瞬と戒
セブンドッグスの3人は、同じ部屋で眠っていた。
七條秋奈は唇が真っ青になり、寒さで小刻みに震えていた。
伊達剛紀は体が痺れているのか、未だに痙攣している。
そして、犬神瞬は、まるで死んでいるかのように静かに眠っていた。
3人に共通しているのは、皆、悔しそうな表情をしているということだ。
「入るぞ。」
3人の眠る病室に、一人の男が入ってきた。
その男はゆっくりと、犬神瞬の目の前に行くと、瞬に話しかけた。
「瞬、おまえはもっと、人を見ないといけない。自分より強い人たちを。おまえは俺より強い。恵まれているんだ。だからもっと、誰にも負けない男になれ。そして、主人を守るんだ。従っていることは負けていることとは違うんだからな。」
戒は、本当に心配そうな表情で瞬を見ていた。
そのまま、瞬を見つめ、しばらくしてから部屋を出た。
戒は、廊下で弘太とすれ違った。戒にとっては、冬華の弟と言うのもあり、本戦ではかなり注目していた。おそらく、普通に会っていたら、話しかけていたかもしれない。しかし、今の弘太は、怒りなのか何なのかわからないが、凄まじい迫力を持っており、話しかけようとは思えなかった。
弘太の持つその瞳に、戒は思わず引き込まれそうになっていた。
(瞬、いるじゃねえか、おまえの周りにも。)
戒は、自分と義経のような関係に瞬と弘太がなる予感がした。
一方そのころ、弘太は犬神戒とすれ違ったとも気が付かず、病室の前にいた。
別に、瞬の顔を見たいとも、心配だとも思っていなかった。
だが、気がついたらそこにいた。
自分にとって、超えたいと思っていた壁が崩壊したような、そんな虚無感に包まれていた。
「瞬の分も戦うよ。」
声をかけるつもりはなかったが、気が付いたら瞬に語りかけていた。
もちろん返事はない。
それでいい。
弘太は、勝つという気持ちを瞬に伝え部屋を去っていった。
未だ、目を覚まさない犬神瞬の目元には涙が見えた。
こうして、1回戦の全試合が終了し、ベスト4が出そろった。
それぞれの選手は明日の準決勝に備えて帰宅していくのだった。




