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第十二話「ま、まさか」

 デーラとの会話を終えてコスモは顔を赤くしたままふらふらと自室に戻った。ラッサムが私のことを好き?そんな馬鹿な。私と居ても少しも楽しくなさそうなラッサムが?コスモは頭を抱えた。


 デーラの言う通り、ラッサムに本心を聞いてみようか。しかし、聞いてどうするのだろうか?私はアッサムのことが好きだった。いや、今だって本当は好きだ。それなのに、もしラッサムの気持ちが私にあったとして、私はそれにどう応えるのだろうか。


 うーん、うーんと唸っていると、心配した顔のロロが部屋に入ってきた。


「大丈夫ですか、コスモ様。もう夕食の時間ですが」


「夕食!?もうそんな時間……」


 コスモは熱い頬を冷たいテーブルの上に押し付けた。


「どんな顔をして会えば……」


「コスモ様?」


 ロロがコスモの顔を覗き込んできた。


「行かないと、いけないわよね」


「具合が悪いのですか?それでしたら夕食はお断りになっても……」


「いえ、そういうわけではないのだけれど」


 コスモはもじもじと下を向いて口ごもった。


「ね、ねぇ、ロロ。ロロから見て私とラッサムはどうかしら。ラッサムは私の事、どう思っていると思う?」


「えぇ?ラッサム王子ですか?」


 ロロは首を傾げてから、


「コスモ様のことをとても大切にされているように感じますが」


 と、当たり前のことを言うように答えた。


「本当に?私より、例えばミーティアとの方が仲が良かったり、大切にしているようなことはない?」


「それはありえません!」


 ロロはきっぱりと言い切った。


「どうして?」


「ラッサム王子は廊下でミーティア様とすれ違われても兵士やメイドと交わすようなそっけない挨拶しかしません。それに対してコスモ様のことは時折じっと見つめられていることもありますし、何より毎夜紅茶を共にされているではありませんか。一人を好まれるラッサム王子からしたら考えられないことですよ!」


 ロロに強く力説されて、コスモはさらに顔を赤くしてたじろいだ。ラッサムがミーティアを想っている、というのは勘違いだったのだろうか。


「ま、まさか」


「コスモ様はラッサム王子のお気持ちが自分に向いていないのではないかと心配されているのですか?」


「そ、そういうわけではないのだけれど……」


「コスモ様が何を思い悩まれているのかはわかりませんが、少なくとも私にはラッサム王子がコスモ様を慕っていらっしゃるように感じます」


「し……慕って……」


 コスモは自分の顔を両手で覆った。


「大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫、大丈夫よ。ただ、その……ラッサムが私のことを好き、とかそういう感情で見ていると思っていなくて……あぁ、どうしましょう」


 コスモは耳まで真っ赤にして激しく動揺を見せていた。


「と、とにかく夕食よね。行かないと」


 気を取り直して立ち上がり、ドアの前で深く息を吐き出した。


「行ってくるわ」


 食堂に入るとイリーナ王妃とアッサムとミーティアはいたが、ラッサムはまだ来ていなかった。コスモは席に座って息を整えた。


「待たせたな」


 セントラ国王の声にピクリと反応したコスモだったが、続いてやってくるラッサムには目を向けることができなかった。


 食事の最中もコスモの頭の中はパニックになっていた。コスモにとって男性から好意を寄せられることは初めてのこと。自分の夫となる人から好意を寄せられることはよく考えたら普通のことなのだが、コスモはラッサムが義務的に婚約しただけでそこに感情など一切ないと思いこんでいた。それに、この感情を表さないラッサムが誰かに好意を示すとは思ってもみなかった。


 まだラッサムが義務的に、婚約者だからとプルクリアの花をくれた可能性はある。それでも、ラッサムの感情を垣間見せるような行為と第三者から見た言葉にコスモはどうしたらいいかわからなくなっていた。


 食事が終わり、ラッサムはいつものように立ち上がった。コスモは心臓をドクドクと大きく鳴らしながら、それに続いて立ち上がって食堂を出た。


 いよいよ二人きりの時だ。どんな顔をして話をしたらいいのだろう。プルクリアの花のお礼も言わないわけにはいかない。そこで、もし、ラッサムから想いを告げられるようなことがあれば、どんな反応をしたらいいのだろうか。


「……コスモ?」


「えっ!?」


 ラッサムからの問いかけにコスモは過敏に反応して立ち止まった。どうやらしばらく前から話しかけられていたようだった。


「どうした?」


「い、いえ、何でもないの。それで、何の話だったかしら?」


「……今日のお茶はどこで飲むか、と尋ねたのだが」


「あぁ、そうだったわね。えーっと……」


 コスモは顔を赤くしながら一生懸命頭を働かせた。


「そうだ、中庭はどうかしら?デーラがこの前植えたマボランの花が咲いたと言っていたから、一緒に見るのはどうかと……」


 そこまで言ってコスモはまた顔を赤くさせた。マボランの花言葉『終わらない愛』を思い出したからだった。


「あ、えっと、別に深い意味はないのよ?ただ、デーラに見てほしいって言われたからだから!」


 何も言っていないのに弁解してきたコスモを不思議そうな顔で見ながら、


「それでは、今日は中庭にしよう」


 と、ラッサムはいつもの調子でそう言った。


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