【番外】22話:勇者バッサイザー②
カタラニア大平原を抜けて程なくするとゴツゴツとした岩場が増えて来る。そこから更に北へと行った場所に今回決戦の地として選んだグラン峡谷があった。
対岸の陸地とはかなり距離があり落ちたら一巻の終わりだろう。空を飛ぶ龍相手に対して足場は良くない。だが小高い岩山や森のように鬱蒼と茂った木々はそれを補って余りある遮蔽物となってくれていた。
(確かにこれなら空飛ぶ相手に対して見晴らしの良過ぎるカタラニア大平原よりも遥かにいいな)
ワイバーン隊と呼ばれる龍の魔物三匹も俺たちにしっかりとついて来ている。
「よし……皆、行くぞぉ!」
俺の掛け声と同時にそれぞれが四方向に分かれて身を隠す。作戦は各個撃破。ワイバーン隊が分かれて探しに来た所を一匹ずつ叩く!
思惑通り四手に散った俺たちを分かれて探しているワイバーン隊。巨大龍というわけではないが普通の魔物に比べると遥かに大型、この大きさの魔物と戦うのは初めてだ。
(出し惜しみする余裕はないな……)
俺は形式変化型刃『迅風』を装着させる。
(まずは地上戦に引きずりこむ)
チェーンソーを纏った俺は翼を広げて空へと飛び立つ。そして一番近くに居たワイバーン隊の龍に襲い掛かる。
「おぉぉ!」
背後からの強襲に反応が遅れる龍。
(よし、まずは一匹!)
ズッ……ガタガタガタ……
扇風機を無理矢理止めた時のような音が響く。
チェーンソーの翼で龍の右翼を裂こうとしたが強固な皮膚に覆われた龍の翼に刃が通らず途中で止まってしまった。
(まじか!? なんて硬い皮膚だ! ……それなら!)
空飛ぶ翼の振動を逆に止められた俺は眼前の龍に構うことなく空中で形式変化型刃を『赤信号』に切り替える。
カッ……チン……
『赤信号』の力で動きが止まった龍はそのまま地面へと落下する。
俺は龍の右翼からチェーンソーの刃先を抜き龍をクッションにして着地し手早く形式変化型刃を『守衛』に切り替える。
地面に落ちた龍を中心にチェーンソーの結界が張られる。
「よし、今だぁ!」
隠れて俺の近くに戻って来ていたライファンさんとリファリーが飛び掛かる。
「行きますぞぉ! 戦士の舞!」
「その首貰った」
ギィィィン……
比較的柔らかいと思われる腹部と喉元を狙って攻撃を仕掛けた二人。しかし先程と同じで刃が通らない。
「なんですと!?」
「馬鹿な!」
くっ、予想以上の硬度だ。
「眼です。眼を狙いま……」
グオオォォォ!
俺の指示より早く硬直から解放された龍が雄叫びをあげる。その唸りの衝撃波に吹っ飛ばされる俺たち。
「ぐっ……」
そして怒れる龍はこちらに向けて口を大きく開ける。
「まずいですぞバッサイザー殿、ブレスです!」
ドオオォォン!
龍から放たれた焼けるような空気の圧縮砲。地面を抉り飛んで来たその衝撃波にまたしても吹き飛ばされる。
「ぬわー」
「くっ……」
飛ばされた先は網目で張り巡らせているチェーンソーの刃先。
(ますい……)
俺はブレスの衝撃で木々と共に飛ばされながら『守衛』を解除する。
「ぐはっ!」
岩場に激突する俺たち。チェーンソーの刃先に切り刻まれるよりはマシだがそれでも大ダメージを受ける。
「大丈夫ですかバッサイザー様!」
少し離れて様子を見ていたリオロザが駆け寄る。
「俺は……大丈夫……ライファンさんとリファリーを回復してやってくれ」
「ですが……」
「大丈夫だから、早く先に二人を。ライファンさんもちゃんと回復してやれよ」
「もう、当たり前です。時と場合くらいわきまえています」
そう言ってライファンさんの方へと走って行くリオロザ。俺は二人の回復の時間を稼ぐ為に再度龍へと立ち向かう。が、少しの動きで体全身から激痛が走る。
(やっぱり回復してもらえばよかったかな……いや、勇者ってそういうものだよな)
一度は失った命。
だからと言って捨てるつもりはないが自分に誇れる生き方をしよう。きっとその為の力。その為のチェーンソー。
「形式変化型刃、『一刀斎』……」
チェーンソーが刀の形状に変化する。
『流星破壊』を除けば最大の攻撃力を誇るこの形態。これで攻撃が通らないなら……いや、今は考えるな。やれるだけの事をするだけだ。
「雷鼓光!」
龍の手前に雷撃魔法を放つ。単純な目くらましだ。だがこの龍、スピードはそれほどでもない。砂埃に乗じてなら初撃は入れる事ができるはずた。
俺は痛む身体をおさえて龍の右側へとまわる、そして残った力を使い全力で龍へと突進する。
(頼む、通ってくれ!)
ズシュ……
切れ味鋭い刀と化したチェーンソーの刃が龍の右腹部へと突き刺さる。雄叫びをあげて初めて苦悶の表情を見せる龍。
(やった……いや、まだだ!)
チェーンソーの刃を刺したまま形式変化型刃を『星雲』へと切り替える。龍の体内でチェーンソーの刃は鞭のようにしなり内部を破壊して行く。
オオオォォォ!
苦しみ悶える龍は俺を振り払おうとする。俺は必死で龍にしがみつき体内での攻撃を継続する。
(死んでも離すかよ!)
「ぬははー! 助太刀しますぞバッサイザー殿ぉ!」
「貴様ばかりにいい格好はさせん」
暴れる龍の懐に飛び込んで来るライファンさんとリファリー。二人は剣を龍の傷口に突き刺す。
その時、痛みからか龍の動きが一種止まる。
(今だ!)
俺は再度形式変化型刃を『一刀斎』に切り替えて龍の喉元に向けてチェーンソーの刃を上昇させる。
「おおおぉぉぉぉ!!」
右腹部から喉にかけて龍を切り裂く。甲高い叫びをあげて苦しむ龍。数十秒程ばたばたと苦しんでいたが徐々に動きが鈍くなっていき、最後は声を発する事もなく絶命した。
「はぁ……はぁ……やった」
激痛と安堵感から俺はその場に倒れこむ。
「やりましたなバッサイザー殿」
「なかなか歯応えのある相手だったな」
「バッサイザー様。やせ我慢はそのくらいにして早く回復しないと……」
俺は皆のほうを見ながら答える。
「あぁ……そうだな、でも今は早くこの場を……」
ドスーン!
その時残りニ匹のワイバーン隊の龍が俺たちの前に降り立つ。