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黄金竜外伝  作者: 雷帝
7/9

黄金の料理長(後編)

モーニングスター大賞一次通過してました

……とはいえ、二次が問題なんだよなあ

 ガロイカ公爵家反乱を起こす。

 その一報が王宮に届いたのは間もなくだった。

 当主の、いやもう前当主となったガロイカ公爵は王都の屋敷で配下ごと皆殺しにされ、それに不満を持ったとされる跡継ぎが兵を挙げた。

 後の説では「彼は王国成立前から国に仕える王宮料理長によって父が殺された事で、国が、ひいては王家が彼の家を抹殺に動いたと考えたのではないか」とする研究者もいるが、反乱にまで至った経緯は全くの不明である。

 

 何故不明になったのかは後で分かると思うが、この反乱の原因となったという事で王宮料理長に苦言を述べる者はいた。

 いたが、それ以上は出来なかった。

 名門とか、王国建国来ずっと生き続けている王国史そのものというべき存在というだけの話ではない。実は彼女自身の領地の実力にもあった。

 元々もっと王国が狭い頃に与えられたものなので王都に程近いという事もあるが、現在では商都と呼ばれる程の、王都が政治的中心ならば、経済的中心というべき立場を確立している。そんな場所ともなれば普通は王家との交換という事になるのだろうが、これがそう簡単な話ではない。

 理由は単純で、まず彼女の領地では税が異様に安い。

 王国では税の割合はある程度貴族の裁量に任されており(これもかつての都市国家群の寄り合いだった名残だ)、最大課税率と最小課税率の設定はされているが、大抵の貴族領では最大税率となっている。ところが、彼女の領地は長年最小税率のまま。これでは交換した段階で他からの不満が上がりかねない。かといって税率を上げてはその最大の旨味が消えてしまう。

 おまけに治安が抜群に良い。

 最低限の治安維持要員しかおらず、屈強な部隊など存在していないのにその領地には野盗の類が全くおらず、おまけにこの領地内で不正はありえない。大商人による圧力すら存在していない。

 ……そこら辺には初期の頃から入り込んだ野盗が例外なく消息不明になっているせいでちょっとでも知識のある野盗達にとっては恐怖の地と化しているとか、圧力や不正を行った大商人が間もなく突然、それに手を貸した役人ごと全員謎の死を遂げているとかいった歴史があるからこそなのだが。

 要は「真っ当に商売をしている限りは鍵をかけずに安心して眠れる上、夜出歩いても問題ない税金がとっても安い街」という訳で、これで商売が発展しない訳がない。

 ないが、それを当人が移動時に面倒だからと魔法で整備したとかいう格安で完成した街道や橋含めて真似出来るかといえば話は別だ。というか真似出来る訳がないし、真似しようとか何とかその方法を探ろうとした者はいても、誰も成功していない。

 結果、例え交換しても「王宮料理長の新しい領地が新しい商都になるだけじゃね?」という疑念がぬぐえず、そのままになっている。

 

 つまり、王宮料理長自身がほとんど不干渉といえど、料理長に下手に干渉すれば商人達から睨まれる事になる。

 それはそうだろう、商人達からすれば現在の商都の税率や安全を保障する、少なくとも彼らがそう考えている大きな要因が王宮料理長当人だ。商人達からすれば喧嘩を売った、その相手と商売している事をもしも、王宮料理長が不快に感じたらどうだろうか……?そう考えざるをえない。

 

 「なら商都を出て行けばいいんじゃ?」


 そう思うかもしれないが、他の大商人などが集まっている商都を出て行けば当然、商談などに遅れを取る率は高まる。

 それを考えると商人達が、その敵対した貴族を切り捨てる可能性をどうしても責任追及する者は考えざるをえず、ある程度以上まともな頭を持っている貴族は商人を敵に回す、かもしれないという危険性を甘く見る事が出来ずにいる訳だ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「済んだ事は忘れよう」

