【番外】19話:決戦の日
「おぉーこれは……」
王都カレンダに着いた俺は思わず声をあげる。以前来た時とは随分様変わりしていたからだ。往来する人々のほどんどが武装したカレンダの兵士か剣や斧を携えている戦士。一般人はほとんど町の外には出歩いていなかった。しかし人で溢れかえった城下町は物々しいと言うよりはどこか活気に満ちていた。
「まるでお祭りだな。戦争前なのにこんなのでいいのか?」
「あら、バッサイザ―様。何も負け戦に向かう訳ではないのですよ。このイーシオカ大陸を魔物の手から取り戻す大イベントなのですからこのくらいの熱気は当たり前です」
リオロザが人差し指を立てて解説口調で語る。
「それに今回はロロロイカ=ピュレ様が大将となって皆をまとめてくれているのが大きいですね。普通はここまでの人が能動的に集まる事なんて有り得ませんから」
「勇者ロロロイカ=ピュレか……」
この世界では抜群の知名度を誇る勇者らしいが、その人気は数分町中を歩いただけで十分感じ取る事ができた。なにしろ行き交う戦士の話題のほとんどがロロロイカ=ピュレの事だったからだ。
一緒に戦えて光栄だ、とか。ロロロイカ様がいれば千人力だ、とか。ファンクラブ的な格好をしている戦士もいたくらいだ。その異常な程の人気っぷりに興味を掻き立てられながら王様への挨拶の為カレンダ城へと向かう。
「まぁ! バッサイザ―様ではありませんか!」
牢獄の中でエイプル王女との再会を果たす。
「お久しぶりですエイプル王女」
俺は両手を縛られた状態で軽く会釈する。
「バッサイザ―様が王都にいるという事はライファンから話を聞いていただけたのですね」
牢獄にいるつもりはなかったんですけどね。
「本当に嬉しいです……王都ウエディの事もあったのに、またご協力いただけるなんて……」
「いえ、乗りかかった船ですし最後まで付き合いますよ」
「バッサイザ―様……」
涙ぐむエイプル王女。助けに来たのに急に牢獄にぶち込まれた俺も先ほどまで涙ぐんでいたのは内緒だ。
「ところでバッサイザ―様は何故牢獄に?」
それは以前城に不法侵入したからです、はい。まさか客人ではなくお尋ね者として兵士に認知されているとは夢にも思わず呆気にとられました。助けに呼ばれたら来ますからそこら辺はキチンと連携しといてくださいね。
両手の縄をほどかれ牢の鍵が開く。俺は短い束縛プレイからやっと解放されて背伸びする。しかしリオロザとリファリーは宿で待機させておいて正解だったな。下手したら戦争前にカレンダの兵士が全滅するところだったぞ。
「おぉ! 勇者バッサイザ―様ではありませんか!」
エイプル王女と共に玉座の間へとやって来た俺にカレンダ王が歩み寄る。
「その節はなんとお礼を申し上げたらよいか……」
「いえ、結局お役に立つような事は何一つできていませんし……」
謙遜ではなく本音だ。婚姻の儀を潰すとか大口を叩いておきながら当の王都ウエディはすでに魔物によって滅ぼされていたのだから、ただの大間抜けだ。
「そのような事はございません。あの行動にどれだけ救われたか……」
そう言って何度も頭を下げるカレンダ王。
「恐縮してしまうのでやめてください、カレンダ王。それに私も丁度モヤモヤしていた所です。微力ながら今回の戦争、協力させてもらいます」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
繰り返し感謝の意を述べるカレンダ王。縁も所縁もない王都ウエディでさえ腐臭のする無残な光景は今でも脳裏に焼き付いている。王都カレンダまで同じような目にあわせる訳にはいかないもんな……
リスクは承知で再度決戦の意思を固める。
「王様。その人は王様の知り合いなのですか?」
ん?
ちょこちょこと年端もいかない少年が俺の顔を覗き込む。
「はい、ロロロイカ様。このお方は勇者バッサイザ―様。以前お世話になった頼りになるロロロイカ様と同じ勇者ですじゃ」
「そうなのですか! それは頼もしいのです!」
えっ、この少年が魔王を倒す可能性を持った三大勇者ロロロイカ=ピュレ?
こう言ってはなんだがポワワンとした普通の少年だ、寧ろ少女にすら見える。
「初めまして! ロロロはロロロイカ=ピュレと言います。勇者をやってます。バッサイザ―様とお揃いなのです」
「あ、はい。初めまして……ロロロイカ……君」
ギュッと握手すると満面の笑みを見せる三大勇者。確かに幼さを売りにした無垢なアイドル的な可愛さがあるな、しかしこれは……
戦闘経験の浅い俺が言うのもなんだが強者の凄みのようなものはまるで感じない、大丈夫なのか?
一抹の不安を覚えながらもカレンダ王と勇者ロロロイカ=ピュレに挨拶を済ませた俺は現状の状況を確認する。
まずここ最近魔物に大きな変化があり『チエヲツカッテタタカエ』と書かれた名札をつける魔物が続出しているらしい。何の意味があるかは不明だし、それは名札につけない方が効果的なんじゃないかと思うのだがとにかく魔物の動きに変化があるというのが一つ。
そして魔物の動きが活発になってきた理由に以前に聞いた東の大陸の軍師が関わっているという噂がある事。また各地から続々と勇者や戦士が集まって来ており決戦は今から約1ヵ月後になるという事。そして今回の戦争の目的はイーシオカ大陸を支配するアールグレイを討伐する事。
要約するとこんな所だった。
ある程度の内容を把握した俺は戦力が集まるまでの1ヵ月間、城の警護を手伝う事にした。しかし嵐の前の静けさと言う奴なのか王都カレンダ周辺に現れる魔物はほとんどいない。戦争に向けて個人的なレベルアップも図りたいところであったが手ごろな魔物が近辺に現れる事は結局なく、不気味に時だけが過ぎて行った。
――――そして決戦の日はやってくる。