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俺、死んだの?  作者: と〜や
現実編

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69.覚悟

 親父の「励めよ」発言の真意を知ったのは、直斗のマンションに着いてからだった。

 顔合わせでドタバタして、申し訳ないからと俺の両親を家に誘った社長たちを見送ったあと、理央を病院へ送り届け、そのまま病室で夜を明かそうとした俺は直斗に引きずられて、通されたのはどこの億ションかと目を見張る光景だった。

 テレビドラマでしか見たことなかった部屋が俺の――俺と理央の部屋とか、信じられるか?

 そんな部屋の中に、俺の荷物が申し訳程度に置いてある。


「一応全部運ばせたけど、家電と家具はいらないから処分してもらったわ」

「ああ……」


 大学時代からだから十年選手のものばかりだった。思い入れがなかったわけじゃないが、結婚するとしたら全部処分してただろうから、手間が省けた。


「仕事用のパソコンは書斎に運んどいたけど、新しいの買ったんじゃなかったの?」

「……注文したところで、まだ届いてねえよ」

「そう、じゃあ届いたら運ばせるわ」


 部屋の中を一通り説明されて元いた部屋に戻る。

 部屋まで強制的に引っ越した理由はわかってる。あのクソババアが何をしてくるかわからないからだ。

 その意味では理央のそばにいてやったほうがいいんじゃないかと思ったけど、あっちはプロがついてるから大丈夫、だそうだ。

 むしろ俺の方がやばいらしい。


「……まあ、説明しなかったのは悪かったわ。でも、彼らが理央をうちに預けた理由、話したわよね?」


 つまり、結婚しようがなんだろうが、関係ないということ。俺を殺せば理央が手に入ると本気で思ってるのだろう。

 理央は駒じゃねえ。理央を道具としか見ねえ奴らに渡せるかっ。


「でも、よく親父が許したよな」


 そりゃまあ、相続するような家柄でもないし、資産だって大したことない。親族には金持ちもいるらしいけど、俺たちには関係ねえ。

 一応長男だから、二人の老後は俺が見るんだよなとは思ってたけど。

 すると、直斗はにやりと笑いながら俺の肩を叩いた。


「頑張りなさいね。ま、理央もアンタも若いから、きっとすぐできると思うけど」

「……は?」

「ヤダ、わからないとか言わないでよ?」

「なんのことだよ」

「アンタのお父さん、励めって言ってなかった?」


 そりゃそんなことも言ってたけど、仕事のことか、結婚後の話だろ? 紗雪さんも忙しくなるって言ってたし。


「違うわよっ、アンタたちの子供に後を継がせるって話」

「はあっ? なんだよそりゃ。それにうちの家はそんな家柄じゃねえぞ? せいぜいがとこ墓守するくらいで」

「いいじゃないの、それぐらいのつもりで頑張りなさい? そうでなくても風間の家はアンタと理央が継ぐことになるんだから」

「なんでだよ」


 次から次へと隠し球を出してきやがる。

 直斗という立派な長男がいるってのに、どうして俺が引っ張り出されなきゃならねえんだよっ。


「だってぇ、アタシは聖ちゃんと添い遂げるつもりだから」

「……理央が養子にならなかったらどうするつもりだったんだよ」

「そうねえ、一族の中から養子でも取ろうかって話はしてたわよ? アタシも聖ちゃんも子供は産めないしね」


 だから渡りに船だったのよねえ、と直斗が小さく呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

 直斗が養子を取るのも社長が取るのも大して差がないってことか。理央の場合はもれなく俺がついてきて、後継者問題にもケリがつく、と?


「冗談じゃない。それに、養女の入り婿が後継者って……普通反対されるだろ」

「まあ、反対はありそうだけど、別に問題ないんじゃない? そんなご大層な家じゃないし。金があって、それに群がってる人たちがいるだけ。文句言うなら実力で遊人を引き摺り下ろしてごらんって言ってあるから」


 なに勝手に喧嘩売りまくってくれるんだよっ! 一人でおちおち外も歩けなくなるじゃねえかっ。


「ま、週末には理央も退院してくるし、仲良くやんなさい」

「……お、おう」


 ひらひらと手を振って出て行く直斗を見送ると、ソファに腰を下ろした。これ一つだけでもきっと俺の月給じゃ買えない代物だ。

 新居は社長が立てると言っていた。それまでのつなぎにしても豪華すぎる。

 小市民の俺としては、分相応なこじんまりとした部屋で、理央と一緒に暮らせればいいと思っていんだ。決してこんなに豪華な生活をしたいわけじゃない。

 と言うか、慣れるのが怖い。いつか覚める夢でなければいい、なんて思ってる自分がいる。

 たった数日で世界がひっくり返ってしまった。

 まあ、あの世界に呼ばれた時点で、俺の世界も未来もすっかり書き換えられてて、その全てを受け入れる決心はついている。

 ……まあ、こんな未来は予想もしてなかったけどな。それでも、理央と共に歩むためなら、なんでもやってやろうじゃないか。

 俺は一度死んだのだ。……比喩的な意味でだが。

 実際、昏睡していた半年でいろいろなものを失った。

 ……理央には絶対知られたくないし、言わないつもりだけど、それは事実だ。仕事、会社、同僚、友人。

 考えてみると、会社関係以外の交友関係はほとんどなかった。高校や大学時代の悪友はいないわけじゃないけど、社会人になってからはほぼ没交渉だ。

 だから、ちょうどいいのかもしれない。

 まあでも、風間の後継とかは社長とよーく話し合うことにしよう。あの女との一件が収まるまでは、余計な波風は立てたくないしな。


 目を閉じると、理央の顔が浮かぶ。

 抱きしめた時の恥じらう顔があまりにも可愛かった。

 理央との生活が始まれば、いつだってそばに居られるんだ。

 家で仕事をするから、いつでも理央の顔を見られるわけで。それはとても嬉しいことなんだが。……俺、我慢できるかな。

 とりあえず、仕事部屋になる書斎は理央は立ち入り禁止にしよう、なんてつらつら考えながら眠りにつく。

 ソファは実に寝心地がよかった。

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