1-8 傀儡の罠
龍夜の後を追い建物の奥へと進んでいったが、思っていたよりも建物内は広いようだ。
「これだけ広いとどこから探ったらいいか分っかんないねぇ」
「お前の闇雲な行動だったらこうなることは目に見えた結果だろ」
「確かに!」
「いや、俺たちを巻き込んどいて1人で納得するなよ」
思わず龍夜に対してツッコミを入れる。
「まぁまぁ、1つ1つ調べていったらいいじゃねぇか」
そう言うと龍夜はすぐ隣にあった教室の扉を何のためらいもなく開けようとする。
「おい、一応悪魔使いがいるかもしれねぇ場所なんだぞ。そんな躊躇なく…」
止めようとしたがお構いなしに扉を開ける龍夜。
龍夜が空けたその教室は美術室のようだった。
教室を入ってすぐのところには写生に使うであろう上半身の彫刻が幾つも並んでいるが、その大半は顔が欠けていたり腐敗して崩れかけたりしている物ばかりだった。
また、その奥にはまるでマネキンのような全身像の彫刻が数体並んでいた。こちらはどれも崩れている様子は無く、むしろ新品に近いものだった。
「ったく、何も無くて良かったが…それにしても何か不気味な部屋だな」
「なぁ勇飛、知ってるか。服屋とかにあるマネキンが着ている服の下ってちゃんと下着を身に着けてんだぜ」
「いやいや、何言ってんだよ。そんなの着けてるわけないだろ」
「それが着けてんだよな」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「いや~この前服屋のマネキンがさ、男のマネキンなのにスカート履いててさ…気になって捲ってみたんだよね」
「龍夜、お前ってやつは…」
「龍夜君…最低です」
バカも行き過ぎるとここまでやるとは。
さすがに水希も龍夜の行動に引いている様子だ。
「そ、そんなに引かないでくれよ~。後で店の店員に聞いたらさマネキンが下着を着けてるのは、そのマネキンが着ている服の形をよく見せるためにあるんだってさ」
「そ、そうなんですね。そう言った理由があったとは知りませんでした」
「いや水希、納得したみたいだけど龍夜がやったことは最低に変わりないぞ」
納得しかけた水希に思わずツッコミを入れながらため息をつく。
そんな緊張感のかけらもないやり取りをしていると、マネキンが並んでいる奥の方から禍々しい気配が漂ってきた。
「この気配…どうやら俺たちをここで待ち伏せていたみたいだな」
「おぉ!?ついに敵さんのお出ましってやつか」
部屋の奥から漂う悪魔使いの気配に反応して、契約の魔具が発光する。
ガブリエル、ヘラクレス、ヘパイストスの3人もそれぞれ身構えて敵の様子を伺う。
部屋の奥からゆっくりとこちらに歩み寄り姿を現したのは、黒髪のロングヘアーに黒のワンピースを着た20代くらいの女性だった。
「あなた達が侵入した鼠ね」
黒髪の女が低い声の落ち着いた調子で問いかける。
「鼠とは粗末な言われようだな…あんたこそその様子から見るに悪魔使いなんだろ?」
「ふふ、そうよ。私は久々津彩。天魔の1人よ」
「天魔だと…ガブリエル聞いたことあるか?」
初めて聞く言葉ゆえにガブリエルに聞いてみる。
「いえ、悪魔使いにそのような名を持つ者を聞いたことありません」
「残念ながらそこの神様に聞いても無駄なことよ。天魔とは私たち悪魔使いの中でも選ばれた者のみが与えられる称号。その辺の悪魔使いと一緒にしないことね」
「選ばれた悪魔使いってことは、お前たちを束ねるリーダーがいるってことか?」
「えぇ、あなたたちが追い求めているあの方こそ、私たち天魔を束ねる首領になるわね」
「水希とヒュペリオンを襲った男か。でも今の話から察するにその男がこの場所にいることは間違いないってことだな」
「探し人が見つかって良かったわね。でも残念、あなた達鼠はここで私が駆除してあげる」
