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73話:決戦前

 勇者たちとの戦争を目前に控えた夜更け、俺はアールグレイ将軍秘書のモルフォから受け取った報告資料をパラパラとめくりながら配置図の構想を練っていた。


 今回の戦争の為に王都カレンダに集結した戦士たちは約三千。元々カレンダに居た兵二千と合わせて総勢五千人の大規模戦力だ。

 一方こちらの戦力はアールグレイ将軍の『魔王空軍』が約七千。レモンバーム将軍の援軍『呪術軍』が約千、そして『ビースト軍』が二千の総勢一万の軍隊だ。


 数の上でも相手の倍、しかも今回は『魔王空軍』最大戦力であるワイバーン隊も投入される予定だ。加えて『呪術軍』の魔法部隊、そして『ビースト軍』からは四獣王と、そのまま世界を滅ぼせるクラスの強者を集めている。


(これなら負ける要素は微塵もない……と考えるのは短絡的すぎるな)


 何せたかだか勇者一組に対して『毒沼』という迷作戦を実施して兵力の四分の一を失った例もある。キツネとヤギはここに来る前にミックスベリー城の地下へと監禁して来たから大丈夫だとは思うが油断は禁物だ。奴らに参加されると戦況は一瞬でひっくり返りかねないからな。

 それに人間側もこれだけの人数、恐らく手練れの魔法使いもいるはずだ。と、なると以前戦った勇者ファーウェル一行のように瞬間帰還(サトガ・エリ)を利用したヒット&アウェイの戦法で来る可能性が高い。いかに早く魔法使いを駆逐するかが勝負の分かれ目になるだろう。


(ちっ、あの魔王の軍師さえいなければ集まって来る戦士を各個撃破して相手戦力を削れたのに……)


 ……だが悪い事ばかりではない。勇者ノワクロが今回の戦争に加担しているのであれば奴の行動は予想できる。そして想定通りに動いて来るならノワクロを確実に殺す策はある。痛みは伴うがあのイカレ勇者を地獄に落とせるならばやむなしだろう。


「……やはり切り札はこいつだな」


 俺は九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)と名付けた白銀色の鉱物(ロンズデーミスリル)の剣を鞘から抜く。

 刀でもない諸刃の剣を九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)と呼ぶのも少し変な気がするがさっさと名前を決めないとニュウナイスあたりがうるさいからな。この剣の特性である魔力吸収の力が名前から推測されなければ呼び方などどうでもいい。……サイ君も間に合ったしな。


「よう軍師さん、まだ起きてたのか?」


 半開きになった扉からにゅうっと長い首を捻じ込んでダチョウ将軍が声をかけてくる。


「……アールグレイ将軍こそ、こんな時間にどうされたのですか?」

「クェ! 俺は皆がちゃんと明かりを消して寝ているか城内の見回りさ」

(それは将軍がやる仕事じゃないぞ)

「そうですか、お忙しいんですね」

「大した事ないさ。軍師さんたちが手を貸してくれているから暇なもんだぜ。俺のやる事といったら必勝祈願の鶴を折るくらいだ」

(そうか、本当に暇なんだな。俺は超忙しいんだが)

「やっと一羽折れたから軍師さんにやるよ。渾身の一作だぜ」


 そう言って鶴に見えなくもない紙くずを懐から取り出す。手がないダチョウ将軍に鶴は高難度だったようだ。


「……ありがとうございます」


 俺はさっさと出て行ってもらう為に愛想返事をして鶴を受け取る。


「クェクェ―良いって事よ! 軍師さんには世話になっているからな」


 そう言ってよっこらせとそのままその場に座り込むダチョウ将軍。

 おいおい、この糞忙しい時にこいつの長話に付き合っている暇なんてないぞ。少しでも感謝の気持ちがあるなら邪魔だから出て行ってくれ。


「まあ決起会って奴だな、景気づけに一杯やろうぜ。水でいいか?」


 よくねーよ、せめて茶くらい出せや。

 露骨に嫌な表情を見せる俺を無視してグラスにとくとくと水を注ぐ。


「決戦の日ももうすぐだな」


 いつになく真剣な表情のダチョウ将軍。


「……そうですね、明日には王都カレンダを囲うように陣を張ります。急ぎごしらえで混成部隊を組むよりは『魔王空軍』『ビースト軍』『呪術軍』それぞれの持ち場を決めた方がいいでしょう」

「なるほどな、しかし決戦前は武者震いと言うか鳥肌が立つな!」


 お前は元々鳥肌だからな。

 

「しかしアールグレイ将軍。ミックスベリー将軍も前の会議で言っていましたがあまり無茶はしないようにしてくださいよ。将軍は城で指揮をとってもらえれば十分ですからね」

「クェクェ―! ベリーは昔から心配性なんだよ」

「二人は仲がいいですからね」

「俺とベリーとレモンバーム……それにプラムジャムは同期だからな。四大将軍になったのもほとんど同時期だったし、よく四人で夢を語ったもんさ」

「へぇー」


 全く興味がないが適当に相槌だけ打つ俺。


「俺がとある秘密結社から追われている夢とか、ベリーがケルベロスになった夢とか、プラムジャムが……」

(本当に夢の話じゃねーか!)


「(ちっ)……親友って奴ですか、凄いですねー」

「クェ? 俺たちは別に友達じゃないぞ?」

「は?」

「友達じゃなくて苦楽を共にしてきた家族以上の仲間だ。これを言うとレモンバームは怒るんだクェどな」

「……そうですか。それはプラムジャム将軍のような裏切りがあってもですか?」

「俺は裏切られたなんて思ってないぞ? 多分ベリーも、レモンバームは……ちょっと分からないクェど」


 くだらん。水で酔ってるのかコイツ。


「それに家族なのは俺たち皆だクェ。当然軍師さんもだぜ!」


 恥ずかしげもなく堂々と家族だの仲間だのと口にするダチョウ。俺は目の前にある水をグイッと飲み干し立ち上がる。


「……私もそう思っていますよ。頼りにしていますアールグレイ将軍。それでは私は少し調べ物があるので失礼します」

「おっ、そうか。悪かったな時間を取らせて」

「いえ……」


 裏切り者でも仲間、か。その言葉を本音で言っているかどうか、もしかしたらこの戦争で証明してもらう事になるかもしれないな。

 俺はダチョウ将軍の詭弁を鼻で笑いながらゆっくりと扉を閉める。


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