表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、死んだの?  作者: と〜や
神の国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/73

28.拳骨

 次に目が覚めたのは、ハルに起こされてからだった。


「リオたち起きたよ」

「ん……さんきゅ」


 中途半端な時間に一度起きたせいだろう、寝起きがさっぱりしない。

 シャワーでも頭から浴びてさっぱりしたいところだけど、着替えがないんだよな。


「飯、食ったか」

「僕は食べないから。……作るならキッチン使って。リオたちにも出すんでしょ」


 それだけ言い置いてハルは部屋を出て行った。その背中をぼーっと見送った後で、ハルが初めてリオと名前で呼んだことに気が付いた。

 昨日少し話をしただけだが、折り合いがついたのだろうか。

 もう羨ましく思わない、という意思表示なのだろう、と勝手に了解することにする。

 ベッドを降りて部屋を出ると、キッチンへと向かう。

 今までほとんど使われていなかっただろうとは予想していたが、意外にもさっぱりと片付けられていて、食材がテーブルの上に置かれていた。

 夢の中で飯作るってのもなんだか変な気はするんだが、まあ『神々の戯れ』ではやってたしな。

 ガスコンロなんて便利なものはないからかまどを使うことになる。

 あー、『神々の戯れ』だったら、思うだけでガスコンロとトースター出して、それでおしまいだったのに。

 火を調整しながら調理をするんだが、難しかった。

 まあ、当然だよな。子供のころの飯盒炊爨以外では初めての試みだ。バーベキューとかは経験があるけど、あれは専用のバーベキューコンロがあって、あまり火の強さを意識したことがないし。

 まあ、なるようになれとフライパンを乗っけて適当にいろいろ焼いた。

 パンももちろんトースターなんてねぇから焼き網の上で。盛大に焦げて削る羽目になったのは情けない限りだ。まあ、焦げたのは俺が食うとしよう。

 なんとか四人分を作り上げて、ワゴンに乗せるとリオたちの部屋へ向かった。

 ノックをするとすぐに反応があった。


「おはよう、遊人」

「おはよう。飯持ってきた」


 出迎えたのはナオトだった。リオはと見れば、まだ寝室で寝ているのだろう。応接室になっている部屋にはいなかった。


「ありがと。……四人分は入らないわよ?」

「食うんなら置いてくけど」

「いいってば。そこに置いといてくれる? 食べたら町に戻るわ」

「そうか。わかった」


 テーブルに二人分の食事とジュースの入ったガラス瓶を置くと、ワゴンを押して出口に向かう。片手で扉を開け、ワゴンを押し出したところでナオトに腕をつかまれた。


「なんだよ」

「……アンタ、どうしたの」

「何がだ?」


 ナオトは強引に俺を自分のほうに向かせると、じっと目を覗き込んできた。


「……アンタ、何を捨てたの」


 ずきりと胸が痛む。それを押し隠して視線を動かさないようにナオトを見返す。


「何のことだよ」

「そんなうつろな目をして、アタシが気が付かないとでも思ってんの? 何があったの。あいつに何かされたの? どうしてそんな目をしてんの」


 どんな目をしてるかなんて自分ではわからない。首を横に振る。


「ハルは関係ない」

「じゃあ、アンタ自身の選択だっていうのね」

「選択?」


 何を選択したっていうんだよ。俺は何も選んじゃいねえ。……そうだろ?


「……リオを、捨てる気でしょう」

「何を馬鹿な……」


 笑おうとして失敗した。――くっそう、なんでこんなに簡単に暴くんだよ、あんたは。


「あんだけリオリオ言ってたアンタが、今日は一言もリオのことを聞きやしない。誰だって気が付くわよ」

「……リオには言うな」

「はっ、馬鹿にしてんの?」


 ぐいと胸倉をつかまれた。


「そんなしょげた顔したアンタなんか、リオに会わせられるわけないでしょう? アタシはね、リオが泣くことだけはしたくないのよ。今のアンタを合わせたら、間違いなくリオは泣くわ」

「冗談。……リオはお前がいれば大丈夫だろ?」


 声が震えそうになる。

 大丈夫だ。俺はもう何とも思ってねえ。……そう自分に言い聞かせて、拳を握る。

 次の瞬間、すごい衝撃を食らって俺はぶっ倒れていた。目の前が真っ暗になってくらくらする。体を起こそうとしてめまいで倒れた。脳震盪ってやつか? これ。

 顎のあたりが痛くなってきて、ナオトに殴られたことを認識する。

 誰かが怒鳴ってる。ああ、ナオトか。でも何言ってんのか聞こえねえ。聞き取れねえ。耳鳴りがしてる。

 勢いよく扉が閉まったのだけはわかった。ちらりと目を開けると、廊下に押し出しておいたワゴンだけは無事だったらしい。

 ぐらりぐらりと世の中が回る。気持ち悪い。

 そのまま体の力を抜いた。誰かがやってくる。なんか言ってるみたいだけど、そのうち闇に飲まれてわからなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