「おいおい黒髪の姉ちゃんよ、威勢だけは良いみたいだけど、俺たちは3人そっちは1人だぜ。数じゃこっちが完全に有利だ」
龍夜の言う通りこちら側は聖天六神が3人もいる分、数では圧倒的な有利だ。
しかし久々津の表情は何やら余裕を見せている。
「所詮は浅はかな子供の思考ね。あなた達はこの部屋に入った瞬間から罠にはまっているのよ」
久々津の右腕から紫色の光が強く発光し、一瞬目の前の視界が奪われた。
「くっ、目くらましか…」
敵の目くらましを防ぐため咄嗟に目を閉じた。
「勇飛!!」
龍夜の呼びかけで再び目を開ける。
「龍夜、水希。お前たちも大丈夫か?」
「あぁ、俺たちは大丈夫だ」
「私も大丈夫です勇飛君」
「そうか、それは良かった。しかし…どういうことだ。悪魔は姿を現したんじゃないのか?」
契約の印が発光し悪魔が姿を現したかのように思えたが、目の前に悪魔の姿は無かった。
「ふふふ、さぁ始めようかしら皆殺しのショータイムを!!」
目の前の久々津が高らかに嘲笑った。
その瞬間、ガブリエルが異変に気付いた。
「勇飛様、龍夜様!!」
ガブリエルの咄嗟の呼びかけに後ろを振り向いた瞬間だった。
ヘパイストスの持つ炎を纏った剣が襲い掛かってきた。
「ガブリエル!!」
「分かってます。守護の盾!!」
間一髪ガブリエルの守護の盾によりヘパイストスの強襲を防ぐ。
「おいおい、ヘパイストス。お前俺たち仲間に何やってんだよ!!」
龍夜がヘパイストスに向かって呼び掛ける。
「ぐぬぅ、すまぬ龍夜。体が…何かが俺の体を支配している…」
よく見るとヘパイストスの体から禍々しいオーラが滲み出ていた。
「あなた達の仲間は私の手駒となったわ。さぁ、こっちに来なさい」
久々津が右手を前に出し、ヘパイストスに向かって手招きする動作を見せる。
「ぬおっ!」
何か見えない力に引っ張られるようにしてヘパイストスが久々津の目の前へと移動する。
その姿はまるで主に操られる操り人形のようだ。
「神に悪魔が憑りついた…こんなこと有り得るのかよ」
「私たち聖天六神の身体を支配する程の力を持った悪魔は極わずかだと思います。それほどまでに今回の悪魔は強力な力を持っているということなのでしょう」
「そんなことより勇飛、龍夜。こうなったら俺たちでヘパイストスの目を覚まさせてやるしかねぇだろ」
ヘラクレスが大剣を構えながら言う。
「ですが、悪魔の正体も分からないまま闇雲に戦っても互いに消耗するだけです。それこそ敵の思うつぼになってしまいます」
ガブリエルの言い分も一理ある。
このままでは互いに自滅するのが落ちだろう。
「じゃあどうする。他に手段があるってのか?」
「この手の相手は本体を倒せばヘパイストスを支配する力も失われると思います。ただ敵もそれは百も承知でヘパイストスを盾に本体を守りに来るでしょう。あまり合理的とは言えませんが…ヘラクレスにヘパイストスを足止めして頂き、私と龍夜様で本体を攻める方法が宜しいかと」
「はは、まさかヘパイストスとこんな形で戦う時が来るなんてな…」
「ヘラクレス、俺の相棒の遊び相手は頼むぜ」
「あぁ、龍夜こそあの不気味な姉ちゃんをさっさとやっつけちまいな。勇飛、ガブリエルと一緒に龍夜をフォローしてやってくれよ」
「あぁ、もちろんだ。ガブリエル、俺の神魔を使えるだけ使って全力で龍夜のサポートを頼む」
「承知しました。サポートは任せてください。それでは…ヘパイストス奪還作戦を始めましょうか」
悪魔の力に支配されてしまったヘパイストスを奪還すべく、各々の役割を果たすため行動を開始した。
前回からかなり間が空いてからの投稿で申し訳ありません。
時間が空くと前の話を忘れがちになりますね…
余談ですが季節の変わり目は体調を崩しやすいです。
私は夏風邪にやられました。皆様も体調には十分にお気を付けください。