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検事はとてもナッツ類が好きな男だった。むかしこの世からラジオかナッツを消さなくちゃいけないって言われたら間違いなくオレはラジオを消すよ。ラジオは人類の発明の中でベスト・ワンの産物かもしれない。でもね、そんなラジオでもナッツには勝てない。ナッツはすでに人間の力じゃどうにもできないってくらいのレベルにあるんだよ。と彼は言っていた。
彼はいろんな種類のナッツを均等に食べた。一つ一つ天秤を使って量っているんじゃないかって思うくらいにね。ピーナッツ、マカダミア、ピスタチオ、アーモンド、ヘーゼルそんなところ。彼はそれをあるものは皮ごと食べ、あるものはクリーム・チースと一緒に食べた。
ナッツを口いっぱいに押し込みジンでそれを胃に押し込むのが彼の癖だった。胃にたどり着くまで彼の食道は膨れ、ナッツの形をとった。まるで蛇がウサギを食べちまうみたいに。
「そんなにナッツが好き?」
「好きさ」と彼は言った。
「ナッツには優れている点が2つある」と彼は続けた。
「それは古くから食べられてきたということ。それもずっと前。ナポレオンだってコロンブスだってダ・ヴィンチだってみんな食べてきた」
「そして僕らも」
「そうさ。俺らもナッツを食べる」彼はそう言いながらナッツを口いっぱいに含んだ。そしてジンで胃に流し込んだ。
「パスタやグラタンも確かにうまい。一流が作れば目から涙がぽろぽろ零れ落ちちまうくらいにね。でもね、パスタもピザもできたのは最近のことさ。産業革命?そんくらいの時だろ?」
「ピザ?」と僕は言った。彼は酔っていた。
「ナッツは違う。ちゃんと時間の雨を浴びてきてる。長い時間を浴びてきたものは洗礼される。だからナッツにはほとんど何もいらない。ピーマンだってベーコン、グラタン・ソースもいらない。いるのは・・・しいて言うなら、そう。クリーム・チーズくらい」
「長い時間」と僕は言った。
「そう。長い時間」彼は言った。
「長い時間っていうのはどんな目利きのいい老人よりも信用できる。時間をかけてもいいものはいいし、悪いものは悪い。いいものは残り、悪いものは消える。本だって音楽だって。もちろん食べ物も。ドストエフスキー、ディケンズ、ビルエヴァンス、ソニーローリンズ、そしてナッツ」
「ナッツはこれからも残る?」
「もちろん。誰も食べなくなってもオレが食べるさ。ナッツは嫌いか?」
「ソーソー」と僕は言った。
「カトウはまだ若いからな」と彼は自分に言い聞かせるように言った。
「それにナッツにはもう一つ優れた点がある」彼はそう言いながら指を一本立てたその2本隣の指にはきれいな指輪。
「それはジンにとベスト・マッチってことさ」と彼は言った。
「なるほど」僕は言った。