 「……そうだな、起きた事への対策を考えよう」


 だから、対策会議での王家や大貴族からのこんな発言に繋がったとも言える。


 「しかし、どうするか。兵の集合命令自体は既に出ている訳ですが」


 そこからが問題だ。

 王国軍相打つなど、王国軍からすればまったくもって有難くない。相手が長年精鋭を育んできた領主となれば尚更だ。そんなもの喜ぶのは他国の者ぐらいだろう。


 「最良はこちらの被害ゼロ、ガロイカ公爵家とは示談成立となる事ですが」

 「馬鹿言うな、反乱を起こす前ならともかく、起こした後で示談などありえんわ!!」

 「ですよねえ」


 そんな事をすれば、「力さえあれば反乱起こしてもおっけー」という前例となってしまう。以後間違いなく王国の統治は不安定なものとなってしまうだろう。勘違いしたバカが自分の意見を通す為に武力で脅迫するという行動を取る光景が嫌でも目に浮かぶ。

 で、ある以上最早ガロイカ公爵家の討伐は確定だ。最善の結果であっても王国側が勝利した場合、ガロイカ侯爵家に待っているのは今回反乱を起こした跡継ぎは処刑、家名を残すにしても領地替えの上、反乱に関わっていない遠縁から新たな当主を迎え、爵位は子爵か男爵に下げるといった所だろう。六大貴族の一角はおろか、名門公爵家としては終わりだ。

 つまり、勝つしかない。

 それだけに、「何でこんなアホな真似したんだ、他にも取る手はあっただろうに」というのが殆どの貴族の本音だったりする。

 

 「理想を追求しても仕方あるまい。最低限これだけは達成したい事から決めて行こう」

 「そうだな」


 溜息と共に話を続ける。

 もっとも、正直に言えばある程度は決まっている。


 「まず、ガロイカ公爵家を中心とした反乱軍の討伐、これは必須だな」

 「うむ」


 ガロイカ公爵家の領軍。

 これに、公爵家と深く関わりすぎていて今更引き返せない家が複数。

 後がない事が分かっているからどの家も限界一杯まで動員している為、数は意外とバカにならない。ただ、本当の意味で中核になる部隊となると数は限られるだろうが……それでも千や二千では収まるまい。


 「次がなるだけ損耗を抑える事か?」

 「だが、だからといってそれを軍に命じられるか?」


 こちらの損害は最小限に、相手の損害は最大に。

 理想ではあるが、実際に出来るかどうかはまた別問題だ。

 下手をすると、将軍らがそれを優先した結果、作戦の自由を縛る事になり、思わぬ損害。最悪敗北を喫するという可能性もない訳ではない。相手がなりふり構わず勝とうとしてくるであろう中、こちらは相手を殺しすぎないように、という制限を加えるなど愚の骨頂だ。

 せめてこちらが戦力で圧倒しているなら話は別だが、実際には相手の側が先に戦力を整える時間を得た事を考えるとそこまで大差はつけられないだろう。常備兵の数は限られていて、それ以上を集めるとなるとどうしても時間がかかる。それを考えると……。


 「ま、運が良ければ、というのが精々だろうな」


 という結論にならざるをえない。

 敗退が決定して逃走を開始した場合は無理な追撃をかけない。その辺が落とし所だろう、それが結論だった。軍を率いる事になっている将軍職にある貴族(中級貴族だったので大貴族達の発言に割り込めず黙って聞いていた)もそれを聞いてほっと溜息をついていた。

 

 「しかし、やはり反乱が起きるまでとは料理長殿、やりすぎたのでは?」


 会議の最中、そんな事を言い出す者がいた。

 当の王宮料理長は今回、当人にもある程度反乱の原因があるから、という理由から会議に参加していた訳だが興味なさげな彼女に視線を向けての発言に、「またか」と言いたげな顔をする者が幾人もいた。原因は単純で、今回反乱に加担する程ではなかったものの、六大貴族の一角ガロイカ侯爵に太いパイプを持ち、当然その恩恵にも預かっていた貴族だったからだ。彼女が踏み込んだ結果、当代のガロイカ公爵は死亡。跡継ぎは反乱を起こし、このままいけば没落。頼る家を乗り換えるにしても、後から乗り換えた家では当然、これまで並の恩恵は受けられない、となれば文句も言いたくなるのだろう。

 

