1-15 桐城勇勢
約半年ほど間が空いてしまいました。。。
もはや私も前の話の内容を思い出しながらの執筆と間隔をあける恐ろしさを実感しました。
というよりも話の構成は頭にあってもそれを文章で表現するための文章力と表現力(語彙力)が
足りないのだなと。。。勉強しながら頑張って続きを書いていければと思います。
黒いフードを脱ぎ、その素顔を露にした男を見た俺は、依然として動揺を隠せなかった。
「本当に…勇勢なのか?」
「おいおい勇飛、そんなに驚くことか?まぁ無理もないか、5年ぶりの再会だからな」
5年ぶりの再会…確かに俺が勇勢と音信不通になったのもちょうど5年前だった。
「5年間も連絡が着かねぇと思ったら…あんた自分が何をしているのか分かってんのか?」
「あん?見ての通りさ。悪魔と契約した悪魔使い達を束ねるちょっとすごい存在ってところかな」
こちらの真面目な問いに対して、軽くふざけたような口調で返す勇勢。
「俺が聞きたいのはそんなことじゃねぇ。なんで悪魔なんかと契約して人間に危害を加えるようなことをしているのかってことだ」
「ははぁ~ん、そう言う事か。そうだな…お前は神様とやらと契約して悪魔どもを退治する神使いなん何だろ?だったらその力で無理やり俺に口を割らせてみたらどうだ?」
問いに応えて欲しければ力ずくで聞き出してみろってやつか…
勇勢が明らかに挑発しているのは目に見て分かることだが…どうする。
「ははっ、この程度の判断に迷っているようじゃお前に俺を倒すことは無理かもな!」
迷いに気を取られた瞬間、目の前から黒い魔瘴気が螺旋状の渦を形成しながら俺に襲い掛かってきた。
「ぐあっ!!」
避ける間もなく魔瘴気の渦を受けた俺は、その勢いに乗せられるまま吹き飛ばされる。
「勇飛様!!」
吹き飛ばされた勢いで壁にぶつかる寸前のところをガブリエルが俺の後ろに回り込み受け止める。
「わりぃガブリエル、助かった」
「油断は禁物です。それよりあの方は勇飛様のお兄様というのは本当なのですか」
「あぁ、信じがたいがそのようだ」
「そうなのですね…」
「俺自身いきなりの事で何がどうなってんのか分からねぇし、気持ちの整理も出来てねぇが…悪魔使いが目の前にいるのに倒さねぇ理由はないよな、たとえそれが自分の兄貴だとしてもよ」
「…お兄様に何があったのかは分かりませんが、勇飛様がここでお兄様と闘われるということでしたら、私たちは貴方の意志に従います」
「あぁ、助かるぜ。向こうも力ずくで来いって言ってる以上、やるしかないよな!」
今は迷っている場合じゃないと自分自身に言い聞かせた俺は、勇勢に向かって駆け出した。
「昔の兄弟喧嘩を思い出すな。ぶん殴ってでも口を割らせてやるから覚悟しろよ!」
「ははっ、その意気込みは褒めてやるが、何の力も持たないお前自身が向かってくるとは無謀だな」
「そんなことはねぇさ。頼んだぜガブリエル!」
「はい、任せてください」
俺の合図と同時にガブリエルが勇勢の足元に光の魔法陣を展開させる。
魔法陣から放たれた光の鎖が勇勢の四肢を拘束する。
「なるほど…守護の光鎖か」
「これで逃げられねぇぜ。その顔面に一発キツイのをお見舞いして目を覚まさせてやる」
「ふっ、俺を甘く見るなよ…勇飛!!」
守護の光鎖で身動きを封じられた勇勢に殴り掛ろうとした瞬間だった。
勇勢の足元に黒い術式のようなものが展開され、ガブリエルが展開した魔法陣を上書きするように掻き消すとその術式の中から魔瘴気を纏った無数の鎖が俺とガブリエルに向かって襲い掛かってきた。
「ぐあっ!」
「っああ!」
避ける間もなく魔瘴気を纏った鎖が俺とガブリエルに直撃した。
鎖が直撃した勢いで飛ばされた俺とガブリエルが地面に倒れる。
「勇飛、ガブリエル!!」
その様子を見たヘラクレスが声をあげ、俺たちの下へ駆け寄ろうとする。
