1-11 魔犬の狂牙
久々津とアナベルを倒し、次の階層へと歩を進めた。
階段を上り、次の階に辿り着いたと同時に悪魔使いの気配がより強くなっているのを感じる。
「さ~て、次はどいつが相手だ?」
先陣を切りながら辺りを見回す龍夜。
「龍夜、油断はするなよ。さっきの相手ですらあれだけの力を持った悪魔使いだったんだ」
「勇飛は気ぃ張りすぎだって。相手が誰だろうとこっちは6人いるんだぜ。余裕だろ」
「ったく、つい数分前に1人ですら苦戦したのを忘れんなよな…」
相変わらず緊張感の欠片もない龍夜とのやり取りをしながら、先へと進んでいく。
奥へと進むと、大講義室と思われる部屋の前に1人の人影が現れる。
「お待ちしておりました。まずはここまで来られたことを褒めて差し上げましょう」
眼鏡をかけた男がパチパチと拍手をしながらこちらの様子を伺っている。
「今度はあんたが俺たちの相手か?」
大講義室の前で待ち構えていた男に問いかける。
「如何にもその通りです。あ、申し遅れました。私、悪魔使いであり天魔の一人、秋山徹と申します」
秋山は礼儀正しく一礼すると、大講義室の奥へと続く扉の方へ踵を返す。
「どうぞ。あなた方を地獄へお送りする道はこちらですよ、クフフ…」
秋山は不敵に笑いながら扉を押し開けると、一足先に部屋の奥へ姿を暗ました。
「勇飛様、あの方も相当の力を持つ悪魔使いでしょう。気を付けてください」
秋山の悪魔使いの気配に反応したガブリエルが警戒するように促す。
「あぁ、最初から気は抜いてないさ。隣の馬鹿みたいにはな…」
「あぁ、ひっでぇ。俺だって多少は警戒してんだぜ」
「いつも通りで何よりだなって褒めてんだよ。それより水希、こっから先も強い悪魔使いが待ち構えてるかもしれねぇから、俺たちの傍から離れるなよ」
「ありがとう勇飛君。私も二人に迷惑を掛けないよう自分の身ぐらい自分で守るから大丈夫です」
「そっか、まぁ無理だけはしないでくれよ。ってことで、行くか」
「よっしゃ、俺が全部やっつけてやんよ」
秋山の後を追うように大講義室の奥へと向かった。
大講義室に入ると、その奥に秋山ともう一人の男の姿が見えた。
もう一人の男は、積み上げられた机の山に居座りながらこちらを見下すように見ている。
「おいおい、本当に高校生くらいのガキじゃねぇか。こんな奴らに久々津の奴は負けたってのかよ」
そう言いながら男は机の上から飛び降りると、秋山の隣に着地する。
「よく来たな侵入者のガキども。俺ぁ天魔の1人荒北って言うんだ。一応自己紹介しとくぜ」
荒北は秋山より先に前に出ると、ゆっくりとこちらの方に歩み寄って来た。
「まぁ、自己紹介なんて必要も無いか。お前らはこの俺が全部喰らってやるんだからな」
荒北の威勢に合わせて腕に巻かれた契約の印が怪しく発光する。
荒北の背後に三つ首を持った犬のような悪魔が姿を現した。
そして荒北はその悪魔の上に跨ると、勢いよくこちらに迫ってきた。
「いきなりのご挨拶だな。来るぞ、みんな気を付けろ!」
「分かってんよ勇飛、行くぞヘパイストス」
こちらも龍夜が先陣を切って荒北に向かっていく。
「おっと、あなたの相手はこの私ですよ」
しかし龍夜の前に現れた秋山がその行く手を阻む。
秋山の契約の印が発光すると、龍夜の目の前に黒い山羊の頭に黒い翼を生やした悪魔が現れた。
その悪魔は両手を前に突き出すと、目の前に紫色の奇妙な紋様を描き始めた。
描かれた紋様が怪しく発光すると、その怪しい光が龍夜を飲み込んだ。
「な、なんだこれ…」
