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俺、死んだの?  作者: と〜や
神の国編

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45/73

45.いいな

四週開いてしまいました、すみません(汗

「疲れた……」


 昨日もそういやそんなことを言ったような気がする。

 結局片付けは終わらなかった。……間違いなくケーキ食いすぎのせいだな。

 ケーキの甘ったるい匂いを思い出したらちょっと気分が悪くなってきた。……こりゃ当分甘い匂いすらダメになりそうだ。

 風呂から戻ると、すでにリオは夢の中だった。ベッドのど真ん中を占領して寝転がるリオを抱き上げると、ふわりとシャンプーの匂いがする。

 俺と同じのを使ってるはずなのに、どうしてこんなにいい香りなんだ?


「ん……ゆーと?」

「起こしたか。すまん」

「んーん」


 リオは寝ぼけているらしく、俺の胸に顔をこすりつけてくる。

 ……なにこれこのかわいい生き物。あれか? 俺を萌え死させようとでもしてんのか? 理性をフル稼働させて衝動を抑え込む。ああ、辛い。


「ほら、寝るぞ」

「んー」


 毛布をめくってベッドに降ろすと、リオは俺の寝間着を握り締めて離さない。前もあったな、寝ぼけてて前身ごろの襟をがっちり握られたっけ。


「仕方ねえなあ」


 なんとか横に滑り込んで、毛布を肩までかけると、もぞもぞとリオは俺に乗り上げるようにくっついてきた。ぽんぽんと背中を撫でる。

 リオの夜は早い。二十時にはこてんと寝落ちする。それにつれられて俺も最近はすっかり早寝になっちまった。

 職業柄、夜の方が目が冴える完全夜型だったってのに、今やすっかり朝型だ。まあ、一般的にはいいことなのかもしれない。が、いずれ現実に戻った時には相当辛いことになるだろうなということだけは予想がつく。

 いや、それよりも。

 現実に戻った時、このぬくもりが傍にないことの方がつらいことになる。

 きゅっとリオの背中に回した腕に力を籠めると、リオがすりすりと寄ってきた。


「ゆーと」

「ん?」

「……待っててね」


 はっとリオを見たが、口元をキュッと結び、眉根を寄せたリオは変わらず眠っているようにしか見えない。

 となれば、いまのは寝言か? 何か夢を見てるんだろうか。

 そっと銀の髪の毛を指で梳きながら額に唇をつける。


「ああ、待ってる。……いつまででも」


 すると口元がほころび、眉間のしわが消えた。リオ、寝たふりか? もしかして。でも起きている様子はない。


「……お休み、いい夢を」


 もう一度額にキスをして、俺は目を閉じた。


 ◇◇◇◇


「遊人。起きて」


 ふわりと顔に何かがかかる。そろりと頬を触るのは暖かい手だ。リオか? あー、髭が伸びてちくちくしてんだろうに。とっとと剃らねえとな。

 それにしても、随分色っぽい声だな、リオ。


「ねえってば、遊人」


 ゆさゆさと揺さぶられて目をあける。目の前にはリオの顔と、覆いかぶさるような銀の糸。

 でも……なんか違う。

 何が違うんだろう。


「起きてよ、遊人」


 目は開けてる。起きてるぞ。でも体がピクリとも動かない。なんか重たいものがずっしり覆いかぶさってる感じだ。いつもならリオがのっかったところで大した重さじゃなかったのに。


「……リオ?」

「うん」


 白い頬に紫色の瞳。サクランボの唇。いつもと変わらないはずなのに、どうしてこんなに心が揺れる?

 それに、俺の上に寝そべってるのがリオなのだとしたら。……この質量は何だ?

 いつも通り、背中に手を回して起き上がろうとして――気が付いた。背中の広さ、そして硬さ。いつもより高いところに背中がある。

 ぎょっとして体を起こすと、リオが横にずれた。ちらりとリオに目をやって――慌てて背中を向ける。

 なんで……なんでリオがでかくなってんだ? ハルに続いてリオまで?

 しかも、着てた服がぱつんぱつんで……すらりと伸びた両手両足のなまめかしさと、縮んだシャツから覗く腹の白さにドキドキが止まらない。


「ば、バカっ、なんて恰好してんだよっ!」


 ああ、なんてヘタレなんだ俺。自分がかぶっていた毛布をリオにかぶせて背中を向けるのがせいぜいだなんて。


「遊人?」


 きょとんとして起き上がろうとするリオを押さえつける。でも子供の時とは押し返してくる力が違う。


「と、とにかく服着替えろっ。そんな恰好っ……」


 俺は背を向けたままクローゼットの中を漁った。でもリオの……子供のリオに合わせた衣装ばかり取りそろえられていて、今のリオにあうサイズの服はない。

 Tシャツは俺ので行けるだろう。他は――ナオトに協力を仰ぐほかない。

 一応リオに似合いそうなスカートをと思い描いたものの、部屋の権限が書き換えられてるのか、それとも俺の想像力が足りないのかスカートは出てこなかった。


「リオ、もういいか?」

「うん……」


 若干気落ちしたような返事を気にしつつも振り向くと、リオは俺のTシャツを着こんでベッドの上に座っていた。

 思わず鼻血が出そうになってあわてて後ろを向いた。腰が引けてんのも自覚してる。

 ――破壊力、半端ねえんでやんの。


「遊人? どうかした? オレ、どっか変か?」

「あーいや、大丈夫。お前は変じゃねえから」


 よく彼シャツとかってさぁ、彼女に自分のワイシャツ着させたりとかするじゃねえ?

