1-7 天魔
5月18日午後12:00
林間学校の行事が終わった翌日の昼休み、俺は龍夜と久しぶりに学園の屋上でたむろっていた。
「なぁ勇飛、流華ちゃんの契約したヒュペリオンを探しに行かなくていいのかよ?」
購買で買った焼きそばパンをモグモグしながら龍夜が言う。
「探しに行こうにも手掛かりがないんだよ」
「だよなぁ…悪魔使いについては成瀬も覚えてないって言ってたしなぁ」
あの後、意識を取り戻した成瀬にも聞いてみたが、成瀬は悪魔と契約していた時の記憶を失っていた。
どうやら悪魔に憑りつかれた人間が悪魔から解放されると記憶の一部が欠損する若しくはその時の記憶を完全に失ってしまうようだ。
「水希とヒュペリオンの事も大事だが、相手も得体のしれない悪魔使いだ。それに俺たちだけで対抗できる相手かも分からねぇ。今は悪魔使いを倒しつつ情報を集めることが有力だろ」
「う~ん、勇飛の言うことも分かるけどよ。あまり悠長にもしてられないじゃん…あ、そう言えば」
ふと何かを思い出したかのような表情を見せる龍夜。
「どうした、また与太話でも思い出したか?」
「いや、そういうのじゃないんだけど。この学園から少し離れたところに廃墟になった大学があるのは知ってるよな?」
「あぁ、確か数年前に潰れたところだよな」
龍夜が言っているのは数年前に廃校した冥應大学のことだろう。
今は一般市民は出入り出来ない立ち入り禁止区域として市が管理しているらしい。
「そう、その大学に夜な夜な出入りしている怪しい奴がいるって噂を聞いたんだよ」
「あの立ち入り禁止区にね…」
「もしかしたら流華ちゃんを襲った悪魔使いと何か関係あるかもしれないだろ」
「確かにお前にしては有力な情報を持ってきたな」
「だろ?とりあえず放課後に俺たちもそこに行ってみないか」
「俺は構わないが、水希はどうする?」
「流華ちゃんを危険に晒すのは勇飛も嫌っしょ。今回は俺たちだけで行こうぜ」
「分かった。それじゃあ放課後、校門の前に集合だ」
龍夜の情報をあてに放課後、俺は龍夜と共に廃墟になった大学に向かうことになった。
放課後、龍夜が待っているであろう校門前へと向かう。
「勇飛君!!」
「え、何で水希まで一緒にいるんだよ!?」
校門前で龍夜と待ち合わせしていたはずが、何故か水希もそこに居合わせていた。
水希の横にいる龍夜は申し訳なさそうに両手を前に突き合わせている。
「悪い勇飛、流華ちゃんに捕まっちまって…全部吐いちまった」
「二人で何やらコソコソしていると思ったら…もう、私の目は誤魔化せませんよ」
「別に水希を除け者にしたわけじゃないんだ」
「分かっていますよ。二人とも私を危ない目に合わせたくなくてのことだったんでしょ。でも、私とヒュペリオンの事で二人に頼ってばかりじゃダメなんです。私も一緒に連れて行ってください」
「ったく、仕方ねぇな。」
水希の訴えかける姿に断りを入れる隙は無く半ば諦めながら頭を掻く。
「相手はお前を襲った悪魔使いかもしれない。俺が危ないと判断したらその時は俺たちを置いてでも逃げるんだ。それだけは約束してくれ」
「分かりました。でも二人なら負けないって信じていますから」
予定外の事態が起きたが、水希との約束を信じ3人で廃墟の大学へと向かった。
目的の大学に着いた頃には日が沈みかけ、辺りは薄暗くなっていた。
大学の入口の扉には「KEEP OUT」の文字が書かれたビニールテープが貼られている。
「何か心霊スポットに来てる感じだなぁ」
「暗くなってきましたからね。そういう雰囲気に近いものを感じます」
二人の言う通り廃墟の建物からは不気味な雰囲気が漂っていた。
「二人とも気づいていると思うが、悪魔使いの気配が微かにする。龍夜の情報もあながち間違いじゃなかったみたいだな」
「だろ?とりあえず中を探索してみますか。よし、みんな気を引き締めていきまっしょー!!」
気を引き締めろと言う割にはノリノリで先陣を切る龍夜。
「ったく、相変わらず緊張感のねぇやつだ。ところで水希、ヒュペリオンの気配みたいなものはこの場所に感じるか?」
「えぇ、微かにですが…この場所に彼がいるような気配がします。きっとガブリエルさん達もそれは気づいているはずです」
「そうか、やっぱりガブリエルたちも同胞の気配ってものを感じてるんだよな」
「はい、水希様の仰る通り、微かにですがヒュペリオンの気配を感じますね」
「だが、ほんの僅かな気配しか感じねぇのが気がかりだ」
ガブリエルとヘラクレスも僅かながらヒュペリオンの気配を感じてはいるようだ。
「とりあえず龍夜が先に行ってしまいそうだ。俺たちも気配のする方に向かって進もうではないか」
ヘパイストスが先を急ぐ龍夜を追うように催促する。
ヘパイストスに催促され、俺たちも龍夜の後を追うように建物内の奥へと向かった。
勇飛たちが廃墟に侵入した同時刻。
「ふっ、どうやらこの建物にネズミ何匹が紛れ込んだみたいだな」
大学内のとある1室に居座る男が呟く。
その男は黒いロングコートを羽織り、顔はフードを被って隠している。
「おや、自分が予測していた通りのことですやん。別におかしなことちゃいますの?」
男の隣に居座っている金髪の男が関西弁交じりで問いかける。
「思っていたよりも早い時期に来たと思ってね」
「まぁ勇敢と言いますか無謀と言いますか…自分に似たところありますやん。それで、これからどないしますの?わざわざ自分が手を下す必要もありまへんやろ」
「そのためにこいつらをここに呼んだんだろ?お前も含めて…な」
男の座る目の前で頭を下げ跪く3人。
その者たちの手には悪魔使いの契約の印が装着されていた。
「貴方様が手を下す必要はありません。ここは我々にお任せを」
男の前に跪く1人が言う。
「あぁ、天魔の名にふさわしい活躍を期待している」
「「はっ、仰せの通り」」
3人の悪魔使いは即座に男の前から姿を消し、侵入者の下へと向かった。
3人の悪魔使いに期待の言葉を掛けた男の姿を見た関西弁の男が嘲笑する。
「自分、ほんま悪い人やで」
「さぁ、何の事だかな」
問いかけの意味を分かっているかのように男もまた嘲笑った表情を見せた。
前の話が長いと次の話が短くなってしまうの申し訳ないです。
話のネタが無いとかそういう訳ではなく、単に話の区切りが悪いだけですw
今回の話も何話かに分けて投稿していく予定です。