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72話:意識高い系四獣王

「……以上が王都カレンダの現在の状況となります」

「そうか。ご苦労だったなモルフォ」

「いえ、こちらこそまた力を貸して頂き感謝しております」


 定時報告を終えたモルフォが深々と頭を下げて感謝の意を述べる。そして忙しそうに鱗粉をばら撒きながら部屋を後にする。

 勇者たちとの戦争の為アールグレイ城へと再びやって来てから一週間。『魔王空軍』を使って上空から敵情視察を行っているがどうやら着々と屈強な戦士たちが王都カレンダへと集まってきているようだ。

 イーシオカ大陸にいる戦士はもちろん他大陸からも名のある勇者たちが続々と参戦しており、こちらで把握できているだけでも危険度Bランクが一組、CランクとDランクがそれぞれ二組ずつ確認できている。


 この異様な結束力は王都ウエディ崩壊というきっかけがあるにしても実際には三大勇者ロロロイカ=ピュレの存在が大きい。いや、正確にはその父親であるアクセレイ=ピュレの存在が……というべきか。『勇者観測記』にも載っておらず魔王軍の基準で行くと勇者として認定されていないロロロイカ=ピュレだがこの少年の知名度は全勇者一と言っていい。魔王に一人挑んだ大勇者、そしてその大勇者の息子は幼くして父を亡くしながらも勇敢に勇者としての道を歩む……そんなヒロイズムがまるでアイドルのような人気を博しているようなのだ。

 それ自体は理解できなくもない。そういう悲しい境遇を背負ったヒーローを求めるのは世の常だ。

 そして俺の予想通り裏で糸を引いているのが勇者ノワクロならばこれだけ大袈裟に仕掛けて来る理由も理解できる。黒子に徹していざと言う時はまた逃げる気なのかもしれないが今度は逃がすようなヘマはしない。色々な意味でキレているこいつは危険だ。何を差し置いても確実に仕留める必要がある。


「『白虎』ベンガルト!」


 俺はドアの前で警護をしていた四獣王最後の一人『白虎』を呼びつける。

 白色の体に黒い縞模様。鋭い牙と爪、そして武人のような凛々しい顔つき。

 どこからどう見ても『白虎』の名に相応しい風貌の虎がその巨体で所狭しと部屋の中へと入って来る。


「『白虎』ベンガルト!!」


 雀でもウサギでもヤギでもない。虎だ、虎そのものだ。

 俺は嬉しくなって大声で二度呼ぶ。


「ピクルス先輩。二回も呼んでどうしました?」

「い、いや。なんでもない。それよりずっとドアの前で警護をしていなくても、少しは休んだらどうだ?」

「いえ、この仕事も今回の任務にカテゴライズされていますから。それに昨日は実質三時間も寝たので大丈夫です。何故か僕って皆から頼られる事が多くて普段は二時間寝られればいい方ですからね。でも頼られた以上はしっかり最適解を導き出してあげないと気がすまないというか。あっ、当然相手にも相応の事を求めますよ。僕がいくら分かりやすく正解へのレールを引いてあげてもその道を歩めるかは自分自身のマインド次第ですし。後はその道をきちんと歩けているかどうかをしっかり確認して修正してあげる作業ですかね」


(長ぇ……)

 うーん、やっぱり喋ると台無しだな。黙っていれば理想的な虎なんだが喋ると超ウゼェ。


「僕は元々四獣王になるつもりもなかったんですが勝手に推されていたというか。おい、他に適任者いないのかよ!? みたいなね。でも結局物事を上手く運ぶにはリーダーシップがとれる人材じゃないと駄目ですし仕事も色々と抱えていますからもう四獣王を降りるのは半分諦めていますけどね。あー体が二つ欲しい!」

「そうか、大変だなベンガルト……」


 聞いてもいない事を勝手にベラベラとアピールしてくる『白虎』。大変だ大変だと語る割に不満の様子は全くない。自分大好きだな、こいつ。


「そういえば前回は勇者を仕留められなかったんですよね? すいません僕がいなかったせいで。ブラッドレスリー大陸に語学留学に行っていなければ参加できたんですけどね」


 統一言語のこの世界で語学留学もないと思うんだが。


「でも行って良かったですよ、世界観が一段階上がったというか、あぁこの世界にはまだ触れてなかったわ……と思いましたね」

「……意識が高いんだなベンガルトは」


 俺は棒読みでベンガルトのターンが終わるのを待つ。

 話しかけるんじゃなかった。


「いやいや普通ですよ! 普通! でもピクルス先輩は僕の話について来られるから流石だと思いますよ。ただ他の人たちはどうかなぁ。僕にもやっぱり野望と言うか理想があって本当はビースト軍でビジョンを共有したいんですけどね。その為にはまず全員の理解レベルを引き上げてからでないと駄目かなぁ」


 ポリポリと頭をかきながら饒舌に語る『白虎』。


「……ちなみにどんなビジョンなんだ」

「相手の顔を見て話す」


 意識低っ! なんだその小学校低学年の学級目標は!


「ふわ~ぁ……あ、そろそろ眠剤が効いて来たんで休ませて貰いますね。今まで倒した勇者の顔がちらついて最近寝られなかったんですよ。本当に最近は羊を数えるので忙しくて……」


 ただの不眠症じゃねーか! そのうえ小心者じゃねーか!

 風貌以外の全てが残念な虎の鼻からは鼻提灯が膨らんでいた。


「……ちなみにベンガルトが最近頼られた事ってなんだ?」

「えっ? そうですね、掃除とか洗濯とか……あ、あと一番最近では色紙の買い出しとかですかね」


 それ世間一般では頼られているって言わないからな。もっと頑張れ『白虎』。


「いつもはサイ先輩が率先してやってくれるんですけどね、最近はサイ先輩も忙しいみたいで……そういえば僕たち四獣王とピクルス先輩しかまだイーシオカ大陸に来ていないみたいですけど確かサイ先輩も僕たちと一緒に来る予定だったのでは?」


 うつらうつらと眠気眼をゴシゴシと擦りながらベンガルトが質問してくる。


「あぁ……サイ君にはちょっとおつかいを頼んだんだ。大事な、ね」


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