1-9 闘神の決意
悪魔の力に体を支配されたヘパイストスを解放と天魔を名乗る久々津の討伐のため、それぞれが行動を開始した。
操られたヘパイストスの相手をヘラクレスに任せ、龍夜が先陣を切って久々津へ攻撃を仕掛ける。
「俺の相棒を返してもらうぜ!」
龍夜は神器召喚で作り出した剣を片手に久々津へと斬りかかる。
「そう簡単に私を倒せると思ったら大間違いよ」
そう言うと久々津は操り人形を操作するような動作を行う。
その動きに反応するかのように周りにあったマネキンが動き出し、彼女を庇うように目の前に立ち塞がった。
龍夜の振り下した一撃はマネキンたちにより防がれる。
「な、こいつら動くのかよ」
「単調な坊やだこと」
久々津は目の前の龍夜を手で払うような素振りをすると、その動きに反応したマネキンの腕が龍夜を払い飛ばす。
マネキンの一撃により吹き飛ばされた龍夜が端に積まれている机の山に激突した衝撃で土埃が舞い上がる。
「龍夜!」
吹き飛ばされた龍夜の方を見て声をあげる。
「人の心配していていいのかしら?」
龍夜の方に気を取られていると、目の前にもう1対のマネキンが殴り掛ろうと迫っていた。
「こいつ、何て速さだ…」
「勇飛様!!」
マネキンに殴ぐられる寸前で、ガブリエルの守護の盾がそれを防いだ。
「ふふ、やるじゃない。でもこれならどうかしら?」
攻撃を防がれたマネキンがその場で力なく崩れ落ちた。
その瞬間、今度は別のマネキンが守護の盾の死角から襲い掛かってきた。
「マジかよ。」
間一髪その動きに反応し、マネキンの奇襲を避ける。
敵との距離を取りつつ龍夜の吹き飛ばされた場所へと駆け寄る。
「おい龍夜。生きてるか?」
机の瓦礫の中に埋まっているだろう龍夜に声を掛ける。
その瞬間、瓦礫の中から勢いよく龍夜が姿を現す。
「っしゃおらぁぁぁぁ!!あのファッキンマネキンがぁ、やってくれんじゃねぇか!!」
珍しくブチギレの様子だ。
吹き飛んだ拍子に何処かぶつけたのか…当たりどころが悪かったのだろう。
「生きているようで何よりだ。でも少し落ち着け。冷静さを失っては相手の思うツボだ」
荒れる龍夜に落ち着くよう催促する。
「すぅ~はぁぁぁぁ。よしっ深呼吸。これで大丈夫。で、どうする勇飛、あの女思ったよりも手強いぞ」
「あぁ、ヘパイストスと言いあのマネキンと言い、奴の力は物体に憑りつくタイプの悪魔かもしれないな。ガブリエル、そういう悪魔について聞いたことはあるか」
「勇飛様の仰る通り、物体に憑依する悪魔は存在します。その正体は恐らくアナベルと呼ばれる悪魔だと思われます」
ガブリエル曰く、アナベルと呼ばれる悪魔はあらゆる物体に憑りつき自分の手足のように操り支配する力を持った悪魔らしい。
しかし、その悪魔の本体を見た神々はガブリエルを含めほとんどいないと言われている。
「そこの神様は私の契約している悪魔のことを少しは知っているようね。でも残念ね。あなた達にアナベルの姿を捕えることは出来ないわ」
久々津が言うように悪魔の正体は分かったが未だその悪魔の本体を掴むことが出来ていない。
しかし、久々津の表情からさっきまでの余裕の笑みが消えている。
悪魔の正体を暴かれたことで動揺を隠せないのだろうか。
「勇飛様、恐らく悪魔の本体はヘパイストスに憑りついています。マネキンを動かす力については彼女の悪魔使いとしての能力でしょう。ここはヘラクレスに協力して先にヘパイストスの方から…」
「いや正体を暴かれた以上、相手もそう簡単にヘパイストスの方へ近づけはしないだろうさ。俺たちは俺たちのやるべきことをする」
「つまりヘパイストスの方に彼女の気がいかないようにするわけですね」
「あぁ、ヘパイストスの事はヘラクレスが必ず何とかしてくれる。そうだろ?」