 あれがどういう意味か、なんかわかった気がする。彼女が男物のTシャツ一枚とか、ヤバすぎだろ。

 気持ちを落ち着かせるのに、思わず昔やった仕事のアルゴリズムを考える。でもちらちら妄想が先走る。ダメだ、どっかに呪文とかお経とか落ちてねえかな。


「遊人」

「ああ」


 リオの声に何気なく振り向くと、リオがすぐ近くに立っていた。ここまで近くだと全体像が見えなくて逆にいいらしい。沸騰しかけてた脳みそが落ち着いてきて、ようやくリオをゆっくり眺められる余裕が出てきた。

 髪の毛の長さは変わってない。紫がかった銀の髪も。ちびっちゃかった身長はすらりと伸びて、顔が近い。

 まつ毛も眉毛もバシバシで、紫色の瞳が不安げに揺れているのが分かる。ぷにぷにだったほっぺたはすっきりしていたけれど、真っ白だ。思わず手を伸ばして触ると、もちもち感が減った分、すべすべだ。

 への字に曲がったさくらんぼの唇はつやつやで、なんていうか……吸いつきたくなる。

 肩幅も広くなった。さらりと流れる銀の髪を指で梳ると、くすぐったそうに身を竦める。

 ふっくらした肩、柔らかく持ち上がっている胸に視線が行きかけて、慌てて視線をはがした。


「とりあえず、ナオトに服、借りてくる。待てるか?」

「……やだ」


 ぎゅっと俺のシャツの裾を握ってくる。上目使いに見つめるリオの顔は本当にやばくて、思わず天井を見上げた。


 ◇◇◇◇


「やだ、リオまで?」


 結局、うだうだとやってるうちにナオトが突入してきた。ナオトは昨日のハルのことがあるからか、大して驚きもしなかった。驚けよ。俺は驚いたぞ?


「とりあえず、今のリオが着られる服をくれ。それか、俺に部屋の権限返せ」

「そうねえ……アタシの持ってる服じゃリオには小さすぎるわね。アンタに権限返す方が早そう」


 ナオトの方が今のリオよりずっとでかいのに、ナオトの服が入らないとかあるんだろうか。そう思ったものの、考えてみればナオトは男だ。当然だよな。


「さんきゅ」


 毛布をかぶってソファに座ったリオの頭をなでると、さっそくリオの服を作りにかかった。

 それにしても、女性の服なんて構造が全然わからない。とりあえず、巻きスカートと女性用のTシャツ、水色のワンピースを作ってみる。

 下着は……すまん、現物を見たことがない。母親のでかパンは知ってるが、あんなのをリオに着せるわけにいかねえ。何よりかわいくねえ。

 結局、ブリーフっぽいのだけは作っておいた。こんなことなら母親のブラジャーでもじっくり見とけばよかった。……ってそんな趣味はねえけどなっ!

 水色のワンピースを着たリオはめちゃめちゃかわいかった。……ナオトがいてくれてよかったよ、ほんと。


「まあ、アンタにしてはいいセンスよね。さ、食事にしましょ。ハルが待ってるから」


 ナオトに促されて、俺はリオをエスコートして部屋を出た。

 ダイニングに行くと、ハルは成長したリオを見て勢いよく立ち上がり――真っ青な顔で椅子に力なく座り込んだ。


「どういうこと……?」


 そう、かろうじて絞り出したハルは、明らかに俺を咎めるように見ている。俺は何もしてない。目が覚めたらこうなっていただけだ。


「アタシも知りたいわ。……何があったの? 遊人。まさか、リオに手を出したんじゃないでしょうね?」

「俺じゃねえっ! てか、目が覚めたらこうなってたんだよ」

「……僕のせい……だよね」


 ぽつりとハルがつぶやくと、リオは首を横に振った。


「ハルのせいじゃない。……いいなとは思ったけど」

「じゃあ、やっぱり僕のせいだ。……ナオト、宮殿へ道を繋げて。僕はやっぱりここにいちゃいけないんだ」

「いいじゃないの、別に子供の姿でなきゃいけないわけじゃないんでしょ?」


 ナオトは気にせずに料理をテーブルに並べていく。いい匂いが鼻をくすぐって、腹が鳴りそうだ。が、それよりも今はリオのことだ。


「……リオのためにはよくない。リオは元の姿に戻るべきだ」


 ハルは青い顏のままだ。もしかして、何か理由があるのか? 俺にも告げていない、なにかが。

 じっとハルを見つめたものの、ハルはうつむいたまま顔をあげない。


「オレはこのままでいい。……子供のままじゃ、やだ」


 リオは顔を上げると俺をじっと見る。その視線には、今まで――子供の姿だった時には見せたことのない色が含まれていて。

 俺は知らずつばを飲み込んだ。

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