1-2 転校生の少女
5月10日午前8時00分
以上、回想は終わり現在に至る。
普段通りの通学路を歩き学園に向かっている時だった。
「ゆ~う~ひ~!!」
後ろから聞き覚えのある声がした。
振り向くと龍夜が物凄い勢いで自転車を漕ぎながらこちらに向かって来ていた。
その勢いは止まらず、一気に俺の横を追い抜くと急ブレーキからのUターンを決めて俺の目の前に止まる。
「グッドモーニング勇飛。今日も最高の一日だな」
「あぁ、最高の一日だな。お前のハイテンションに付き合わされることがなければな」
「そんな冷たいこと言うなよ~。いつも通りの事だろ?」
「確かにな…で、朝っぱらから何か新しい情報でも仕入れたのか?」
「報連相は大切だからな」
「いや、俺はお前の上司かよ」
「桐城部長、報告があります!!」
「いや、ノリノリかよ。で、なんだね火炉瀬君」
まさか乗ってくるとは思っていなかったので、とりあえず龍夜のノリに合わせておく。
「今日、俺たちの学年に転校生が来るってよ」
「転校生?こんな時期にかよ」
「しかも女の子らしいぜ。これだけでテンション上がんだろ」
「お前は相変わらず情報収集が早いな」
「いや~噂に聞いた話なんだけど、職員室でこの学園で見たことのない学生が鉄也と一緒にいたところを目撃した生徒がいたんだって」
「なるほどな、てかお前のその情報源はいつもどこから仕入れてくるんだよ」
「まぁいいじゃないか。それよりも転校生が鉄也と一緒にいたってことは俺と同じクラスになるかもしれないな。話によると顔もかなり可愛いらしいぜ。そりゃあ朝からテンションも上がるってもんだろ。悪いな勇飛」
「そうだな。俺も今日一日の楽しみが出来たよ。それよりも急がねぇと遅刻しそうだからとりあえずお前の荷台に乗せてもらうわ」
そう言って自転車の後ろに座る。
「これが噂の可愛い転校生なら文句ないんだけどな…まぁいいか、そんじゃ飛ばすぜ」
そのまま二人乗りで学園へと向かうことになった。
校門の手前で龍夜に下してもらい、その後龍夜は一足先に駐輪場へ自転車を止めに向かった。
「勇飛様、自転車の二人乗りは校則で禁止されているのでは…」
龍夜がいなくなったことでガブリエルが話しかけてきた。
因みにガブリエルとヘラクレスは常に俺の後をつける形で行動を共にしている。
「鉄也にバレたら鉄拳が飛んできそうだが、そこは上手くやるさ」
「全く、勇飛様も見かけによらず不真面目なところがあるのですね」
「必要とあれば破るルールもあるもんさ。その辺はヘラクレスと似たようなもんだろ?」
「それは詭弁だと思いますが…」
「ハッハッハ、俺も勇飛も似た者同士ってことか。そりゃいい」
呆れた視線を送るガブリエルに対してヘラクレスはゲラゲラと笑っている。
そんな二人に対して俺は、ここ最近感じている疑問を二人に投げかけてみることにした。
「それよりもさ、お前たちと契約したはいいけど、ここ1月で特に悪魔と出会う機会が無かったんだが、悪魔に操られた人間たちは大丈夫なのか?」
「そうですね…私たちもここ数日悪魔の気配を追っていましたが、特に目立った様子はありませんでした。悪魔に憑りつかれた人間の気配も今のところは感じられませんね」
「他の六神から何か情報をもらっていないのか?」
「…他の六神からもこれと言って情報は回ってきていません。まぁ、彼らがまめに報連相を行うタイプとは思っていませんので」
そう言いながらガブリエルはヘラクレスの方に冷たい視線を送る。
視線を向けられた本人は「何か俺の顔についてる?」みたいなキョトンとした表情をしている。
なるほど、他の六神もヘラクレスみたいに不真面目な輩が多いわけか。
ガブリエルがここ数日悪魔の気配を嗅ぎ回っているにも関わらず、大きな問題が起きていないのは何か悪魔側にも考えがあっての事なのだろうか…。
「しかし1月も何もないとなるとせっかく契約したのに契約損って感じだな」
「何も無いことに越したことはありません。ただ、勇飛様に何かあれば私たちは全力で貴方をお守りしますのでご安心を」
「そうだぜ勇飛。それに俺は寧ろ悪魔共と戦いたくてウズウズしているからな」
まぁ何れ俺も悪魔と対峙する時が来るのかもしれない。
その時は二人の力で何とかするしかないと思いつつ、校舎に向かって歩みを進めた。
8時半の予鈴が鳴り、ホームルームが始まった。
担任の古川先生が教壇に立ち生徒の点呼を取り、いつもならその後に先生の話が始まるのだが、
