最終話「そろそろお時間です」
「コスモさん、お待たせしま……」
自分の支度を終えて控室に入ってきたミーティアはコスモの姿を見るとその場に固まった。
「あら、ミーティア。どうしたの?」
コスモが微笑んだのを見て、ミーティアは自分の顔を赤らめた。
「綺麗……です」
白いウエディングドレス姿に身を包んだコスモは別の世界の生き物のように美しく輝いていた。ドレスがとてもよく似合っているというだけではない。内面から色気と美しさがにじみ出ている。
「ふふ、ありがとう。ミーティアもとても綺麗よ」
「そう言っていただけるのは嬉しいですが、今は皮肉にしか感じられません……。そして、このコスモさんと並んで歩くかと思うと震えが……」
「そんな、大げさよ」
コスモはゆっくりと立ち上がって、普段よりも長いドレスの裾を踏まないように慎重に歩いてミーティアの近くまでやってきた。
「ミーティア」
ミーティアの手はコスモの手に包まれた。
「今日で本当に私と貴女は姉妹になるのね」
「……はい」
「私、とても嬉しい。ミーティアみたいな可愛らしい妹ができて。これからもよろしくね」
「お義姉様……はい、こちらこそよろしくお願いします」
二人で笑い合ったが、ミーティアの目尻にはじんわりと涙が溜まった。
「ラッサム様とはもうお会いになられましたか?」
「いえ、まだよ」
「きっと、いや、絶対にラッサム様もコスモさんを見たら驚きますよ。あまりにも綺麗なので」
「そう……かしら」
コスモは恥ずかしそうにミーティアから目線を逸らして頬を赤らめた。最近、二人の様子がおかしいと心配していたけれど、今日の二人の様子を見る限り大丈夫そうだ。そう思うと嬉しくてミーティアも微笑んだ。
その時、タイミング良くドアがノックされた。きっと双子の王子が来たのだろう。二人は目線を合わせて同時に返事をした。
ドアが開いて正装をしたラッサムとアッサムが入ってきた。白い衣装を纏った二人は正に王子。とても似合っていて格好いい。
ラッサムはコスモと、アッサムはミーティアと目線を合わせた。アッサムは、
「わぁ……」
と、感嘆の息を漏らし、ラッサムは顔を赤くして目を見開いて、それぞれその場に立ち尽くした。その二人の驚いた顔があまりにも似ていたので、コスモとミーティアは顔を見合わせて吹き出した。
それで我に返ったアッサムは、
「何ていうか、その……綺麗だよ」
と、ミーティアを見つめながら言って、
「ねぇ?」
と、隣のラッサムに同意を求めた。
「あぁ……」
コスモが遠慮がちにラッサムを見ると、ラッサムは不意に表情を崩して、
「綺麗だ」
と、言って微笑んだ。その笑顔の破壊力はものすごく、コスモは顔を真っ赤にし、アッサムとミーティアまで驚いて口を開いてしまった。
「ありがとう……」
小さな声でお礼を言ったコスモを見て、アッサムはふふふ、と笑った。
「ごめんね、コスモ。兄さんがずいぶん遠回りをしたみたいで」
「聞いたの?」
「全部聞いたわけじゃないよ。だって兄さんが自分の口から教えてくれるわけ、ないだろう?」
「そうね」
笑い合うコスモとアッサムを見てラッサムはバツの悪そうな表情を浮かべた。
「でも、わかるよ。まさか子供の頃の悪戯がこんな結果を生むとはね」
「もういいだろう」
ラッサムが堪らず声をあげる。
「いや、でも本当に良かったよ。コスモと兄さんが幸せじゃないと、僕も気が気じゃないからね」
「アッサムはお兄さんっ子だからね」
ミーティアがくすりと笑った。
「アッサムもミーティアも、ごめんなさい。心配かけて」
「コスモが謝ることないよ。それに、よく思い出してみれば、僕もコスモに謝らないといけないんだ」
「どういうこと?」
「入れ替えを提案したのは僕なんだ」
アッサムは肩をすくめた。
「兄さんはずーっとコスモのこと好きなのに、なかなかアプローチできないのを見て、じゃあ僕になってコスモに話しかけてみたらって言ったんだ。それがまさかこんなことになっているとは思わなかったけど」
「おいっ」
「ずーっと?」
ラッサムの静止むなしく、コスモはその単語を聞き逃さなかった。
「そうだよ。コスモが初めてコブルスルツ城に来た時から好きだったんだよ。僕はあの時、兄さんが一目惚れする瞬間を見てしまった。兄さんったら顔を赤くして固まっちゃってさ。それなのに素直になれないもんだから、なかなかコスモに話しかけられないどころか冷たい態度を取るし……」
「アッサム!」
ラッサムが軽く手を挙げて殴るようなポーズを取ると、アッサムはささっと逃げてミーティアの腰に手を回した。
「さ、僕達はお邪魔だろうし、別の部屋に行こうか」
「そうね」
アッサムとミーティアがくすくすと笑いながら部屋から出ていくのをコスモは顔を赤くしながらぼーっとただ見ていた。初めてコブルスルツ城に来た時から、一目惚れ?
パタン、とドアが閉まると、同じく赤い顔をしたラッサムがコスモの方へ歩いて来た。
「あれは……その……」
「本当?」
コスモはラッサムを見上げて尋ねた。
「……あぁ」
ラッサムは自分の髪をくしゃっと握りしめて、苦しそうにそう言った。
「ラッサム……」
コスモは自分の化粧がラッサムにつかないように、控えめに顔をラッサムの胸に寄せた。ラッサムもコスモの腰に手を回して軽く引き寄せた。
「もう、ラッサムは本当に不器用なんだから」
くすりと笑ったが、コスモの瞳は僅かに赤くなっていた。
「これからは改めるよう努力する」
「よろしくね」
二人は目を合わせて微笑んだ。その姿はとても幸福なもので、温かな空気が二人を包み込んだ。
コンコン、とドアがノックされ、外から、
「そろそろお時間です」
と、時間を告げる声がした。
「行こう」
「はい」
二人は手を取って歩き始めた。そして、ドアを開けてさらに光輝く場所へと共に進んでいった。
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読んでくださったみなさまには感謝の気持ちでいっぱいです。
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