怪しい光に包まれた龍夜の姿が目の前から消えた。
「龍夜!?てめぇ、龍夜をどこにやった?」
「彼には別の舞台で私の相手をしてもらいますよ」
秋山はそう言い残すと、怪しい光の中に姿を暗ましていった。
「おいおい、お前の相手はこの俺だぜ。よそ見してていいのかぁ?」
三つ首を持つ犬の悪魔に跨った荒北が目の前まで迫っていた。
三つ首の悪魔が獲物に食らいつくように牙を向けて襲い掛かってくる。
「勇飛!!」
俺を庇うようにして目の前に現れたヘラクレスが大剣を盾にして敵の強襲を受け止める。
「ほぉ、この俺の牙を受け止めるとは。流石は聖天六神とも呼ばれる神だけのことはある」
3つの首の内、左右の2つの首がヘラクレスの大剣に噛みついており、残る真ん中の首が口を開く。
「魔界の狂犬ケルベロスか。俺たちの事をよくご存じで」
「貴様こそ俺の名を知っているとはな。俺をそこらの悪魔とは一緒と見ていないと見える」
ケルベロスと呼ばれる悪魔がヘラクレスの大剣を噛み砕こうと左右の首に力を入れる。
「この俺の攻撃を受け止めたことは褒めてやるが、その大剣もろとも噛み砕いてくれる」
「言ってくれるね。だが、お前の動きを封じているということも忘れんな。ガブリエル!」
ヘラクレスの掛け声に呼応するように、ガブリエルが詠唱を始める。
ケルベロスの頭上と足元に光の魔法陣が展開される。
「ヘラクレス、足止めに感謝します。汚れた悪魔には神罰を…守護の霹靂!」
ケルベロスの頭上に現れた魔法陣が光を放つ。
その瞬間、ケルベロスが咥えていたヘラクレスの大剣を放すと、魔法陣の中から抜け出し距離を取った。
ケルベロスが魔法陣の中から抜け出した直後、頭上の魔法陣から光の雷撃が足元の魔法陣に目掛けて降り注いだ。
「ちっ、外れたか。あの犬公、思ったよりも勘の鋭い奴だ」
「えぇ、あの反射神経と素早さ…この悪魔相手にこの技は不向きでしたね」
光の雷撃が降り注いだ場所は跡形もなく消滅していた。
それほど強力な技なのだろう。しかしそれ故に隙も大きくリスクがあるわけだ。
「おいおい、流石のケルベロスでもあんなもん喰らったらただじゃすまなかっただろうな」
「ふっ、案ずるな荒北よ。この俺がこの程度の技を見切れない程、軟な存在ではないわ」
「そいつは頼もしい限りだな」
ケルベロスに跨っていた荒北が下りながら言う。
「あいつら思ってた以上に連携が取れてるな。悪魔使いなのに互いを認め合っているような感じだ」
「勇飛様の言う通り、彼らはこれまで出会った悪魔使いの中でも一味違う存在感を感じます」
「要するに油断できねぇ相手ってことだ。気ぃ抜くんじゃねぇぞ勇飛」
「あぁ、言われなくても最初っからそのつもりだ」
ヘラクレスに喝を入れられ、神魔を高めることに集中する。
その様子を見ていた荒北も声を高らかに挙げながら笑う。
「ハハハ、そうだ、その意気だぜ神使いの小僧。もっと俺たちを楽しませてくれないとなぁ。っしかし2対1とあっちゃこちとら少しばかり分が悪いな。どうするよケルベロス」
「確かにこの姿では分が悪いな。対人には対人戦こそが合理的だろうな」
そう言うとケルベロスはその場で高らかに雄たけびを上げる。
ケルベロスの周りから只ならぬ量の瘴気が溢れ出し、ケルベロスを飲み込んでいく。
ケルベロスを包む瘴気の渦が徐々に晴れ、その中から現れたのは毛皮のベストを羽織った銀髪の男の姿であり、背中にはヘラクレスの持つ大剣と同じくらいの剣を背負っていた。
3ヶ月も放置したこと誠に申し得わけありません。。。
今後は1週間に1話は投稿できるようにします。