Tさん 過去編
俺は、一目見た瞬間、彼女から目が離せなくなった。
彼女もまた、同じく俺の方を見つめたまま、目線を離さない。
それが、恋の始まりだと気付いた瞬間、そうか、これが運命かと、自分の運命を呪いたくなった。
俺は貧しい家に生まれた。
母は俺の事には、あまり口出しせず、暖かく見守ってくれていた。
いつも微笑んでいた。
もちろん、悪い事をしたら微笑みは消え、鬼婆の顔で叱ってきたが、基本母は優しかった。
けど、そんなははでさせ、悲しませてしまう人生に俺は落ちてしまう。
俺は画家になりたかった。
しかし俺の家には画材なんて買うお金は無かった。
だから諦め半分で家業を手伝っていた。
けど、それでも絵は練習していた。
とある日、俺は男性に出会った。
その男性は肖像画を描く男性で、俺はその人に弟子にして欲しいと頼んだ。
男性は、俺の身なりなど気にせず、どんな腕前なのか見てくれ、俺を弟子にしてくれた。
男性は俺にとても優しくしてくれた。
男性は結婚していて、娘が一人いた。
俺はその男性の娘に紹介された時、自分の身なりがとても恥ずかしく思えた。
彼女はとても綺麗な髪をしていた、服装も綺麗で、何よりお人形のような人だった。
汚い手で触れる事は出来なかったけど、いつか触れてみたい、ずっとそう思っていた。
俺たちは、いつの間にか愛し合うようになっていった。
こそこそと隠れるしか出来なかったけど、身分の問題があって、そんな堂々とは出来なかった。
結果…言うまでもなく、俺らは恋愛する事を反対されてしまった。
彼女とは常にずっと一緒だった。
いつか触れてみたいと思った彼女に、初めて触れてしまうと、俺の欲求は爆発してしまうんじゃないかと思った。
淡いピンクの唇、柔らかな髪…俺の中で人形のような彼女の顔は、いつしか頬を赤く染め、照れながらも俺にゆだねてきた。
俺と彼女は、彼女の両親には内緒の場所で二人っきりになった。
誰にも邪魔されないと思った。
しばらくすると、彼女と俺は、生活レベルの違いから溝が出来てしまった。
彼女は、何も知らなかったんだ、常にお金がかかるという事に…。
ある意味、お嬢様として育ったのだから、しょうがないと割り切っていたのに…。
俺らは一緒に居られなくなってしまった。
あんなに愛し合っていたのに、抱きしめ合い、唇を重ねたのに…。
なんであの時、彼女を幸せにすると誓ったはずなのに、叶わなかったんだろう。
神様なんていう存在が本当にあるなら、どうかお願いです、次こそ、次こそはお金を稼げる力を俺に下さい、そしてもう一度、彼女に合わせて下さい。
そしたら今度こそ、彼女を幸せにします。
お金に困らない生活をさせて、ずっと笑顔でいられるように…。
お願いします、神様。
彼女にも、家族になりたいと言える未来を下さい。
二人で誰にも邪魔されず、生きれる世界を俺に下さい。
今度こそ、彼女と俺を、身分の違いなんてない世界で、出会わせて下さい。
続く