7.夢
短いです。
「はーい、神原さん、回診の時間ですよー」
白衣の天使が今日もやってくる。この病院、ナースのレベルだけはめっちゃ高い。――但し、俺の担当ナースを除いて。
まあ、担当って言っても名ばかりで、実際は病棟のナースたちはシフトで入れ替わり立ち代わりやってくる。
このフロアにいるナースは八人ぐらいかな。三日ぐらいで一回りして、最初のナースがやってくる。
昨夜のナースと今朝のナースは結構好みだった。昼で交代なのか、昼以降は本来の担当ナースだ。
これが実は看護師長だそうだ。道理でオバさ……年季の入ったベテランなわけだ。
とはいえ、手術前は大してナースのやることはないようだ。
ああもちろん、バイタル取ったりするのはルーチンワークで処理済みだし、点滴と注射と採血もルーチンワーク化してるから、特に何かってことはない。
まだ自力で歩けるし、風呂も自分で入れるし。メシも歩ける人は自力で取りに行くし、下膳も自力だ。
手術後はたぶん全部やってもらうことになるんだろうな。
痛いのと引き換えに楽ちんライフに突入なんだろう。
まあ、手術が終わって目が覚めたら分かるさ。
回診の先生と話をして、薬剤師が薬を持ってきて、メシ食って薬飲んで風呂入って寝る。
ただのルーチンワークだ。
◇◇◇◇
おかしい。
何日経っても手術が始まらない。
気がついたのは何回目だったろうか。
ナースと馬鹿話しながら、この話、前にもしたなあと思ったのに、ナースは全く覚えていなかった。
いつもと同じ日。手術の前日。
何度も同じようにバイタルを取られ、回診を受け、風呂に入る。点滴され、注射され、採血される。
食事もいつも同じ。飽きた。
いつになったら『明日』になるんだ?
明日が来ないと手術にならない。
いつまでも俺はここにいなければならない。
一度、意を決して病院を脱走した。金がなかったからバスにもタクシーにも乗れなかった。歩いて家に戻った。家のベッドに潜り込んで、電話も無視、やってきた客も完全無視して夜を迎えて。
自分ちのベッドに潜り込んで寝たのに。
目が覚めたら病院のベッドの上だった。
もう、おかしいのは間違いない。
「誰か! ここから出してくれ!」
頭がおかしくなりそうだ。誰か、俺を救い出してくれ。
ここは俺の知ってる世界じゃない。
頼む、誰か。
誰か……。
不意に銀髪の子どもが脳裏にひらめいた。
俺に外国人の子どもの知り合いはいない。なのに、なぜこんなにも懐かしく思うのだろう。
振り向いて欲しい。
こっちを向いて、笑って欲しい。
いつものように、前歯を全部見せる笑い方で。
舌っ足らずなその声で、遊人と呼んで欲しい。
中身がおっさん臭かろうが、そんなことはどうでもいい。
頼む、俺を呼んでくれ。
頼む。
「りお……」