「何をよそ見しているのですか。あなたの相手はこの私ですよ」
「…っ」
一瞬の隙をついたエレボスの斬撃がヘラクレスを襲う。
「がはっ!!」
エレボスの斬撃を受けたヘラクレスが地面に跪く。
「ふっ、大したことないですね。六神と呼ばれる神も所詮この程度とは」
「はぁ、はぁ…くそっ」
地面に剣を突き立てながらエレボスを睨みつけるヘラクレスだが、かなり息が上がっている。
普段であれば大したダメージではないはずだが、ここまでの連戦によるダメージが蓄積しているせいか、ヘラクレスもかなりの体力を消耗していた。
「勇勢様、こちらは片付きました。この者を始末して宜しいでしょうか」
跪くヘラクレスを見下しながら、主へと問いかけるエレボス。
「まぁ待てエレボス、もう少し遊ばせろよ」
「ですが勇勢様、一瞬の遊び心が命取りになるかと…」
「あぁん?何お前、俺の言うことが聞けないわけ?」
勇勢の眼光が赤く不気味な光を放ちながらエレボスを睨みつける。
「いえ、申し訳ございません」
殺伐とした眼光に震えながらエレボスが剣を鞘に納め頭を下げる。
「隙あり!」
エレボスが剣を鞘に納めたその一瞬の隙をつき、ヘラクレスが反撃を試みる。
「愚かな、貴様はそこで寝ていろ!」
しかしその一瞬の隙も許さないエレボスがヘラクレスの頭上に手をかざす。
その瞬間、ヘラクレスの頭上にとてつもない重力が生じ、立ち上がろうとしたヘラクレスはその衝撃で地面に叩きつけられるように倒れた。
「ぐあっ!」
地面に強く叩きつけられたヘラクレスは、そのまま気絶したかのように動かなくなった。
「へ…ヘラクレス」
その様子を離れて見ていた俺は、さっきからフィードバックして体中に受けたダメージの痛みに抗いながら、何とか体を起こし立ち上がる。
「おっ、頑張るね勇飛君」
ふらふらと立ち上がる俺にゆっくりと歩み寄って来る勇勢。
「でも諦めろ。お前の相棒たちはあの様だ」
「うるせぇ…まだ、終わりじゃねぇ」
立っているだけでも限界だが、無理やり拳に力を入れ、勇勢に殴り掛る。
「おいおい、無理するなよ」
しかしその拳を勇勢は片手で容易く受け止める。
そして勇勢の足元から現れた魔瘴気を纏う鎖が俺の体を地面に叩きつけた。
「どうやら思っていたよりも期待外れだったようだな…なぁ水希?」
勇勢は力なく倒れる俺の頭を掴みながら、離れで見守る水希に向かって問いかけるように言う。
「もう…やめて。これ以上は勇飛君が…」
水希はヒュペリオンを抱きしめながら目に涙を浮かべこちらを見つめている。
「せめてお前ほどの実力があるものだと思っていたが…残念だよ」
水希の絶句する表情を見て嘲笑うかのように言い放つ勇勢。
「…っ…すな」
「あん?何か言ったか勇飛?」
「水希に…手を出すんじゃねぇ」
「はっ、安心しろ勇飛。あいつの使い道はもう終わっている。言っただろ?俺が要があるのはお前だって」
「だったら…俺をどうするつもりだ?」
「さっきお前は俺に言ったよな…目を覚まさせてやると。その言葉、そっくりそのままお前に返してやろうと思ってな」
「どういうつもりだ…」
「さぁどうかな?目覚めた時には分かるさ」
そう言うと勇勢は魔瘴気を纏った右手を手刀の様に突き立て、俺の左胸目掛けて突き刺そうとする。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
その様子を見ていた水希が叫ぶ。
これまでか…と半ばあきらめかけた次の瞬間。
「おりゃああああああああ!!」
誰かの叫び声と同時に、礼拝堂の天井のガラスが割れて崩れ落ちてきた。
それに気を取られた勇勢が天井を見上げると、赤髪のあいつが天井から降ってきた。
「ちっ…」
勇勢は瞬時に俺を突き放すと、未知の襲来物から間合いを取るために後退した。
