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第十一話「ラッサム王子もなかなかやりますね」

 翌日。午前中は昨日と同じようにパーティについての勉強をして午後は休みの予定だった。しかし、午前中いっぱい勉強してもコスモは貴族の名前を覚えきれなかったし、ミーティアはダンスのステップがどうしても上手くいかなかった。


 そこで、ミーティアからの提案で午後は二人でお互いの不得意な勉強を教え合うことになった。コスモの部屋で、まずは貴族の名前を覚えるところから始める。


「えーっと、スロメジウス男爵は……」


「陶器を輸入して国内に流通させている方です」


「あー、そうだった。陶器、陶器ね」


 コスモは顔をしかめてこめかみを何度か叩いた。


「我が家でもスロメジウス男爵が輸入してきた陶器を良く使っておりました。コブルスルツ城でも度々使われていますよ。例えば、朝食でよく使われるお花の柄の食器ですとか」


「あの薄いピンク色の花柄の?」


「そうです!スロメジウス男爵は口髭が特徴の貫禄のある御方なのですが、持ってきて下さる陶器は花柄のものが多いのでそのギャップについ笑ってしまうのです」


「そうなのね」


 ただ名前を覚えるよりエピソードがあるとより頭に入ってくる。ミーティアに感謝しながらコスモは必死にメモを取った。


 それが終わると次はコスモがダンスを教える番だ。


「私が男役をやるから。ステップは一応決まりはあるけれど、基本的には男性に合わせておけばいいのよ。万が一間違ってしまったり相手の足を踏んでしまっても相手が上手ならば何とかしてくれるはずだから、あまり気負わないでね」


「は、はい」


 ミーティアはそれでも固い表情でコスモと向かい合って立った。コスモがミーティアの腰を抱くと、ミーティアがいかに細いのかがわかる。白い肌は儚げで強く抱いたら壊れてしまいそう。長い睫毛に少し赤くなった頬。これはアッサムが夢中になってしまうのもわかる気がする。


 コスモにとってミーティアは一応恋敵なはずなのに、人懐っこい性格と可愛らしい容姿からどうしても嫌いになることはできなかった。もしコスモにこんなに可愛い妹がいたら絶対に甘やかしてしまうだろう。


 何度か踊る内にミーティアはリラックスして上手くステップが踏めるようになってきた。


「コスモ様と踊っているとなんだか安心感があって落ち着いて踊ることができます」


「それが男性に合わせるということよ。リードが上手な男性と踊れば大きなミスをすることもないと思うわ。特にアッサムは踊りが上手だし心配することないと思う」


「コスモ様はアッサムと踊ったことが?」


 ミーティアに間近でそう尋ねられて、コスモはしまった、と一瞬バツの悪い顔をした。しかし、すぐに表情を戻した。


「幼い頃にね。城で舞踏会が行われている時に、子供は踊れないものだから、中の音楽を聴きながら外で踊ったのよ。アッサムとラッサム、交代でね。二人が一緒に踊ったこともあったわ」


