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68話:魔王の軍師

「窓の桟に埃がたまっているぞぉ! 早く雑巾を持ってこんかぁ!」


 掃除用の白い帽子にマスクをつけた馬鹿キツネの声が城内に響く。

 

「ほほ、これピクルス。お前もちょっとは働かんか」


 ヤギ爺が丹念に床を磨きながら俺を叱責する。


 ミックスベリー城では魔物総出で大掃除が始まっていた。理由は魔物の頂点である『魔王』がミックスベリー城で行われる会議に出席するとの噂が流れた為だ。


 三日前、ヴェルンド村から帰って来た俺たちはすぐにミックスベリー将軍へ王都カレンダが勇者や各国の戦士を集めて戦争を仕掛けて来ようとしている事を報告。

 早急な対策が必要との事で緊急将軍会議が開かれる事となったがその会議に『魔王』が直々に参加すると通達があったようなのだ。

 今回の将軍会議には三将軍と俺、そして『魔王』と魔王直属の軍師が参加する予定となっている。俺もこの世界を牛耳る『魔王』がどんな人物なのかは詳しく知らないしどんな考えを持っているのかを確認するにはいい機会であった。

(場合によっては取り入りたいが、まあ今回は様子見かな)

 今回の『魔王』来訪にビースト軍全体が浮き足だっているが中でも馬鹿二軍師の浮かれっぷりは酷い。


「ははー! もしかしたら私のあまりの有能さに今回の会議でスカウトされてしまうかもしれんな! そうなるとついに魔王直属の軍師に……いや、いかん、いかんぞぉ! ミックスベリー将軍への恩義を返さぬまま移籍など……だ、だが、ぐぬぬ。私はどうすればいいのだぁ!!」


 安心しろお前は今回の会議に呼ばれてないから。


「ほほ、わしは年齢もあるからのぉ……指名があるとしても三巡目くらいかのぉ」


 ドラフト会議じゃないからな、お前も呼ばれてないし。

 魔王直属の軍師になったらどこ守る? 的な会話で盛り上がる二軍師。

(とりあえず放っておこう)


 俺は忙しなく魔物が往来するミックスベリー城をあてもなく歩く。

 城の中はこんなにいたのか? というくらいの大量の魔物で溢れかえっており床から天井からこれ以上ない程にピカピカにしようと皆が掃除に真剣に取り組んでいる。


「……しかし張り切りすぎだろ」

「ピクルス君……それは当り前よ。魔王様は私たちにとって神に等しい存在、いえ、神そのものと言っても過言ではないのだから、ぴょん」


 うさぎ耳をピンと張らしてトレスマリアが声をかけてくる。


「トレスマリア、お前まで掃除に参加しているのか?」

「掃除? いえ、私は色紙を買いに行くだけだけど?」

(こいつ神にサインを貰う気か!?)


 完全にミーハー根性丸出しじゃねーか! って言うか魔王ってそんなノリなのか? ……って、ん?

 トレスマリアがもじもじしながらこちらを見ている。 


「ぴ、ピクルス君。あのね……もし暇なら買い物について来て欲しいな……って。べ、別にデートっぽく手を繋いで歩きたいとかそういう事じゃないの! ただ人間の町に行くのに一人じゃ不安だからちょっと優秀なナビゲーションが欲しいなって、それだけの事なんだからね!」


 こいつ普通に町に買いに行くつもりだったのか、俺はお前の狂った思考回路が不安だよ。


「トレスマリア~。色紙見つかったでちゅよ~」


 ニュウナイスがパタパタと色紙を咥えて飛んでくる。


「ちっ……ニュウナイスまじでウザい……」

「もう皆には書いてもらいまちたから後はトレスマリアだけでちゅよ。あっ、ピクルスちゃんも書きまちゅか?」


 ん? 書く……?

 サラサラと何かを書いたトレスマリアから色紙を受け取る。その色紙は中央に『魔王様へ』という文字が花丸で囲まれておりその丸を中心として放射線状にビースト軍一同のコメントが寄せられていた、


『魔王軍に入って良かった! 絶対ビッグになってやる! (天才軍師キュービック)』

『人生において続けるという事がいかに大変かを実感する毎日です。魔王軍100周年おめでとう! (超天才軍師スクエア)』

『魔王軍は永久に不滅でちゅ! (ニュウナイス)』

『来城おめでとう~☆いつでも笑顔の魔王様が私たちの心の支えです。末永くお元気で。またいつでも会いに来てね♪ (トレスマリア)』 

『Fly Away! (サイード)』

『皆さまの健康とご多幸を心からお祈りいたします。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 (ミックスベリー)』


 サインじゃなくて寄せ書きじゃねーか!

