【番外】18話:大戦争へ
王都ウエディ壊滅のニュースは瞬く間に大陸に広がる。
大国崩壊という衝撃は魔物の脅威を改めて人々に植えつける事になりどこの町を訪れてもその話題で持ちきりであった。
この訃報は直近でのいさかいはあったものの和睦を結び長きに渡って魔物と戦って来た王都カレンダへの衝撃は計り知れないものだっただろう。自国の守護で大変だったとはいえ隣国のウエディ壊滅に気づかず結果として見殺しにした事になるのだから。
エイプル王女の婚儀を潰すどころの話ではない今回の結末にカレンダも大混乱しており、王都の人々は不安な毎日を送っているらしい。
俺は一人王都カレンダへと戻ったライファンさんからの手紙を机の上に置き、ふぅ……と一つ大きなため息をつく。
「大丈夫ですかバッサイザ―様?」
心配そうにこちらを見るリオロザ。
「あぁごめん。大丈夫だよ」
「その……やっぱりライファンさんの丸文字が気になって気分が悪いんですよね? 私も何度か破り捨てようと思ったんですが……さわるのも嫌で、すいません」
(うん。違うよリオロザ、俺に謝らずライファンさんに謝ろうね)
俺たちが王都ウエディで見た事は全てライファンさんからカレンダ王へと報告されている。第三者の俺たちが伝えるよりもカレンダの民でもあるライファンさんが伝えた方が良いという結論になったからだ。ライファンさんには辛い役目を押し付ける事になってしまったがこうして毎日のように近況を報告してくれている。
王都ウエディ壊滅を確認してからすでに一週間。元の世界に戻るという目的をいったん棚上げにした俺はイーシオカ大陸の西にある港町で宿を取っていた。
色々と考えたがいくらこのパーティーが強力だとしても大陸を支配する魔物の群れ相手では多勢に無勢だ。よって情報収集がてら他の大陸で仲間を募る事ができないかと海を渡る決断をしたのだった。
「しかし本当に魔物がやったのか?」
唐突にリファリーが口を開く。
「え? 魔物しかいないでしょう? 王都ウエディの中にもその周辺にも魔物の死骸があふれていましたし、きっとウエディの人たちも抵抗したんでしょうね」
そう言ってリオロザは胸に手を当てて十字を切る。
「だが王都の周辺には魔物の死骸はあっても人の死体はなかったぞ」
「……? そういえばそうでしたね。でもそれがどうかしたんですかリファリーさん?」
「……いや」
一人浮かない顔をするリファリー。
あまり気にしていなかったが言われてみれば確かにそうだな……城周りは弓兵だけで戦っていたのかな? でも矢なんて転がっていたっけ? リファリーが俺と初めて戦った時の鋭い目つきになっているのも気になる。正直怖い。
「確かに少し気にはなるけど今は王都カレンダの危機をどうにかしないと。その為に俺たちは仲間を探しに行くんだから」
「ぬははは! その必要はございませんぞ!」
ガシャァァンと宿の窓ガラスが割れる。
「ぬははは! ライファン参上~!」
血だらけになりながら溢れんばかりの笑顔で登場するライファンさん。
その光景を見ていたリオロザが地面に落ちたガラスの破片を踏み潰しながらライファンさんへと向かって行く。そして無言で顔面に二発、腹部へ一発正拳をお見舞いする。
「ぐふっ……ぬはは、リオロザ殿。久しぶりで照れているで……ぐぶっ!」
口を塞ぐようにもう一発。
「ふふ、本当に常識がない人ですね、ライファンさんったら。貴方の自慢の耐久力と私の拳とどちらが優れているか勝負しましょうか?」
「リオロザやめろ。でも本当にどうしたんですかライファンさん。王都カレンダが大変な時にライファンさんまで離れるのは良くないのでは……」
「ぬははは! バッサイザ―殿、それなのです! 実は三大勇者であるロロロイカ=ピュレ殿が王都カレンダの為に立ち上がってくれたのですぞ!」
ロロロイカ=ピュレ?
「えっと、すいません。誰ですか?」
「まさかバッサイザ―様ご存じないのですか?」
リオロザが俺の隣で引いたように驚く。どうやら知っていて当たり前の人物らしい。
「……ロロロイカ=ピュレ、魔王を倒し得る三大勇者が一人だ。噂では父親であるアクセレイ=ピュレを凌ぐ強さとも言われている」
「アクセレイ=ピュレ?」
「はぁ、呆れてしまいますね。同じ勇者なのにあの偉大なアクセレイ=ピュレ様も知らないなんて。逆にバッサイザ―様は何だったら知っているんですか?」
チェ、チェンソーの起動のさせ方とか……あと林業のルールとかも知ってるし!
「そのロロロイカ=ピュレ殿が各国の勇者や戦士を募って王都カレンダの為に戦おうと決起してくれたのですぞ! そして勇者連合軍としてこの大陸を支配するアールグレイ打倒に向けて我々と共に戦ってくれると言うのです!」
「まあ、それは凄いですね! 確かにロロロイカ=ピュレ様は王都カレンダと所縁のある方ですがまさか動いてくださるなんて」
「ライファンは感謝感激にございまするぅ!」
「そんなに凄い人なのか?」
「人気はあるな。少なくとも私たちがちまちまと仲間を募るより千倍は早く戦士たちが集まるだろう」
なるほど。それなら王都カレンダは安心なのかな? じゃあ俺はやっぱり元の世界に戻る方法を探す旅に戻って大丈夫なのか?
「そこでバッサイザ―殿たちにも是非今回の勇者連合軍に参加いただきたいのです。これは王都カレンダだけでなく全世界の命運を左右する戦いですからな!」
ライファンさんがハイテンションで唾を飛ばしながら熱弁する。
俺は顔に飛んだ唾を拭きながら返事をする。
「分かりました。そう言う事なら断る理由もないですし、微力ながら力になりますよ」
「おぉ! ありがたい! そう言ってくれると信じていましたぞ! では某は武器調達の為の大事な任務がありますのでこれにて失礼を。バッサイザ―殿たちは王都カレンダにて待っていてくだされ!」
そう言い終わると再度窓を破って宿から出て行くライファンさん。ここ四階なんだけど。
「勇者連合軍、か」
「なんだか大事になってきましたね」
「……二人は別に無理に参加する必要ないんだぞ?」
どうやら大きな戦いになりそうだ。リオロザは元々修道女だしリファリーも凄腕の盗賊とはいえやはり女の子。戦いは男に任せて安全な場所で動向を見守る権利はあるはずだ。
「あら? 私の意見を変える事ができるのはチェーンソー様だけですよ。残念ですけど勝手に参加させてもらいます」
「諸悪の根源を叩かない理由もないだろう、丁度暴れたい気分だしな。それにバッサイザー、黙って私を引き連れろと言った言葉を覚えていないのか? 頭の悪い男だな」
ぐっ……相変わらず気が強いなぁ二人とも……
でも戦場で頼りになるのは確かだ。危険なら俺とチェーンソーで守ってやればいいか。
「さてと。じゃあまずは窓ガラスを片付けようか」
「そうですね、ライファン殺す」
「そうだな、ライファン殺す」
殺意に満ちた表情で床に落ちた破片を拾う二人。
どうやら俺はこの二人を守る前にライファンさんを守る必要があるようだ。