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【番外】15話:勇者無双はカタラニア大平原で

 王都カレンダと王都ウエディは近隣の国とは言っても歩いて丸二日は掛かる距離であった。

 しかし双方の国がその距離以上に近く感じる。その理由はこの二国の間に特に障害物と呼べる物がなくあるのはだだっ広い平原だけだったからだ。

 元々起伏の少ない地域のようだがそれでも間に何も建造物を作っていないのは互いの監視が目的だったのだろう。



 この平原はカタラニア大平原と呼ばれておりイーシオカ大陸でも有名な平原らしい。なんでもこの大陸に君臨するアールグレイという魔物の出身地だとか。

 そんなご当地情報を饒舌に語ってくれるのは他でもない……彼だ。


「ぬははは! 他に聞きたい事はありませぬかバッサイザ―殿! 物知りライファンになんでも聞いて下され!」


 高らかな笑い声が大平原に響き渡る。

 今朝早く王都カレンダから出発する俺たちに無理矢理ついて来たライファン。そらっとぼけて理由を聞くと「耳が良いので」とだけ返ってきた。


 王女に頼まれたわけでもなく、勘が働いたわけでもなく、俺たちと王の会話が聞こえていたらしい……ちなみにその時ライファンは獄中にいたそうだ。

 ……すげぇなこの人。



「あの。ライファンさんはいつ死ぬんですか?」


 唐突にリオロザが物知りライファンに質問を投げかける。


「ぬはは、リオロザ殿。冗談がきついですなぁ。ですがご安心くだされ。この平原を死地にするつもりは毛頭ありませぬ」

「ふふ、毛頭ないのは貴方の頭ですよね? 私、真剣に聞いてるんですけど?」

「ぬはは……リオロザ殿、目が怖いですぞ。某は他国の冗談に慣れておりませんのでお手柔らかに頼みますぞ……」


 両者の間で乾いた笑いが交差する。ライファンの目にはうっすら涙が浮かんでいた。


「戦士ライファン、私も聞きたい事があるのだが」


 救いの手を差し伸べるようにリファリーもライファンに声を掛ける。


「ぬははは! リファリー殿、なんですかな? 歴史、戦術、洋裁から筋肉トレーニング方法までなんでも聞いてくだされ」

「その頭に被っている鉄兜式のカツラは何の為だ? 羞恥心の塊のような貴様がハゲを気にするはずもないし気にする意味もない。相当防御力の高い防具なのか?」


「……これは鎧と合わせているだけで……鉄兜についている髪の毛はただの飾りですぞ……」

「ん? よく聞こえないぞ? 理由がないならその髪の飾りは取っておけ。戦闘の邪魔だぞ」

「リファリーさん。言い過ぎですよ。でもライファンさん、髪飾りはどうでもいいのですけれどその聞こえすぎる耳は気持ちが悪いので取っておいて下さいね」

「……」


 返事が無いただの屍のようだ。



 ――――俺たちがカタラニア大平原に陣取ってからもうすぐ一時間が経過しようとしていた。

 ざわざわと心地よい風が平原を吹き抜ける。思わず寝そべりたくなるような草のソファーと甘い匂いのする花の香り、そして過ごしやすい気候。


(田舎な感じがしていい場所だな~できれば戦場にはしたくなかったけどな……)


 そう、ここからこの平原は戦場と化す。

 リオロザとリファリーは王都ウエディに攻め込む気だったようだがそれはあまりにも愚行すぎる。

 王都ウエディが主導で魔物と結託しているのであれば両国の全面戦争になるし、もし魔物が主導で王都ウエディをけしかけているのであれば……それこそ魔物の思うつぼだ。


 それに俺たちはどちらが主導かなどと考える必要もない。ここ一ヵ月王都カレンダ近辺で暴れているという魔物の群れを『圧倒的な力を見せつけて』掃討してやるだけでいい。王都カレンダに手を出すのは割に合わない、そう思わせるだけでいいんだ。


(そういう意味でも王都カレンダの戦士であるライファンさんがついて来てくれたのは地味に大きいな。本気を出したカレンダの戦士は強いって牽制にもなるし)


 ガァ……ガァ……


 遠くの空から黒い点のようなものが見える。

 ん? カラスか? まだ日も高いのに……


 その黒い点は数を増やしながら徐々にこちらに近づいて来る。


「……! ガーゴイルって奴か!」


 両の翼を羽ばたかせる角の生えた鳥顔モンスター。槍を片手に携えグングン距離を詰めてくる。その数はざっと見ても五十体。


(そういえばここの大陸の主力は『魔王空軍』なんだったな)


 そしてそれに呼応するかのように地上からもトカゲのような魔物が現れガーゴイルに合わせてこちらへ向かってくる。


「ぬははは! 来たな魔物よ! この王宮戦士ライファンがいるからにはもう好きにはさせぬぞ!」

「思ったより数がいるな。まあ問題はないが」

「それにしても思ったより早く見つかってしまったのですね私たち。まあ何もない場所ですし……」


(正確には俺たちに、ではなく王都カレンダに向かっているんだろうけどな。聖水結界も万能じゃないらしいしあの数に毎日攻め込まれてたらそりゃ脅威だわ)


「まあもっと脅威なのがここにいますけどね」


 俺は久方ぶりにチェーンソーのアクセルスロットルを回す。ウィィィンと音を立てて起動するチェーンソー。

 今回は形式変化型刃カッティングアタッチメントを色々と試す時間があったからな。思う存分振るわせてもらうぜ!


「予定通りリオロザは後方待機! リファリーとライファンさんは地上から攻めてくる魔物を! 俺は……ちょっとガーゴイルを一掃してきますね」


 各々に指示を出した後チェーンソーを肩口に押し当てる。


「飛翔型形式変化型刃カッティングアタッチメント迅風(シューニャター)!」


 チェーンソーが俺の上半身にまるで聖衣(クロス)のように絡みつき装着されていく。オイルタンクの蓋は心臓を守るかのように左胸へ、ハンドガード部分は首元に巻きつきしっかりと接合部をロックする。そして刃であるガイドバー部分は俺の背中で二つに割れ大空を羽ばたく翼となった。


 俺は手元に残されたスロットルを開けるとガーゴイルの群れの待つ空へと物凄い勢いで突っ込んでいった。


 ギギッ? と地上から飛び去った物体(おれ)に戸惑うガーゴイルたち。そのガーゴイルの間を俺は高速で駆け抜ける。


 ザシュン……


 左右二体のガーゴイルが翼となったチェーンソーの刃先で上下に引き裂かれる。


「さてガーゴイルさんたち。この形式変化型刃カッティングアタッチメント迅風(シューニャター)の攻撃力はたったの20です。でも飛行能力の他にもう一つ特殊な力があります。さてそれはなんでしょうか?」


 俺の言葉の意味すら分からないのかハテナマークを浮かべるガーゴイルたち。


「正解は……敏捷+1000。ちなみにチェーンソーの重さは約5キロ……そして物体を破壊する衝撃力は……」


 俺は再度スロットルを握りこみガーゴイルに突撃する。


質量×速度(てきとう)だぁぁぁぁ!!!」


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