。グラン。
わたしの名前を囁いてくれて、抱きしめてくれた腕の温もり。
もうそれは、10年以上も前のことだったけど、”ライラ”であった時のわたしの最高の一瞬だった。
「リセット、いくな、先に行くな、わたしを置いていくな…」
皇帝はわたしの手を握りしめた。
何ぶりの貴方の温もりだろう。最後に手を合わせたのは戴冠式だったっけ。
あの時はまだ、20歳だったから肌も若かったんだけどな。
生気が減って、あっという間にシワシワの手になってしまっていて、もっとお手入れでもしておけば変わったのかしら、なんてぼんやりと考えた。
「…皇…帝…貴方を支えられた…でしょうか…」
ベットの沈んだ体が動くことができなかった。
貴方の気配だけは感じることができた。
多分もう、わたしの人生は終わるんだわ。
リセットの魔法使いとしての運命と、人生が。
わたしと現皇帝・グランが初めて出会ったのは、14歳の時だった。
グランは12歳で、グレイシア学院に入学することになっていて。
この年は他の国からの皇族の入学が一切なく、皇帝から身の回り世話をするものを選出必要があり、わたしがお付きの一人になることになった。
わたしはもともと男爵家の家のでて、戦闘能力と防御力のバランスの良い風の魔法を使えた。魔力の開花も比較的早く、身体能力の高さもあっての女性であることを差し引いてもわたしを超える人材はなかなか見出せなかったということで護衛を兼ねる抜擢だった。
金色の髪に赤い目の少年は、わたしをいつも困らせた。
まだまだ12歳と言う若さと、魔力の開花の片鱗もない皇族は、その生まれの立場によって扱いが変わるが、彼は第5皇子ということもあって自由にさせてもらっていたんだと思う。
むしろ、放置気味だったんじゃないかと思う。
紹介されたその日に、わたしは思いっきり悪態をつかれた。
なんだったっけな。
ぺちゃぱい。ブス。ブサイク。寸胴。無能。おばけ。
思い出しただけで結構ひどい。
わたしは相手が皇子ということも忘れて、彼の脳天に拳骨を落とした。
これは不可抗力だし教育です、とふんぞり返って。
そこからわたしと彼の攻防戦が始まった。
一緒にいて1年が過ぎた。
彼は13歳。
わたしはもともと彼付きになった時から授業の免除も増え、また彼と同じ授業を受けることも大いにあった。魔法学の授業から剣術まで一緒に受けた。
わたしは彼に一度も負けたことがなかった。
彼は2歳下だったということもあるが、わたしが特別優秀だったからだと思う。
彼はとてつもなく悔しがって、人一倍勉学に励んだ。
15歳になった時、わたしは初めて彼に膝を折った。
最初は魔法学。彼の魔力はどんどん増えていっていた。さすが皇族、と言うよりも彼のポテンシャルの高さゆえだった。わたしも魔力もかなりの量だったけれど、彼の魔法技術は巧妙さを覚えて急成長をしていた。
その次は剣術。わたしの背を越してから、足腰の強さを生かした抜刀術と力強い剣術に、スピード重視の軽い剣舞では勝てなくなった。
彼は、本当に煌めくほどの笑顔で、「俺に傅け!もう坊ちゃんとかいうなよ!」と胸を張って、わたしをさらに引っ張り回すことになる。
わたしは彼より学園を卒業したけれど、そのまま彼の護衛兼侍女としてさらに3年間を共に過ごすことになっていた。
眩しい日々だった。
彼の才能はメキメキと開花していった。わたしは彼の素行を正したり、お説教もしながら、目まぶるしい成長が誇らしくて、その光の強さにただただ心が掴まれるようだった。
『グラン坊ちゃん』というたびに彼は不機嫌になったけれど、わたしはどうしてもやめられなかった。でもそれは、一線を引かないと堪らなかったから。自分の気持ちをまだ誤魔化したかった。