「まぁ、男同士でですか?」


「そうよ。だから、二人は女性側の気持ちもわかっているはず。二人の踊りはとても綺麗だから」


 話しながらコスモはその様子を思い出していた。ラッサムのことも全然思い出はないと思っていたけれど、三人で遊んだこともあったんだ。


 ミーティアの踊りもなんとか形になって、二人はコスモの部屋で紅茶を飲んで休憩をした。パーティが終わるまではお菓子も禁止なので、紅茶だけをただひたすらに飲む。


「コスモ様のおかげでなんとかなりそうです」


「それを言うなら私も。だいぶ名前と職業が一致してきたみたい」


 二人は笑いあった。


 失礼致します、と言ってロロが白い花束を抱えて部屋に入ってきた。


「あら、ロロ。その花束は?」


「つい今しがたラッサム王子が帰って来られて、コスモ様に、と」


「ラッサムから?」


 ロロが花瓶に数本の花を挿してテーブルまで持ってきてくれた。白いしっかりとした花びらが五枚ついていて、内側に行くにつれてほのかに黄色くなっている。


「この花はなんという花なのかしら」


「申し訳ございません、そこまでは私も」


 ロロは申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいのよ、後で聞いてみるわ」


 白い花からは甘い香りが漂ってきた。


「お花を贈ってくださるなんて、ラッサム様は素敵ですね」


 ミーティアはうっとりと花を眺めていた。


「私が花を好きなことを知っているからたまたま、だと思うわ」


 コスモは咄嗟にそう言って紅茶を啜った。なんだか妙に気恥ずかしい。


「コスモ様を大事に想っていらっしゃるのが伝わってきます。アッサムだったら絶対にお花なんて贈ってくれませんから」


 ミーティアはそう言って肩をすくめた。コスモはその言葉にチクリと胸を痛めて上手く笑うことができなかった。


***


 ミーティアがコスモの部屋を後にしてから、コスモはラッサムに花のお礼を言おうと思ったが、ラッサムはセントラ国王の元へ報告へ行っているということで会うことができなかった。


 コスモはラッサムからもらった花を眺めた。しっかりしていて可愛らしい花。ラッサムがこれを選んでくれたかと思うとむず痒い気持ちになった。


 それにしてもこの花の名前は何と言うのだろう。図書室に行って図鑑を探してみようか、と立ち上がってふと窓から外を見ると、中庭に人影が見えた。コスモは花瓶に挿した花を一輪手にして中庭に駆けていった。


「デーラ」


 コスモが思った通りデーラが中庭で作業をしているのを見つけた。


「あら、コスモ姫。こんにちは」


 デーラは手を止めてコスモを見ると笑顔を見せた。


「こんにちは、デーラ。ちょっと訊きたいことがあるのだけど」


「お持ちになっているお花のことですか?」


「そうなの」


「これはもしかしてラッサム王子から?」


「えぇ、そうよ」


「まぁ、ラッサム王子もなかなかやりますね」


 デーラはうふふ、と意味深に笑った。


「このお花の名前は何ていうの?」


「プルクリアというお花です。アイクリス村の名産のお花ですね」


「プルクリア。甘い香りがしてとても綺麗なお花よね」


「はい、見た目の派手さはありませんが、その甘い香りが特徴なんです。香水も作られているんですよ」


「まぁ、そうなの。それは少し気になるわ」


「コスモ姫がお願いすればすぐに手に入るはずですよ。しかし、やっぱり花本来の香りには敵いませんけどね」


「それじゃあ今回もらったお花の匂いを堪能しておくことにするわ」


 コスモは手に持ったプルクリアの花の甘い匂いを嗅いだ。


「プルクリアを男性に贈られることには特別な意味があるんですよ」


「どういうこと?」


「プルクリアの花言葉は『秘めた気持ち』。想い人に告白の時に贈るお花として有名なんです」


「えぇ!?告白!?」


 コスモは顔を真赤にして一歩後ずさりした。


「いかにも奥ゆかしいラッサム王子らしい贈り物ですね」


「な、何かの間違いじゃない?ラッサムはプルクリアのことをよく知らなかった、とか」


「そんなはずありません」


 デーラは満面の笑みで両手を胸の前で合わせた。


「ラッサム王子はお花に興味を持っていらっしゃいますし、コブルスルツ国についてもよく勉強なさっています。アイクリス村名産のプルクリアとその花言葉や女性に渡すことの意味を知らないはずがありません」


「で、でもラッサムは私じゃない別の女性のことを……」


「まさか。そんなはずがございません。気になるなら直接確かめてみてはいかがですか?あ、そうそう。この前植えたマボランですが、綺麗な花をつけました。よろしければ近日中にラッサム王子とご覧になってくださいませ」


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