保健室にて微睡みのフレグランス
学校の匂いが好きになれない。
それは、つまりは一日の大半を好きになれないということで、家でも居場所はないから私は眠っている時だけしか好きになれない。
そういうわけだから心の健康を考慮して、時々、保健室に避難する。
白い保健室の布団が白い鉄製パイプ式ベッドの上にあって、そこへ身体を滑り込ませたら、拒否られてるかと思うくらいな冷たさ、温度差。
くじけそうになりながら、クリーム色のカーテンが窓の向こうの輝かしい日を遮断しようとも、私はただ温度が布団と馴染むまでひたすらにもぞもぞしている。
保健室の匂いを吸い込む。
消毒液の匂い、シーツの糊の匂い、あと、先生の香水の匂い。
清潔で透明な匂い。
とても好きだ。
私も同じ香水をつけてみたい。
危険を察知するために過敏になった私の脳波が緩やかに平坦になる。
仕切りカーテンの向こうで保健便りを作成中の先生の気配が脳みそを柔らかく溶かしているのかもしれない。
先生、またその長い髪に触れたい。
先生、もう一度、細くてきれいな指で触れてほしい。
微睡みの中で、先生のことと保健室の匂いで私は段々と疚しい気持ちになる。
布団はすっかり私の温度になっていて、馴染んでいた。
先生……
もう夢の中なのか、先生が私を見下ろして微笑み、顔を近づけてくる。
先生、香水つけてますか?
つけてないわ
先生、いい匂い
あなたも、いたいけな匂い
先生……
もう夢でもいい。
先生が私を大切に丁寧に扱ってくれるから、私は生きていてよかった、と心から思うのだった。