 「多少なりとも責任を取られて、そうですな、魔法がお得意という事ですし、一つ敵方に魔法をご披露していただくのはどうですかな?」 

 「かまわない」

 「さすれば損害も減るかもしれませんしなあ、はは……は?」


 思わずといった様子で当の貴族が、いや会議室にいる全員が王含めて王宮料理長に視線を向けていた。


 「落ち着いて料理も出来ない。さっさと片づけてくればよいのでしょう?」


 そう言うと王宮料理長は立ち上がって会議室を出て行った。

 余りにも自然なその様子に反応出来なかった一同だったが、直後に慌てた王の。


 「っていかん!おい、一人で行かせてはならん!」 

  

 の命令に慌てて騎士達が動くのだが、既にこの時会議室外の近衛騎士達からは……。


 「追いかけるって……」

 「どうすんだよ」


 そう言いつつ、視線を向ける彼らの目は窓に向いていた。

 ……そう、先程ごく当たり前のように人では落ちたが最後あの世逝き確実の高さにあるそこから身を躍らせ、慌てて下を覗き込んだ彼らの視線の先で城門を通過、爆走していく王宮料理長の姿を見ていたからだ。

 馬でも無理だろ、そんな諦観を抱きつつ命令は命令なので知らせに走る彼らだった。

 



 ◆ 




 ガロイカ公爵領の兵士である彼はそうたいした事を考えて兵士になった訳ではない。

 ただ、生活の為に兵士になった。

 平時には兵士とて誰でもなれる訳じゃない。数を雇いすぎても仕方ないし、犯罪者を下手に雇って隠れ蓑にされてもたまらない。治安活動の為にある程度の数が必要とはいえ、流れ者を雇うぐらいなら「ご近所の治安を守りたい」という気持ちを持った者を兵士にして街の治安活動に用いた方がいい。

 なので、結果として殆どの兵士は推薦になる。

 現役の兵士が親戚や知り合いの二男三男などの家業を継げない者などを推薦する訳だ。或いは、知り合いが伝手か少額の献金でもって、兵士に推薦してもらったりする。これが金持ちになると、騎士に推薦してもらったりする訳だ。

 彼の場合は特別なドラマなどなく、宿屋の三男坊として生まれ、叔父さんが兵士であった為に推薦を受ける事が出来た。叔父さん当人も三男坊で父が宿屋を受け継ぐ際に献金で推薦を受けて、兵士になったらしい。職人になる道もあったが、彼同様「体を動かす方が性に合っていた」から兵士を選んだらしい。そうした共通点もあって昔から可愛がってもらっていた。叔父さんには子供は奥さんとの間に娘が二人だけで、男の子がいなかったのもあっただろう。

 その叔父さん当人は年を食った事もあって現在は兵士の食を賄う食堂で働いている。「子供の頃、家の宿で飯作りの手伝いさせられてたのが役に立ってる」と笑っていた。年を重ね、加えて妻子を得て安全を望む者はこうした後方への配属を望む事も出来るが、それなりの技術を何か持っておかないといけない。ないからある日突然クビ、なんて事はないがないのに体も動かないとなれば荷物運びとか倉庫番といった仕事が精々だとは先輩や親戚から口を酸っぱくして言われる事だ。

 だから、まだ先の話だと考えずに、彼も考えてはいたのだが。


 「けど、まさか王国の軍と戦う事になるとはなあ」


 どこか不安な声が周囲からも聞こえる。

 

 「まったくだ。親方様、上手く終わらせてくれるといいんだけんど」


 そうだよなあ。

 彼も声は出さないもののそう思う。

 まさか領主様、ガロイカ公爵が王国に対して反乱を起こすとは誰も思わなかった。このまま安定して兵士を続けて、その内同僚なり親戚なりから嫁を迎え、やがて自分も叔父みたいに現場の兵士から後方の裏方に回ってのんびりやっていくのだろう。そんな風に思っていた。

