40.二日酔い?
頭がズキズキする。
気分は最低。横になってても世界が回る。きゅっと手を握られて、反射的に握り返すともぞもぞと身じろぎするものがあった。
「遊人、目が覚めた?」
「りお……?」
目を開けるとまぶしすぎて、頭痛が加速する。眉間にしわを寄せて目を閉じると、腹の上に座られた。ふわっといいにおいがする。シャンプーの香り。
すりすりと柔らかいものが頬ずりしてくる。あー、リオ可愛い。食っちゃいたい。そういや髭、チクチクしないかな。
「ん、気分どう?」
そういわれてセルフチェックする。二日酔いだけど、吐き気はない。あるのはめまいと頭痛だけか。さっくりと体調の悪さを拭い去れればいいのに。
俺、アルコールの分解能力はそう高くないっぽいんだよなあ。頭痛し出したらもうアウト。なんだけど、今回はあれだけ飲んで、この程度とかありえない、ほんとに珍しい。
現実だったらきっと、急性アルコール中毒で救急搬送されてるな。
「大丈夫っぽい」
「お水、飲む?」
「ん、頼む」
上に乗ってた重みが消えて、俺はのろのろと体を起こす。差し出されたグラスを飲み干してお代わりももらう。よっぽど喉が渇いていたらしい。
ベッドサイドに立っているリオは、ハの字眉で俺を見下ろしている。心配かけちまったらしい。そっと手を伸ばして頭を撫でる。ずいぶん体温が高い。眠いんだろうな、こりゃ。
「もしかして、ずっと起きて看病してた?」
「ん」
「ごめんな、リオ」
「ん、大丈夫」
グラスをサイドボードに置くと、ベッドに乗りあがってきたリオは再び俺の上に乗っかった。なんでだろう、上に乗るの好きなのか? まあ、大した重さじゃないからいいけど。
横になった途端に目を閉じて眠そうに顔をこすりつけている。なんか、眠そうな子猫みたいだな。あー可愛い。くっそ可愛い。頭から食っちまいたい。
「もう大丈夫だから、寝ろ」
「うん」
柔らかい髪の毛に指を滑らせる。ぬっくい湯たんぽはうつらうつらしながらこてんと寝入った。
薄い布団を何とか引き寄せて引っ張り上げてから目を閉じる。
湯たんぽを抱っこして寝られる幸せってあるんだなあ。あー、これで現実に戻ったら、たぶん俺、寝られなくて悶々とするんだろうなあ。早いとこリオ見つけねえと、きっと寝不足で死にそうな気がする。
現実に戻ったらリオ、すぐ出てきてくれよ?
俺、死にたくねえから。
それにしても、とため息をつく。
あんだけ飲んでもナオトは酔っぱらった様子はあったものの酔いつぶれはしなかった。どんだけ強いんだよ。それともあれか。管理人権限で酔わないように調整してたな?
……畜生、やられた。
ナオトにいろいろ聞こうと思ってたのに、逆につぶされるとか、情けない。それに、なんか根掘り葉掘り聞かれたような……。
だめだ、なんかところどころ記憶が飛んでる。酒のせいか? それともこれもナオトの仕業か?
