伝説打破の秘密
(俺たちの負けだよ。)
頭の中に声が響く。
あたりを見渡すと、鼠神が手を振っていた。
(俺は喋れないから、こんな降参の仕方でごめんな。)
鼠神が頭を下げる。
(審判、コールを。)
審判も今の状況がいまいちわかっていないのか、動揺している。
「審判、コールしてください。」
改めて、弘太の方から審判に言う。
それに対して、審判も静かにうなずいた。
「2回戦、第2試合!勝者チーム凜とした猫!」
審判のコールに、会場は騒めいていた。
(僕の声は、審判と君たち二人にしか届いてないんだ。)
(決勝、勝ってくれよ。)
そういいながら、手を差し出してきた。
弘太はその手を取り、握手した。
観客たちも6人の熱い試合を称える大歓声に包まれていた。
(聞こえるか、この大歓声が。俺たちやり切って負けたんだな。白、牛神・・・。)
鼠神は気絶して届かない二人に声を届けた。
3人の目からは涙がこぼれていた。
「康太!やったじゃない!」
春が康太に駆け寄った。
「まだまだだったよ。本当に牛神先輩は強かった。次戦ったら絶対に負けてしまうくらいに。」
康太はとても疲れた顔でそう言った。
「そうとは限らないさ。僕たちはこれからまだまだ強くなるだろう?」
ネガティブな康太の言葉に弘太が返した。
その言葉を聞いて、康太は満面の笑みで頷き、春はそんな二人の様子を微笑ましく見ていた。
3人は、治療のため、医務室へ向かった。
3人が医務室に入ると、そこには、伝説打破の3人の姿もあった。白と牛神の二人も意識を取り戻し、3人で話し込んでいた。
「丁度いいところに来たな。おまえらのところに行こうかと話してたところだったんだ。」
白が親しげに3人に話しかけてきた。
「今日は、ありがとうございました。で、何か用でもあったんですか?」
弘太が白に質問をする。
「そんな改まらなくていいよ。今は、おれたちおまえらのファンなんだぜ?」
いきなりの言葉に、弘太たち3人はきょとんとした。
「特に牛神はどうやったら康太を倒せるかずっと考えてるみたいで、気絶してたときもずっとうなされてたんだから。」
3人が牛神の方を見ると嬉しそうに笑っていた。
「いやー、俺の油断もあったが、まさか自分よりも若い奴に負けるなんて初めてだったんでな。今すぐ戦いたいぐらいだ!」
牛神の言葉に弘太は少しおびえてしまったが、康太はしっかりと牛神の目を見ていた。
「また、戦いましょう。次やるときの僕は今よりも強くなってます!」
「もちろんだ!俺も強くなるわ!」
そういうと、二人は握手をした。
「あの、一つだけ聞いていいですか?」
弘太が鼠神の方を見ながら言った。
それに対し、鼠神は頷く。
「一回戦の時、夢先輩に資格を共有する魔法かけていませんでしたか?」
弘太の問いに対して、鼠神は頷く。
「そのことなら俺から話そう。」
白が鼠神の代わりに話し始めた。
「まず、俺は目が見えない。この学校に入りたての頃に事故で失明したんだ。そのかわりに聴力が発達しているんだがそのおかげで、人に話しかけられるのが苦手で、人付き合いが苦手だったんだ。そんなとき、耳からじゃなくて頭に話しかける鼠神と出会って、喋れないことを知った。お互いに不憫な中で生きてきた俺らはすぐに仲良くなったんだ。」
白の言葉に鼠神が頷く。
「そして、戦いの訓練の時などは俺の目の役割をずっとしているんだ。一回戦も、二回戦の最初もな。」
「その目が見えないことなんだが、去年、義経先輩の魔法が効かなかったのはそのせいだと思う。おそらく、対象を選んで、その視覚を操るんだと思う。」
「まぁ、弘太たちがどうすれば防げるのかは分からないがな。」
「いえ、魔法の情報がもらえただけでありがたいです。」
弘太は頭を下げる。
「まぁ、いいって。それじゃあ、俺らは治療も終わったから帰るわ。」
「はい!ありがとうございました!」
帰って行く三人の姿を弘太たちは見送った。