 野盗退治とかで出動する事はあるが、大抵の場合は正規部隊が出撃すれば野盗は逃げる。

 追い払って、しばらくそこに滞在して被害が出なくなったら帰る。大抵の野盗退治などその程度だ。いやまあ、実戦経験がない訳ではないのだが……。


 「とりあえず生き残る事優先するしかねえよ。俺らみたいな下っ端までいちいち罰したりしねえだろ」


 無職になる可能性はあるが、真面目にやって生き残ればそのまま兵士を続けられる可能性は十分にある。街は残るだろうし、そうなればそこに慣れた人間を雇うのは当然だろう。

 そんな風に考えていた彼は戦場にやって来た一人の女性、上から捕らえるよう命じられた女性――王宮料理長に仲間達と共に駆け寄り、そして、あっさりと人生の終焉を迎えた。

 彼はただ命じられて駆け寄っただけだった。

 駆ける先にいるのは一人の服装自体は立派なものを着た一人の女性。どこかその姿を見た彼はどこかでほっとしていた。これだけの兵士で駆けよれば、抵抗などもしないだろう。きっと素直に捕らわれてくれるだろう、後は上の人の所に連れて行くだけだ。そんな風に考えていた。  

 だから無造作に彼女との距離を詰め――灰になった。

 目の前を駆けていた仲間が一瞬で消えた事に後続が驚愕の声を上げる間もなく見た後続の者自身がまた灰になり、そのまた次が。

 警戒や恐怖の声を上げる間もなく焼滅しただけではなく、まとまった人数に加え起伏のない土地、更には一人に対して殺到した事が災いした。何しろ、前方で何が起きているのか視界が効かない為に分からず、大軍である為に後から後から押し寄せる。それは前にいる者は立ち止まれないという事でもある。


 「と、止まれ!おい、止まってくれ!」


 だからそんな声が上がったのは人の密度がスカスカになってから、すなわち向かった数百人の殆どが燃え尽きた後の事だった。

 視界が効くようになって後方の者が声を上げる余裕が出来て、必死に声を上げる。悲鳴とも言えるその声も数百人ならともかく、数十人レベルでならば後ろにも聞こえる。

 それでもだからといって勢いがついた状態ですぐに止まれた訳ではなく、助かったのは僅かに二十名程。王宮料理長に向かった部隊五百名の四パーセント程度でしかない。

 ガロイカ次期公爵はきちんと軍事の教育を受けていた為に、ちゃんと軍の前方へと斥候を複数放っていた。自分の行動を王国が認める訳がない事ぐらいは重々理解していた彼は討伐軍が送られるであろう事も理解しており、それ故に先手を打つべくきちんと手を打っていた。

 そうした斥候部隊から次々と入って来る中で湧いた一つの情報。

 そう、王宮料理長の接近だ。

 姿を写し取る魔道具を用いて(一度写したものを一度だけ映し出す水晶球)姿を確認したガロイカ次期公爵はさすがにそれが王宮料理長であると分かった。

 

 「どういう事だ?」


 彼も既に王宮料理長が父を殺した事を知っていたし、魔法の達人である事も知ってはいた。

 しかし、一人だ。

 さすがにまさかたった一人で向かってくるとは思わない。

 当初は使者かと思ったが、普通「父が殺された息子の所に、政治にこれまで何も関わりのない、父の仇でもある料理長」を送って来る事はなかろうと判断した。使者らしい印を持っている訳でもない。それでも一応、ガロイカ侯爵は使者である可能性を考え、指揮官には誰何と用件を確認する事を命じた訳だが……。


 「真っ向押しとおって来るだなぞと誰が予想するかっ!!」


 たった一人の王宮料理長によって、強引に陣は突破されつつあった。

 兵士を突っ込ませれば焼滅する。

 弓を撃てば、矢が空中で焼滅する。

 魔法を撃たせてもやっぱり途中で焼滅する。

 消滅ではなく、焼滅というに相応しい膨大な見えざる超高温の炎が彼女の周囲を覆っており、それが全てを燃やし尽くしてしまう。水魔法の使い手が彼女が結構な大きさの池の傍を通る際に水を操って、その膨大にも見える量の水を叩きつけてみたが、それすら一定以上近づいた瞬間片端から蒸発していった。

 普通なら高温の水蒸気が滞留するはずだが、どうやら炎の周囲には更に風をまとっているらしく、それも一瞬で吹き飛ばしてしまった。

 

 「駄目ですっ!止められません!!」

 「第八歩兵隊壊滅!!」

 「退避急がせろっ!!近接攻撃なぞ仕掛けたら死ぬぞ!!!」

 

 罠も無駄。落し穴ならば穴自体はさすがに燃える事もないだろうが、地上を隠す蓋の部分が燃え尽きて、穴が露出してしまえばさすがにそんなものに落ちる奴もいない。せめて足止めつらいはと思っても盾を並べても無駄だし、魔法も矢も効果がないとくれば手の打ちようがない。現在はまるで道を開けているかの如く左右に兵士が並ぶ間を堂々と近づいてきつつあるところだ。

