第十四話「あら、失礼なこと言わないでよ」
いよいよ婚約パーティの時。支度を済ませたコスモ達は会場の前に集まった。中からは既にたくさんの人の声とゆるやかな音楽が聴こえてくる。
アッサムは緊張した様子のミーティアを一生懸命に励ましていた。
「コスモは緊張……していなさそうだな」
ラッサムもコスモに声をかけてきた。
「えぇ、久しぶりのパーティ、しかもコブルスルツ城でのパーティにワクワクしているくらいよ」
コスモは頬を上気させて笑顔を見せた。ケンリウム国から持ってきた一番お気に入りのピンク色のドレスに身を包み、普段よりもしっかりと化粧もしている。その姿はとても美しく、ラッサムはチラリと見たきりコスモを直視できずにいた。
そんなラッサムも、普段とは違う白い生地に金色の刺繍が華やかな衣装を身にまとい、髪の毛もしっかりとセットされている。アッサムも同じ服を着ていて、二人並ぶと目を引く鮮やかさだった。
ミーティアは胸元の大きく開いた黄色いドレスを着ていて、鮮やかな色からミーティアの綺麗さが際立っている。
「ミーティア、そんな青白い顔をしていてはせっかくのドレスが台無しよ。そんなに綺麗なんだから、あとは堂々としていればいいの」
コスモも堪らずミーティアに声をかけた。
「は、はい。ありがとうございます、コスモ様」
「自信のなさは外側に出るわ。堂々としていれば少し間違いがあったところで、それも自分を際立たせる武器にしかならないものよ」
「コスモ様……はい、ありがとうございます」
ミーティアの瞳がキラリと光って、背筋を伸ばした。二人の様子を見てアッサムが嬉しそうに笑ったが、二人はそれには気がついていなかった。
「それではご入場、お願い致します」
ドアマンに告げられて、コスモの顔が一層引き締まり、顔には可憐な笑顔を貼り付けた。
「コスモはグリーゼ王子に似ているな」
ラッサムが隣のコスモにだけ聞こえる声でぼそっと呟いた。
「あら、失礼なこと言わないでよ」
コスモは完璧な笑顔を崩さないままラッサムに毒づいた。
ドアが開いてきらびやかな内装と華やかな参加者がこちらを向いているのが目に飛び込んできた。盛大な拍手に包まれてコスモ達は光の中に溶けていく。
フロアの一番目立つところまで行くと、セントラ国王よりコスモとミーティアの紹介、正式な結婚の日程についての説明があった。会場内の人達は皆笑顔で祝福した。その場の中央で笑うコスモは完璧な美貌で、ミーティアはその幸福そうな笑顔で出席者の誰をも魅了していた。
セントラ国王の話が終わると、いよいよパーティが幕を開ける。まずは四人が会場の中央で一曲踊ることになる。コスモは周囲の視線を感じながらラッサムと向かい合った。しっかりと目が合うと、ラッサムの気持ちについて思い出されて少し恥ずかしくなる。しかし、その感情に負けることなくラッサムをしっかりと見つめた。
ミーティアは向き合ったアッサムがとても優しい笑顔で笑っているのを見て、緊張を忘れて胸を高鳴らせていた。
ゆったりとした音楽が流れ始める。四人はその音楽に合わせてステップを踏み始める。ラッサムに腰を抱かれて密着した状態になることに対して緊張と恥じらいを感じていたコスモだったが、踊り始めるとそれを忘れて楽しそうに音楽に身を任せた。
「ねぇ、覚えている?ラッサム」
コスモが周囲に聞こえないくらいの声でラッサムに話しかける。
「子供の頃、ここでパーティが行われていた時、私達が外でその音楽に合わせて踊ったこと」
「……あぁ、覚えているよ」
「楽しかった、とっても。でも、今の方がずっと楽しい。会の中心で踊ることができるのだから」
「そうか」
ラッサムも人に見られているとあって、いつもより表情を和らげてコスモを見ていた。そんな表情もできるんじゃない、とコスモの心は少しざわめいていた。
「相変わらずラッサムの踊りは上手ね。安定感があるわ」
「それはどうも」
「アッサムの方が目立つけれど、実はラッサムの方が一緒に踊っている方は楽なの。女性を引き立たせてくれる。だから、アッサムが女役になった時の二人の踊りは最強なのよね」
コスモは上気させた頬でクスリと笑った。
「よく覚えているな」
「えぇ、だって二人の踊りは私が嫉妬してしまう程に上手なんだもの。帰ってからグリーゼ兄様と密かに特訓したくらいよ」
「そうだったのか」
ラッサムがゆるく笑って、コスモの胸も小さく跳ねた。
「だが、昔からコスモの踊りにはアッサムにはない女性らしさがあった。子供なのに色気すら感じられて、そういうところがグリーゼ王子と似ていると思ったよ」
「あら、本当?兄様と似ている、というのは素直に受け入れたくないけれど」
「褒めているんだがな。確かに俺はグリーゼ王子が苦手ではあるが、尊敬はしている。身の振る舞い方も、政治的手腕も。コスモとグリーゼ王子は独特の気品があって、それはどの貴族にもない、特別なものだと思うよ」
ラッサムの瞳から感じたことのない熱を感じて、コスモは思わず笑顔を崩しそうになってしまった。ドクドクと速まる鼓動をなんとか抑えて、優雅な表情に戻してから、
「確かに兄様は、悔しいけれどすごい人間だとは思うわ。でも、ラッサムはあぁいう風にはならないでね」
と、告げた。
「俺はどう足掻いてもあぁいう風にはなれないだろうさ」
「そうね、でも、それがラッサムのいいところでもあるのよ」
今度はラッサムの表情が崩される番だった。照れくさそうにして顔を逸らそうとした。しかし、何とか踏みとどまって、
「コスモは俺みたいな男は好みではないと思っていたのだが」
と、少し男らしい顔になって言った。あ、今なら聞けるかもしれない───
「ねぇ、ラッサム。ラッサムは私の事、好き、なの?」
二人の時間が止まると同時に音楽が鳴り止んだ。動きを止めて見つめ合う二人の耳に会場全体からの拍手が聞こえてくる。二人は同じタイミングで止まった時を動かし、目線を外してアッサム達に続いて会場内の人達に礼をしたのだった。