「え~今日からこのクラスに転校生がやって来ました」
唐突の転校生が来ましたパターン。
無論クラスの連中もざわつき始めた。
「龍夜が言ってた転校生か?うちのクラスだったのか」
どうやら当たりくじを引いたのは俺の方みたいだ、悪いな龍夜。
先生の言葉に続き、廊下で待機していた転校生が先生の隣まで歩み寄ってくる。
髪は肩に掛りそうな長さの水色で、毛先はアイロンを使って少し内側に曲げているようだ。
制服も背丈にあった着こなしから、見るからに清楚感が漂う女の子だ。
正面に立つとその御淑やかな瞳から漂う雰囲気が噂通りの可愛い子であることを物語っていた。
すでにクラスの男子諸君らは大盛り上がりである。
「では、みんなに自己紹介してね」
慣れない空間にもじもじしていた彼女だが先生の後押しにつられて口を開いた。
「み、水希流華です。父の仕事で隣町から引っ越してきました。よろしくお願いします」
そう言うと水希はお辞儀をする。
「と言うことで、みんな仲良くするように。席は…一番後ろの窓側、桐城が座っている席の横が空いているからそこに座りなさい」
うわぁ…典型的すぎるだろ。転校生の席が隣に来るパターン。
まぁ空いてたんだから仕方ないことかもしれんが…。
龍夜が同じクラスだったら間違いなく席替えの意義を申し立てるだろうな。
水希が隣の席に来た。
ふと水希の方に視線を向けると向こうもこちらを見てきたため目が合ってしまった。
「あ、どうも」
咄嗟の反応に困ったのでとりあえず会釈する。
「桐城君ですね?これからよろしくお願いします」
水希もこちらを見て笑顔を返してきてくれた。
「お、おう。こちらこそよろしくな。と、とりあえず何か困ったことがあったら何でも聞いてくれ」
「はい、その時はお言葉に甘えさせていただきます。それより桐城君…」
水希の視線が俺の視線を外れ、俺の後ろの方に向いたその時だった。
ガラガラっと教室の扉が勢いよく開いた。
そして現れたのはあいつだった。
「転校生はどの子だ!!」
Cクラスにいるはずの龍夜がホームルーム中にも関わらず突撃してきた。
そしてすぐに水希の存在に気が付く。
「おぉ、君が噂の可愛い転校生…って勇飛の隣の席だと!?おい勇飛、今すぐ俺とクラス変わりやがれぇぇぇ!!」
物凄い勢いでこちらに近づいて来る暴走モードの龍夜が俺に襲い掛かろうとして来た時だった。
「このアホンダラがぁぁぁぁ!!」
飛び掛かる龍夜に対していきなり現れた鉄也が鉄拳制裁を下し、床に張り倒した。
教室の床にひびが入る。
いや、手加減なしかよ…と心の中で鉄也の情け容赦なさに引いてしまった。
鉄也の鉄拳制裁を食らった龍夜は気絶して伸びてしまっている。
「ったく、ホームルームを隠れて抜け出したと思えばこんなことだと思った。あ~Aクラスの諸君、うちのクラスの馬鹿とその友人が迷惑を掛けたな」
「その友人て…俺を巻き添え事故にするな鉄也!!」
さりげなく加害者にされていたのでツッコミを入れるが鉄也の耳には届いておらず、気絶した龍夜の首根っこを掴み、引きずりながらAクラスを後にする鉄也だった。
「今回は被害者側なんだけどな…」
鉄也から受けた扱いに不貞腐れている俺を見ていた水希がクスクスと笑っている。
「さっきの赤髪の人は桐城君の友達なの?」
「あぁ、そうだよ。ごめんな、何か迷惑かけてしまって」
「ううん、いいんです。それよりも面白い人だなって。私も桐城君とそのお友達の彼と友達になれたらなと思いまして」
「俺たち馬鹿と関わってたら水希さんの評価が下がりそうだけどね。まぁそれでも良ければ俺からあいつに紹介するよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
「あぁ、それよりさっき龍夜が押し掛ける前に何か別の事を言おうとしてなかったか?」
「あ、え~っとそれはですね…」
水希が何かを言おうとした瞬間、ホームルーム終了の予鈴が鳴った。
「いえ、やっぱり何でもありません。1限目が始まってしまいます。また、お話ししましょうね」
そう言うと水希は1限目の準備をすると、一足先に理科室へと向かっていった。
さっきの一瞬、視線が明らかに俺の後ろを向いていたが、あれは何だったのだろうか。
何となく思い当たる節はあるが、確信が持てないため、これ以上の詮索は辞めておく。
とりあえず俺も1限目の準備を行い、理科室へと向かった。
1話目が長文過ぎたので、2話目以降は出来るだけ長文にならないよう投稿していきます。