頭痛をこらえながら、記憶を巻き戻す。
確か、壊れた玩具のことを聞こうとしてやめて、それから酒盛りになって。
美味い酒にごまかされた。
なんか、リオの何なのかって聞かれたのはぼんやり覚えてる。
俺が知るかっての。
ナオトは、俺がここにいるのは事情があるからだと思ってるみたいだったな。リオのために無理やり連れてこられたと思ってる節があった。
勘違いだと言いたかったんだけどな。
ナオトだってそうだろうに。自分で進んでここに来たわけじゃない。
知らねえっての。気がつけばここにいたのはナオトと一緒だ。
……確かに、ハルにも理由がわからないとは言われたけど、それならなおさら、俺には思い当りはねえ。
少なくとも、俺の記憶にリオはいない。……銀髪の女の子で、あんなに笑顔が可愛いどストライクの子、現実で出会ってたら忘れるはずがないんだ。
ああ、でも忙しすぎて周りを見てなかったからな。いたのかもしれない。……なんてもったいねえことしてんだよ、俺。
うん、出会ってたら間違いなく一目ぼれする自信がある。あんな笑顔を向けられて、落ちねえ男なんかいねえよ。俺は確かに恋愛初心者だけど、恋愛偏差値低いけど、あれはマジやばかった。
いまだってやばいのに。
こんなに密着されて、無防備な寝顔見せられて、俺、どんだけ我慢してるか知ってるか? リオ。
そっとリオの頬を撫でる。
考えないようにしてるだけだ。
小学生に欲情する大人なんて変態で犯罪で、どんだけ女日照りなんだよって思ってた。金払ってソープでも行けよって思ってた。
だから今のところ自制できてるだけで。
もしこれがこの姿で実は十八歳でした、とか言われたら。
……おとなしく寝かせていられる自信、ゼロだ。
だから、考えない。
どんなに柔らかくてあったかくて、幸せでも。
リオが俺を好きでいてくれて、俺がリオを好きで、思いが通じ合って――キスまでしても。
こっから先は犯罪だ。
俺は、ここにいるリオも、現実にいるリオも、丸ごと正々堂々、手に入れる。胸張って俺のもんだって言えるように。
――そんなアホな事考えてたら目が冴えてきた。
ため息を一つついて、目を開くと布団からはみ出た銀髪の頭が見える。
ハルは今日もリオに夢を送っているのだろうか。昨日は同じベッドで寝ていたから俺にも見えてたんだろうけど、今日は別の部屋……らしいな。
あの部屋はまだ片づけ終わってないし、おそらくナオトの部屋にでもいるのだろう。
……多少心配がないわけではないが、さすがのナオトもハルに手を出すことはないだろう。お子様は守備範囲外だろうからな。
明日は残りの片づけをして、それからハルの部屋、一から作り直すって言ってたな。この部屋も権限はもらったし、俺も少し改装しよう。冷蔵庫欲しい。
そういやハル、もう宮殿には戻らないつもりかな。
ナオトに招待されてやってきて、準備された部屋がアレでなんだかんだばたばたやってるうちにそのこと、すっかり忘れてた。
もともとは宮殿に俺が残るって言ったのが始まりだ。リオを現実に戻すために、ハルに協力してもらうために。ナオトとリオは、一時的にここに戻ってきただけで、ナオトに招待されて一時的にお邪魔してるつもりだったんだけど。
ハルとしてはどっちが都合いいんだろう。
ここはあくまでもリオの――今はナオトの支配下で、ハルは思い通りにできない。リオに夢を送ることはどこからでもできるんだろうけど……。
あの玉座にぽつねんとハル一人が座っていたのを思い出して、思わずため息をついた。
だめだ。
あんな寂しい場所に戻すとか、させたくない。戻るなら俺も一緒に戻る。
……って言ったらリオもついてくるよな、絶対。ナオトがいれば大丈夫だなんて、もう二度と言わねえ。泣かせねえ。
いっそのこと、宮殿の中に『神々の戯れ』をくっつけちまえ。宮殿からここに来る扉も作れたんなら、ここから宮殿への扉、作っちまえばいいだけだよな? 必要になったときに扉をつなげられればいい。
まあ……ナオトとハルが納得してくれれば、だけど。
宮殿のかまどで飯作るのは俺、もうごめんだ。あのかまどでまともに飯作れる奴なんかいるのかよ。
……ってナオトに吹っかけて、鮮やかな手並みで飯作られるイメージしか沸いてこねえ。
ナオトってホント、何でもできるよなあ……。
まあいいや。
明日の部屋の片づけ、終わったら一度ハルに声かけてみよう。
俺だけでここと宮殿を行き来できるかわからねぇし、その時にはハルにもついてきてもらわなきゃならねぇけど。
そんなことを考えてるうちに、気がついたら寝落ちしてた。やっぱり湯たんぽ最強。
今回は難産でした……。