 書かねーよ! なんで卒業間際の想いを綴ったメッセージみたくなってるんだよ!?

 ミックスベリー将軍に至っては寄せ書きですらねーし!


 はぁ……疲れる……

 俺はフラフラと自分の部屋へと向かって歩く。しかし部屋へ戻ろうとする俺の目の前にサイ君が立ちふさがる。


「ほら! ピクルス様も手伝ってくださいよ~」


 ずいっ、と俺にほうきとちりとりを差し出すサイ君。


「いいよ、面倒くさい」

「そんな事言わずに! それに少しは気分も晴れるかもしれませんよ? 折角武器が手に入ったのにあまり元気なかったですからね。そういう時は体を動かすのが一番いいんですよ」


 サイ君はそう言ってほうきでゴミを集める。


「……別にどうという事もないよ」


 そう、別にどうって事はない。クワ爺の件はあの場においてベストな選択であったと思うし後悔しているわけでもない。強いてあげるのであれば一瞬でも躊躇ったあの時の自分に腹が立つというくらいだ。しかしその中にあって命を狩る経験ができたのは不幸中の幸いというべきか……

(だが一時の気の迷いとは言え何故あんな感情が……)

 俺はそんな事を考えながら一生懸命掃除をするサイ君をぼーっと眺める。ビースト軍の中でも会議の司会進行や資料集めなどそつなくこなすFlyAwayなサイ君だがハッキリ言って掃除は下手だ。掃除が下手とか自分で言っていて意味が分からないがとにかくサイ君が集めたごみは右に左にちりとりを避けるようにこぼれて行く。


「下手だなサイ君……貸してみ」


 俺はほうきを受け取ると慣れた手つきでゴミを片づける。

(……しかし今回の王都カレンダの動き、手際が良すぎる気がするな)



「掃除とは感心ですね」

「……?」


 声をかけられ振り返ると見た事もない男がにこにこと笑いながら俺の後ろに立っていた。

 ……人間? いや、そんなわけないな。エルフか……


 一瞬人と見間違えたがどうやらダークエルフ属のようだ。

 ダークエルフ属は目つきと耳が尖っている以外は人間と外見の大差がないからな、紛らわしい。しかしここにダークエルフがいるという事はレモンバーム将軍の付き人か何かか? 


「……貴方は? 勝手に城に入られては困るのですが……」


 真っ黒な髪、服装も髪に合わせたかのような黒で全身を統一されたダークエルフの男に注意を促す。


「あぁ、これはすいません。私、ミュゼルワールと申します」


 ミュゼルワール……どこかで聞いたような……


「実はこの度の会議、魔王に急な用ができたため参加できなくなりましてね。その報告の為に一足早く来たのですがお邪魔でしたかね?」

「……魔王は参加されないのですか。それは残念ですね」


 本当に残念だ、是非顔を拝んでおきたいと思っていたのだが……それにしてもこいつ魔王の使者か何かか?


「な、なんと! 魔王様が来られないだと!? 急病か? 急病なのだな! すぐに私が看病しに行かねば!」

「ほほ、慌てない慌てない一休み一休み、じゃ」

「え~魔王様来ないでちゅかピクルスちゃん!?」

「ピクルス君、もしかしてホッとしてない? 大丈夫よ。魔王様がいくらカッコ良くても私はそんなに軽い女じゃないんだからね!」


 地獄耳で会話を聞いていた馬鹿共が集まって来る。


「ピクルス? あぁ君が噂の……」


 そう言って俺の顔をふむふむと観察するダークエルフの男。


「……何か?」

「いえ、すいません。貴方も大変だなと思いましてね」

「別に慣れっこですよ。騒々しいんです、ビースト軍は」

「そういう意味ではありませんよ」

「……?」

「明後日の会議、軍師同士よい意見が交換できるとよいですね」


 ……会議の参加者? それに軍師、魔王の軍師って……!

(思い出した! ミュゼルワール。『勇者観測記』の著者であり『エルグランディス計画』の発案者でもある軍師か!)


 ミュゼルワールと名乗る魔王の軍師が俺の横を通り過ぎながら呟く。


「それでは会議楽しみにしていますよ。フェレット(・・・・・)の軍師さん」


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