Tさん(35歳 男性)Yさん(36歳 女性) 悲恋ストーリー 現代編
俺は今、アーティストとして活動している。
ソロ活動で歌を歌っているが、俺には関係者はもちろん、ファンの方にも黙っている事実がある。
それは俺が歌う歌は大体が一人の女性に向けた歌である事。
もちろん、仕事上、それとは全く関係ない歌も歌うけど、俺は一人の女性の元に届いて欲しくて歌っている。
それがヒットして、プロデビューしてしまった以上、ファンの方には申し訳ない気になるが、俺は気が済むまで歌わせて欲しいと思っている。
その一人の女性というのは、実は前世での俺の恋人だった人だ。
俺は、前世を知っている人間で、占いとかで知った訳じゃない。
最初からその事は分かっていた。
ただ、ただ、愛おしく、愛し合った彼女にもう一度会いたい。
俺はそれしか考えてない。
運命は残酷で、彼女とは現世では二度と会えもしないし、触れあえない、それどころかすれ違う運命を背負ってきてしまったけど、それでもどうしても彼女にもう一度、伝えたいんだ、もう絶対に口に出来ない言葉、「愛してる」というたった一言を…。
私は小説家…といってもそんなに有名ではないけど。
私には、どうしても生理的に受け付けない人がいる。
それがソロアーティストとして活躍している男性で、恋愛ソングを主に歌う女性に大人気の人だ。
私はその人がどうしても好きになれなくて、人に「えっなんで!信じられない!」「えっそんなのありえない!」などという言葉を言われて、その人が嫌いだと言えなくなっていた。
今も昔も、なるべく彼の話題は口に出さないようにしていたし、彼がテレビで活躍するシーンは、あえて見ないようにしていた。
だけど、一曲だけ、心に冷たく突き刺さるような彼の曲がある。
それだけはどうしても目をそらせなかった。
そこら中に転がっていそうな、ごく普通の失恋ソングなのに、どうしても私はその曲が気になってしまってよそ見することが出来なかった。
けど、今なら分かる。
私は気付いてしまった。
自分の運命に…。
元々、直観とかそいう物が人より優れていた私は、あまり人前ではその話をしてこなかった。
「おかしい」と言われるのが嫌だったからだ。
しかし、私はその直感力みたいなので、真実にたどり着いてしまった。
今、私は、自分が小説家である事を利用して、その事を一つの物語として書こうと思っている。
私と彼の前世での悲恋物語を…。
どうかこの話を、前世で愛した彼の元へ届けて下さい。
そう、願いを込めて…。
続く