ヘラクレスに聞こえたか分からないが、心の底でヘラクレスを信じるように問いかける。
その問いかけに反応するかのようにヘラクレスとの契約の魔具が発光し熱を帯びているのが伝わってきた。
教室の前方で悪魔使いとの戦闘が繰り広げられる中、後方ではアナベルに操られたヘパイストスとヘラクレスが激しくぶつかり合っていた。
互いに一歩も引かない剣の攻防が繰り広げられる。
「ハッ、やっぱあんたの力はすげぇな」
鍔迫り合いの最中ヘラクレスがヘパイストスに向かって問いかける。
ヘパイストスも操られているとはいえその実力は折り紙付きのようだ。
「ヘラクレス…遠慮はいらん。全力で掛かってこい。手を抜けば死ぬぞ」
ヘパイストスも自分の意に反して全力でヘラクレスを潰しにかかる。
「ご丁寧に忠告ありがとよ。安心してくれ、最初から手なんて抜いてねぇからよ!!」
ヘラクレスが鍔迫り合いの状態からヘパイストスの剣を弾き飛ばす。
「うおぉぉぉぉ、闘神の剣!!」
闘気を纏った大剣をヘパイストスに向かって振り下ろす。
しかしヘパイストスも瞬時に次の武器となる炎を纏った双剣を召喚し、双剣を交差するようにしてヘラクレスの一撃を防ぐ。
「ひゅ~、やるじゃねぇか」
ヘラクレスが感心しているのもつかの間、ヘパイストスが防いだ大剣を押し返す。
そして炎を纏った双剣を振りかざし、ヘラクレスに向かって乱舞する。
「くっ…炎龍連斬!!」
乱舞から放たれる斬撃が龍の炎と化しヘラクレスに襲い掛かる。
「させるかよ」
ヘラクレスも大剣を構え闘気を集中させる。
「闘神の咆牙!!」
大剣を振り下ろした瞬間、闘気を纏った斬撃が猛虎の如く放たれた。
炎龍連斬の力と闘神の咆牙の力がぶつかり合い暴発する。
暴発したエネルギーの衝撃でヘラクレスとヘパイストスが互いに吹き飛ばされる。
衝撃に吹き飛ばされた二人だったがすぐさま体勢を立て直す。
「はぁ…はぁ…ったくこれじゃあ埒が明かねぇな」
「くっ…ヘラクレスよ。お前まだ悩んでいるな。この俺に本気でぶつかることを」
「あんたこそ、本気出してるようで悪魔に抗ってるのバレバレだって」
「ふっ、流石だな。だがそんなこと言っている暇もいよいよ無いぞ。俺を操る悪魔の力も本気を出し始めている。俺の制御もどこまで続くか…」
「あんたも気づいてると思うが、1つだけ手が無いこともない。けれどこれを実戦で使うのはこれが初めてだ。しかも最初の相手があんたに使うことになるとは思いもしなかった…」
「あぁ、それは俺も同じだ。だが、俺は俺と俺の作品を信じている。あとは使用者のお前が自分自身を信じ切れるかどうかだ」
「そうだな。俺が俺自身を信じれなくてどうするって話だよな」
ヘパイストスに後押しされ何かの覚悟を決めるヘラクレス。
「それに勇飛の奴も俺を信じてくれているみたいだ」
契約の魔具に呼応してヘラクレスに赤い闘気が満ち溢れる。
「いくぞヘパイストス!!」
赤い闘気に満ち溢れた相棒の大剣を構え、ヘパイストスに向かっていく。
向かってくるヘラクレスに対して対抗するべくアナベルが再びヘパイストスの動きを支配しようと禍々しいオーラがヘパイストスを包み込もうとしたが、ヘパイストスはそれを全力で拒む。
そして自ら無抵抗の姿勢を取るかの如く、両手を広げヘパイストスの攻撃を受け入れる体勢を取った。
「今だ!!やれ、ヘラクレス!!」
ヘパイストスの合図と共に、ヘラクレスの大剣がヘパイストスの胴体を貫いた。
この話で3部まで引き延ばすとは思っていませんでした。
書いている自分ですらまだ終わらないのか…という感じですが、
もう少し作者の我儘にお付き合いください。
次の話でこの戦いも決着がつくと思います。
って言うか、ヒロインどこ行ったのかな?(汗)