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俺、死んだの?  作者: と〜や
神の国編

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17/73

17.カミサマのセカイ

長らくお待たせいたしました~。

ジャンルに分けたら恋愛になってしまいました。

28歳サラリーマンと幼女の恋……いいのか?(汗

 こげ茶色の液体を満たした白いカップを右手で引き寄せる。久しぶりのコーヒーの香りに口元が緩む。

 膝の上に乗せたリオにはホットミルクを渡してある。

 この空間にも慣れてきた。食べ物や飲み物はどういう具合か知らないが、キッチンの冷蔵庫には常に食材があって、消費しても減ることがない。ナオトがそう準備してくれたのだろうという気はした。

 リオは両手でカップを包み込んだまま口に運ぶ。そのサクランボの唇があまりにもぷっくりしておいしそうだ。でもそれをいじってる場合じゃない。

 さっきまで真っ青だったリオのほほに少しずつピンクが戻ってきていた。

 今までリオが語ってくれたことでわかったことはいくつかある。

 俺は指を折りながら一つずつ確認する。


「まず、カミサマは一人。神域の奥にある宮殿に住んでる。奥さんも子供もいない。あってるか?」

「うん」

「他に宮殿に人は? 世話する人はいないのか?」

「んー……いたと思う。でも、姿を見たことない」

「どういうこと? 姿が見えない?」


 ぽつぽつとリオはしゃべる。

 広い広い宮殿の中に人影はなく、でも食事やベッドメイクはきちんとされていた。護衛のための兵士はぞろりと立ってたが、動いたのを見たのは一度きり。……リオを宮殿から追い出したときだけ。


「ほかに人は? その……リオみたいに連れてこられた人は?」


 リオは首を横に振った。


「覚えてない。……でも、いなかったと思う。カミサマは一度に一人しか神域には招かないから」


 一対多数だと負けるからなのか、それとも一人ずつじっくり弄ぶからなのか。

 それとも――?

 嫌な想像が頭から離れなくて、頭を振る。でも、あってほしくない願望を優先して見て見ぬふりしてる暇は、俺達にはないはずで。

 膝にのせたリオを抱く手に力を込め、柔らかな髪の毛に頬ずりするように頭を抱き込んで固定した。

 リオから俺の顔が見えないように……今の俺は、結構ひどい顔をしてるはずだから。


「なあ。……リオ」

「ん?」

「カミサマって何食うんだ?」

「……え?」


 リオは俺のほうを振り向こうとした。でも、俺の顔はリオからは見えない。


「ナオトは俺にいろいろ作ってくれたろ? すっげー美味かった。じゃあ、カミサマは何食う? 誰かが飯作ってんのか? リオは食ってるとこ、見たことあるか?」

「……ない」


 食わなくても生きてられるのか、人に見られているところでは食べないだけなのか。後者のような気がした。


「カミサマが玩具を選ぶ頻度はどれぐらい? ナオト、それらしいこと言ってなかったか?」

「わから、ない」

「じゃあ、俺がここに迷い込んだとき、なんでリオは俺が来るって知ってた?」


 ひどい質問をしてると自分でも思う。

 聞いてる内容はそれぞればらばらだ。でも、質問が、前の質問と関係していると思って見れば、俺が何を考えてるかなんてまるわかりだろう。


 ――カミサマは人の感情を食らって生きているんじゃないか。


 それが、俺の結論だ。

 人の感情を好み、喜びや絶望に落として楽しむ。

 しかも時折こうやって人が落ちてきて、落ちてきた人間はほぼ間違いなくカミサマが連れていく。

 リオがあの時助けてくれなければ、俺はとっくにその神域とやらに連れていかれて玩具にされていただろう。


「遊人が来たのはナオトが教えてくれた。だから迎えに行った。でも、無理やり引っ張っていくことはできないから、慌てた。……あいつらが来る前に隠さないと……」


 あいつら、とはリオが撃退したという追っ手のことだろうか。


「あいつらってのは?」

「ナオトを連れてった奴。……遊人も連れにきたろ?」


 やっぱり。

 となると次の疑問が沸きあがる。

 なんで、ナオトが俺の身代わりになれたのか。

 ナオトは自分をカミサマじゃないと言っていた。


「リオはナオトのこと、どれぐらい知ってる?」

「ナオトのこと?」

「そう。俺よりはつきあい長いだろ?」

「うん。……えっと、この部屋に住んでて、言葉遣いがアレだけど男。恋人はなし。料理が上手くていい男。ぐらい? あ、リオは守備範囲外なんだってさ」


 リオの言葉にちょっと緊張感が薄れて俺は笑った。リオもつられて笑っている。

 それにしてもナオト、お前、リオに何教えてんだよ。


「じゃあ、いつからここに住んでた?」

「んと……ちょっと前?」

「ちょっと前って、どれぐらいだ? 一年か? 二年か?」

「わかんない。でもちょっとはちょっとだ」


 リオには時間の概念がないのかもしれない。この部屋にいると、一日がどこから始まってどこで終わるのか、わからなくなる気がする。いつだって白く明るい部屋。窓はなく、日光も入らない。


「リオはここにきてどれぐらい経つ?」

「ここって?」

「えっと……『神々の戯れ』だ。リオはナオトに連れてきてもらったのか?」

「違う……」

「違う? じゃあ誰に?」

「ネヴィ」


 どきりと動かない心臓が痛んだ。

 それは、リオの口から俺やナオト以外の男の名前が出たからなのか、それとも俺の予想が当たっていたからなのか。……俺自身にもわからなかった。


「それは誰?」

「ネヴィはネヴィだよ。赤い髪の」

「赤髪のネヴィか。今はどこにいる?」

「……いない」

「いない?」

「うん。いなくなった。代わりにミーニャが来た」

「ミーニャ」

「うん。……おっぱいがすごい人」


 そう答えたリオの口調がものすごく不機嫌そうで、思わずぎゅっと抱きしめた。

 リオはわかってないけど、俺が聞いてリオが答えてる内容はすごくシリアスなものだ。

 なのになんだこのかわいい生き物は。


「大丈夫、リオはかわいい」

「う、うん……」


 あ、照れた。

 抱きかかえてる俺の袖口をぎゅっとリオがつかむのも堪らない。

 こんな不謹慎なことを考えてる場合じゃないのに。全部ほっぽりだして甘やかしたくなる。

 ナオトがいたら怒られてるところだな。

 ひとしきりぎゅうぎゅう抱きしめてから、ようやく俺は気分を落ち着けた。


「じゃあ、この部屋の住人はときどき変わってたのか?」

「うん。ナオトは長いほうだと思う」


 結局ナオトにたどり着くまでにリオが上げた名前は十を下らなかった。

 つまり――ここの空間の持ち主は不動じゃなくて。

 俺がナオトから権限を譲られたみたいに、代々引き継がれてきただけで。


「じゃあ……ナオトは俺たちと同じなのか?」

「え?」


 ナオトが俺と同じく落ちてきた人間なんじゃないか、という嫌な予想を拭い去りたかった俺の内心をあざ笑うがごとく。


「そうだよ? ナオトもオレが拾ってきたんだから」


と、リオはこともなげに言った。

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