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【番外】17話:王都で嘔吐して勇者の物語は始まる

 カタラニア大平原にキャンプを張りその後も三日に亘って王都カレンダに向かってくる魔物を倒しまくった俺たち。

 近辺の魔物を狩り尽くしたのか撤退したのかは分からないが四日目には群れて襲ってくる魔物はいなくなっていた。


 いや、狩り尽くしたという事はないか。倒しまくったと言っても精々三日で三百匹程度だからな。もう諦めてくれたってことなのかな? だとすると随分と潔い引き際だ。もう少し手を変え品を変え攻めてくる物だとばかり思っていたが……ちょっと拍子抜けだなぁ。



 カタラニア大平原にキャンプを張って六日目。

 今日も魔物は襲ってくる気配がない。気味が悪いくらい静かだ。


「おはようございますバッサイザ―様」


 早朝にリオロザとリファリーがキャンプに合流する。

 カタラニア大平原にキャンプを張っているのは俺とライファンだけ。二人には夜はカレンダの町に戻って宿で休ませ早朝に合流してもらうというスケジュールで動いていた。

 理由は俺とライファンだけで問題なく魔物を蹴散らせてしまう事。女性人二人がシャワーを浴びたいと言い出した事、そしてライファンと寝食を共にしたくない、本当にしたくない。と言い出した事……。以上の理由から時間帯によって別行動としていた。

 まあぶっちゃけ最後の理由が大勢を占めていたわけですが……


「今日も魔物は来ないな……暇だ」


 つまらなそうにリファリーが平原を見渡しながら呟く。


「ぬははは! 某とバッサイザ―殿で大分倒しましたからな。恐れをなして襲って来ないのでしょう」

「そうですね、ではそろそろちょび髭の魔物を倒してここでの戦いに終止符を打ちましょうか」

「ぬは……はは……」

「……確かにそろそろかもな」

「そ、そんな……バッサイザ―殿まで悪ノリをされて……」


 涙目でこちらを見るライファン。


「あ、いえいえ。そういう意味ではなくてですね」

「あら、大丈夫ですよバッサイザ―様。いくら見通しのよい平原と言ってもほぼ中間点であるここなら人目にも付きにくいですし。それに魔物が巣食う場所に惨死体があっても別段不思議ではないですからね」


 おいやめろ。ライファンがこっちを見ながら怯えているじゃあないか。


「いや俺が言ってるのは最後の仕上げがそろそろって事」

「仕上げ? 何の事だバッサイザー?」

「魔物と王都ウエディへの牽制はある程度できたとは思うけど、これくらいじゃあ不十分だからね。当分脅威に思って貰う為には……」


 俺はチェーンソーの形式変化型刃カッティングアタッチメントを付け替える。そして遠くに見える王都ウエディに向けて……正確には王都ウエディの近くにある山に向けてチェーンソーを構え、そしてウィィィンと勢いよく起動させる。

 ソーチェーンの部分に平原から光の粒子が集まって来る。


「超高火力・形式変化型刃カッティングアタッチメント『流星破壊』(メテオデストロイヤー)!」


 ピュン……ドゴォォォォォォォォォォン!!!!


 ソーチェーン部分から閃光が走り王都ウエディの近辺にある小山を跡形もなく消し飛ばす。


「えっ!?」

「なっ!?」

「ぬは!?」


 流石に驚きを隠しきれない三人。目を丸くして吹き飛んだ方角を見ている。

 そりゃそうだ。一週間チャージが必要なチェーンソーのとっておきだからな。


「っと、これで王都ウエディも当分は大人しくしてるでしょ」


 俺はドヤッと皆の方を振り返る。


「バッサイザ―様……これはちょっとやり過ぎでは……」

「見損なったぞバッサイザ―。見境ないのか貴様は」

「バッサイザ―殿。ウエディの民も思想は違えど皆兄妹。話し合いという手段があったのではないかと……」


 白い目で俺を見る三人。


(いやいや、ちゃんと人が居なさそうな山にぶっ放してるんですけど! そりゃ自然破壊は確かによくないけれどもそんな目で見なくても!)


 針の蓆状態の俺は目のやり場に困りなんとなく王都ウエディの方角を向く。

 

 ……っ? なんだ……煙?

 王都ウエディの方角から何やら黒い煙が上がっている。


(えっ、もしかして間違えて当たっちゃったの? んな馬鹿な!)


 道理で皆が刺すような視線を向けてくるはずだ……

 いやこれは冤罪だよ! 間違いなく小山にヒットさせたはずだ!

 俺は居ても立ってもいられず王都ウエディの方へ走り出した。


「ちょっとバッサイザ―様!?」

「犯人は犯行現場に戻る……か」

「バッサイザ―殿。どこまで堕ちても某はバッサイザ―殿の味方ですぞぉ!」


 俺を追って三人もまた王都ウエディへ向かう。




 ――――なんだ……これ……


 王都ウエディに着いた俺の目に飛び込んで来たものは無残に壊滅した町の姿だった。

 建物は焼け焦げ、そこら中に転がる死体の山。切り殺された人、焼き殺された人、死因は様々だが無残な姿で横たわっていた。


 俺は初めて見る人の死体と異臭にショックを受けその場で嘔吐する。


 死体の腐敗具合からもかなり時間が経過している。俺たちが平原でキャンプを張る前にはすでに襲われ壊滅していた……のか……一体誰に……

 俺はよろよろと立ち上がりウエディのお城がある方角へと歩いて行く。


 ……元は立派な城だったのかな……

 町の中心部に位置すると聞いていたウエディのお城もすでに建物としての形を成してはいなかった。外壁には兵士と一緒にかがり火に使われていたであろう鉄製の篝籠がいくつか転がっていた。城の一部からは火の手があがっている。どこかが火元になって先ほどの黒煙をあげたのだろう、まるで主のいない城を町をそして人を弔うかのように。


「普通に考えれば魔物の仕業か……」


 ポツリと呟く。


 俺の唯一無二の願いは元の世界に帰る事。それ以外の望みは今特にない。だからこの世界に積極的に関わろうともしてないし、戻る術が見つかったのならすぐにでも帰るだろう。

 だがそれでもこの惨状を目の当たりにして何も感じない程腐っているわけじゃない。救えるものなら救ってやりたい、何故なら救えるだけの力がこの世界の俺にはあるから……


 唇をキュッと噛み小さな決意を固める。


 無断欠勤はもう十日、流石にクビだろう。ならば今俺は無敵の無職。彼女には申し訳ないが少し待って貰う事にしよう。その代わり元の世界に戻った時には飽きるくらいに聞かせてやるんだ、俺の異世界武勇伝を。


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