天井から降ってきた赤髪の奴は俺の目の前で着地する。
「間一髪間に合ったぜ!おい勇飛、大丈夫か?ってめちゃくちゃ派手にやられてんじゃねぇか」
目の前に現れた龍夜がボロボロの姿な俺を見て驚いている。
「ったく…おせぇよ龍夜。いつも英雄気取ってる癖に遅れすぎだっての」
「仕方ねぇだろ、変場所へ飛ばされてたんだからよ」
「にしても相変わらず無茶な行動力だな…でも間一髪助かった。ありがとな」
ギリギリのところで現れた龍夜に感謝し、龍夜の手を借りながら何とか体を起こす。
「ははは、何かすごい派手な登場やったな。自分らも今度はあんな感じで登場しましょうか。なぁ勇勢さん」
龍夜の派手な行動に感銘を受けたのか、一人テンションが上がっている様子の神牙。
「…そうだな。しかし…興が冷めちまったな」
先程までの殺伐とした瘴気を纏っていた勇勢からその殺気が消え去っていく。
「エレボス、神牙。帰るぞ」
そう言うと勇勢は目の前に現れた龍夜を無視して踵を返した。
「…承知しました、勇勢様」
勇勢の命令に従うエレボスは、その身を黒い影で包み込むと、勇勢の影の中へその姿を暗ました。
「あら?あの赤髪の男は放置していいんですの?」
踵を返して神牙の方へ歩み寄って来る勇勢に対して問いかける神牙。
「そんなに気になるならお前が相手をしてやったらいい。俺はああいうタイプが苦手でね」
そう言うと勇勢は神牙の肩をポンと叩きながらため息を漏らした。
「まぁ勇勢さんがいいんでしたら、自分もそれに従いますわ」
神牙も勇勢の後を追うように踵を返した。
「おいお前ら、俺を無視してどこに行こうってんだ!?」
この場から立ち去ろうとする勇勢達を呼び止める龍夜。
「…ったく勇飛の友達か知らねぇが、何も死に急ぐことはねぇだろ?今日はこれくらいで見逃してやるって言ってんだ…大人しく帰るなら今のうちだぞ」
やれやれと言った感じで龍夜の問いに応える勇勢。
「何だと?俺のダチをこんな目にあわせてタダで帰れr…がっ!!」
勇勢の返しに噛みつこうとする龍夜だったが、その瞬間、瘴気を纏った黒い鎖が龍夜に襲い掛かり、そのまま龍夜の体に直撃する。
「俺はそんなに気の長い方じゃないんだ。それに聞きわけの無い馬鹿はもっと嫌いでな」
黒い鎖の一撃を受けて跪く龍夜に対して、もう1本黒き鎖を解き放つ勇勢。
「させるか!!」
鎖が直撃する寸前のところで、ヘパイストスが龍夜の前に立ちはだかり、炎を纏う双剣で黒い鎖を弾き返す。
「聖天六神鋼匠のヘパイストス…こいつも勇飛と同じ神使いだったのか」
弾き返された鎖を手繰り寄せながらヘパイストスと龍夜を睨む勇勢。
「人間で在りながらこれほどの力…何者なんだこいつは?」
勇勢の放った魔瘴気の力を受けたヘパイストスが警戒しながら構える。
「いってて…よく分かんねぇけど、勇飛や俺らの敵ってことは確かだろうな」
鎖を受けた部分を抑えながら立ち上がる龍夜。
「それに一発やられた分を返してやらねぇとだ。いくぜヘパイストス」
「あぁ、分かった!」
龍夜の掛け声とともに龍夜とヘパイストスは勇勢に向かって攻撃を仕掛けようとした…しかし。
「やめろ!龍夜、ヘパイストス!!」
俺は勇勢に向かう二人に対して声をあげて制した。
「なっ、なんで止めるんだよ勇飛」
「っ…詳しいことは後で説明してやるから、今は大人しく勇勢の言うことを聞くんだ」
「勇飛、お前あの男の事を知ってるのかよ」
「あぁ…それも全部含めて話してやる。だから今は…うぐっ」
何とか声を絞って龍夜と話していたが、限界が来たようでその場に倒れ込んでしまった。
「お、おい勇飛。大丈夫かよ」
龍夜が倒れた俺に肩を貸しながらその身体を起こす。
「いい友達を持ったな勇飛。それと龍夜とか言ったか?この場は勇飛に免じて手を引いてやる。だからお前も大人しく勇飛の言うことを聞くんだな」