 しばし考え込んでいたガロイカ次期公爵のはずだったは顔を上げて言った。 

 

 「……竜が現れた、そう滅竜教団に伝えろ」

 「はっ?」

 「聞こえなかったのか?高位の竜が現れたから出動を願う、そう滅竜教団に伝えるのだ」

 「は?し、しかし竜などどこに……まさか!?」

 「そうだ、王宮料理長の事を正体は竜だと伝えるのだ」

 

 さすがに絶句していた家臣達の一人が恐る恐るといった様子で口を開く。

 

 「あ、あのさすがにそれは無理があるのでは……」


 怒るかと思いきや、当然といった様子でガロイカ次期公爵は頷く。


 「分かっている。だが、奴を止められそうな武力を持つ集団がこの近辺に他にいるか!?」

 「そ、それは……」

 「言いがかりでも何でもいい!滅竜教団の連中に竜だと思わす事が出来れば奴らは自分達から動く!」


 どうやらガロイカ次期公爵は理解した上で時間稼ぎの為に彼らをけしかけようとしているらしい。

 が、家臣達はさすがに戸惑う。滅竜教団は竜を狩る集団であり、彼らの存在が知性なき下位竜達の襲撃に対する民達の希望となっている事は周知の事実。ガロイカ公爵領においても、はぐれの下位竜の襲撃で滅竜教団のお世話となる事案は普通に起きている。下位竜は結局強い動物と大差なく、場合によっては彼らの排除で却って生態系が乱れる事がある事に加え、一部の下位竜は飼い慣らしたり、畜産も可能である為に昨今ではある程度保護の対象となっている訳だが、どうしたって動物である以上は軽いものでは農作物を荒らされたり、家畜が襲われたりといった事案が発生する。

 そんな集団をここで下手に消耗させてしまう危険性と、そんな事をすれば滅竜教団がガロイカ公爵領を敵に認定するのではという恐怖が彼らを縛る。

 

 「なにをしている!あの女を竜にしなければ……!」

 「私が竜?」


 動かない家臣に業を煮やしたか、ガロイカ次期公爵が声を荒げかけた時、穏やかな声がかけられた。

 その女性の声に周囲が凍り付き、恐る恐る視線を向ける。そこには平然とした様子で佇む王宮料理長がいた。


 「それで?私が竜という事にする訳?別にいいけど、間に合うの?」

 「……いや、手遅れだ」


 滅竜教団の所に急ぎ走り、嘘を告げて出動させ、到着してから騙して交戦に追い込む。

 それにどれだけ時間がかかるか分からないが、どう考えても目の前に既に到着している以上、間に合う訳がない。


 「もう少し時間が稼げると思ったのだがな……私が恥を考えず逃げた方が時間稼ぎには良かったか」

 「そうね、そうかもしれない」


 全ては仮定だ。


 「まあ、痛くないようにしてもらえると助かる。後は私の首と引き換えに配下は助けてほしいのだが」

 「私は反乱が終わればいい。だから王都まであなたを連れていくつもりだったけど?」

 「はっはっは、それは有難いな。王に直接願えるならそれに越したことはない。ああ、お前達、そういう事だそうだから、剣を収めよ」


 ガロイカ次期公爵は諦めた者故の諦観だろう。奇妙な程にさばさばとした様子で、せめてと剣を抜いた家臣達にも声をかけている。

 家臣達にしても事ここに至れば、最早どうにもならない事は重々理解している。主君の命令にどこかほっとした様子でもあった。


 かくして、ガロイカ公爵家の反乱は予想を遥かに超えた短期間で終結する事になった。

 そして、ガロイカ次期……いや、元公爵が処刑までの間に面会に来たかつての知り合いに語ったり、或いは戦闘に参加した者達の口から王宮料理長の余りに凄まじい魔法の力の話もまた広まり、一軍をも制する彼女の力への恐怖もまた広まっていく事になったのだった。

予想外に長引いてしまいました

次回今回の話のエピローグとして、王宮料理長を一旦離れる事その他のお話を書く予定です

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