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俺、死んだの?  作者: と〜や
神の国編
9/73

9.二度寝のあと

 ぽつねんとまた真っ白な部屋の中にいた。

 そこにはリオも誰もいなくて、何一つない。

 病院にいたのは夢だったっけ。

 それとも、銀髪幼女もオネエも全部夢で、やっぱり俺は死んでて、ここにずっといたのだろうか。

 何もない。

 腹の上に乗ったリオの重さとか、柔らかな銀髪の手触りとか、少し汗のにおいの混じったリオのにおいとか。頬っぺたの柔らかさとか。

 全部夢だったのか?


 ――そうだ、夢だ。


 違う。

 俺は自分の両手を広げて見た。

 あの感触は、嘘ではなかった。

 この手にちゃんと残っている。

 においも、重さも、何もかも。

 となれば。

 この空間こそが夢か。


 ――今ここにいることが夢だとなぜ言えるのだ。


 俺が違うと思っているからだ。

 リオたちが夢だとして。

 においも味も重さも、全速力した体のつらさもあるような夢なんか、見たことがない。

 リアルさが段違いだ。

 それならば。

 上も下もわからない、自分の存在すらあやふやな今のほうが夢に違いない。

 ともすれば息の仕方さえ忘れてしまいそうなこの体に、違和感しか感じないのだから。


 ――それはお前が死んでいないと思っているからだ。すでに死んだ身に肉体も五感もあるものか。


 俺は死んでない。


 ――なぜそう言い切れる。


 リオが言ったからだ。死んでないと。

 神の国に落っこちたと言った。

 何がどうなってそうなったのか知らない。

 でも。

 こんな真っ白なあやふやな場所に漂ってるぐらいならば、リオやナオトと美味い飯食って馬鹿話していたい。

 うっかりすれば馬車に轢かれそうな場所でも、あの世界は生きている。


 ――では、あの世界での生を望むと。


 ここにいるよりはいい。

 望めというなら望む。

 それより、俺の体はどうなったんだ。

 手術は、成功したんだよな?


 ――それを聞いてどうする。


 俺は帰れるんだろう?

 死んでいないのなら。


 ――あの世界での生を望むのではなかったのか?


 ここにいるよりはマシだからだ。

 俺の体を心配しないはずがないだろう?


 ――やはり……すべき…………だ。


 雑音が増えてきた。

 よく聞こえねえ。

 というか、俺、誰としゃべってたんだ?

 それに口に出したりしてねーぞ。頭の中で考えてただけで。


 視界がパンと真っ白に光った。同時にひどい耳鳴りと頭痛がする。

 眩しくて目を閉じても目に焼き付いた光の残像が消えない。

 音も聞こえない。

 どれぐらい経っただろう。

 キーンという金属音が収まって、それに伴って頭痛が和らいできた。

 視界も残像が消えて暗闇が戻ってきて、ようやく目を開けた。


「あ、起きた?」


 俺の顔を覗き込むようにしている紫色の瞳。やわらかな銀髪に縁どられたぷにぷにの白い肌。

 そっと手を伸ばすと、ほっぺたを引っ張る。ああ。よく伸びる。


「いひゃい」


 幻じゃなかったらしい。リオの声に手を離す。


「リオ」

「遊人、寝ぼけてんのか?」

「あー……よかった」


 あれはやっぱり夢だった。

 てか、なんで真っ白な部屋なんだ?

 それに、あの声は……。


「遊人、おなかすいた」

「あ、ああ」


 引っ張られて俺は上体を起こした。


「あのさ……」

「ん?」


 何かを言おうとして、俺は口をつぐんだ。

 何を聞いていいものかと悩む。

 この世界は夢なのかと聞いたところで意味はない。

 じっと見つめたリオの目が腫れぼったいのに気が付いた。

 リオの泣き顔が不意にフラッシュバックした。俺の顔を覗き込みながら泣いていたリオ。


「あの時、なんで泣いてた?」

「え?」

「間に合ってよかったって、なんのことだった?」


 きょとんと俺の顔を見ていたリオは、その一言を聞いて眉根を寄せた。

 何かあるんだ、やっぱり。


「……お前が、落っこちそうになってたから」

「は?」

「もう少しで間に合わなくなるところだったんだぞ」

「……何が」

「約束、したろ?」


 ちょっと頬っぺたを赤くしてリオは唇を尖らせた。


「お前のこと絶対守るって」


 ――なんでこうも男前なんだよお前は。

 ほんとは俺が言うべき言葉だろーが。

 って、中身がおっさんだからか?

 かっこよすぎだっての。


「リオ、お前かっこよすぎ」

「へへん、そうだろ?」


 両手を腰に当ててふんぞり返る。中身相当の筋骨隆々なおっさんがやったらアレだけど、幼女のそれはかわいい。

 ぽむ、とリオの頭に手を置いて、ぐしぐしと髪をかき回す。


「なにすんだよっ、ぐちゃぐちゃになるだろっ」


 ちっこい手で俺の手をはがそうと掴んでくるのを避けて、ぽむぽむと手を弾ませた。


「ありがとな」


 落っこちるとかよくわかんねえけど、リオが助けてくれたのは本当だろうから。


「さてと、んじゃ飯食いにいくか」

「うん!」


 リオはいつもの前歯が全部見える笑い方で笑った。

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