「…ちっ、分かったよ。でも次に会った時は俺がお前を必ずぶっ倒してやるからな」
多少腑に落ちない様子の龍夜は、舌打ち交じりに勇勢に向かって言い放つ。
「今のお前らでは到底無理だろうが…まぁ楽しみにしておくとしよう。行くぞ、神牙」
龍夜の言葉を戯言の様に聞き流した勇勢は、再び俺たちに背を向ける。
勇勢が目の前に手をかざすと、空間が裂け、闇が渦巻く回廊が現れた。
そして勇勢は、その闇の回廊へと姿を暗ましていった。
「はいはい。あっ、君らも気を付けて帰りや。次に会う時は楽しみにしてるで。ほな、さいなら」
神牙も勇勢の後を追うように闇の回廊へと姿を暗ました。
と同時に目の前の裂けた空間が綴じるように、二人が姿を暗ました闇の回廊が消滅する。
「…行ったか」
「そうだな。ってそれより随分派手にやられた感じだけど、勇飛も流華ちゃんも大丈夫なのかよ」
「お前がタイミングよく来てくれたおかげで命だけは何とかな…それよりも水希のヒュペリオンの方が心配だ…」
龍夜の肩を借りながら、ヒュペリオンを保護する水希の下へと歩み寄る。
「水希、ヒュペリオンの容体はどんな感じだ?」
「ガブリエルさんに言われた応急処置のおかげだと思いますが、微かに彼の神魔を感じます。でも意識の方はまだ…」
水希に膝枕されながら仰向けに横たわるヒュペリオンの意識は、まだ戻っていない様子だった。
「神魔がかなり欠乏して危ない状態ってガブリエルが言っていたが、何か方法はないのか」
俺はガブリエルに視線を向け、助け船を求める。
「このままでは命にかかわる危険があります。一度ヒュペリオンを連れて天界へと戻り、治療を受けるのが適切でしょう」
「天界に戻れば彼を治せるのですか?」
「ご心配なさらず水希様。私たち神々は最高神ゼウス様の加護を受けています。体内の神魔さえ回復すれば傷も自然と癒すことができます。そのための機能も天界には備わっておりますので」
「そうですか。よかった…」
ガブリエルの話を聞き、安堵する水希。
「俺もガブリエルも今回の戦いでかなりの神魔を消耗しちまった。一旦天界に戻って神魔を回復させる必要がありそうだな」
「ヘラクレス?お前、何時の間に目を覚ましたんだ」
「俺としたことがあの程度で気を失っちまうとは不覚だ。それより早く俺たちはヒュペリオンを連れて天界に戻るぞ。勇飛、お前たちもこんな所からは早く帰った方がいいな」
「勇飛様と水希様のことはヘパイストスと龍夜様に任せます。お二人とも、後はお願いします」
そう言うとガブリエルとへラクレスは、ヒュペリオンを担ぎながら背中の羽を広げると、割れた天井の間から夜空に向かって飛び立っていった。
「さて、マイハニーの頼みだ。俺はお前たちが安全にここから出るまで護衛しないとな」
「っ言っても、敵さんはもういねぇだろ。とりあえずボロボロの勇飛は俺に任せるとして、俺らもこんな場所さっさとおさらばしようぜ。ほら立てるか勇飛」
龍夜が再び俺に向けて手を差し出す。
「あぁ、悪いな手間かけさせて」
龍夜の手を借りながら何とか体を起こし立ち上がる。
「良いってことよ。それより勇飛と流華ちゃんに何があったか詳しく聞かせてもらうからな」
「あぁ、分かったよ」
「勇飛君…ごめんなさい、私のせいで貴方までこんな怪我をさせてしまって」
「水希が気に病むことはないさ。それに…」
今回のことは水希とヒュペリオンだけの問題じゃないってこと。
それに勇勢が悪魔使いとして俺の前に再び姿を現したこと。
悪魔に魂を売った兄の野望を止める事、それこそが神使いとして神様と契約を交わした俺の定めなのだろう。
俺が神使いとして戦う理由がようやく分かったのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺たちはこの古びた廃墟の地を後にした。