【番外】13話:婚姻の儀
ライファンは舞う!
主君である王女の為に。
ライファンは舞う!!
勇気の賛歌を口ずさみながら。
ライファンは舞う!!!
まるで己の命を燃やすかのように……
ライファンの尊厳破壊という犠牲を払って、俺たちは難なく城内への侵入に成功する。門の方では叫び声と悲鳴が入り混じり大捕り物が開始されていた。
「ライファンさん大丈夫ですかねぇ……」
俺は心配になって門の方を振り返る。
「大丈夫ですよバッサイザ―様。ああ見えてもライファンは機敏なのです。以前捕縛する時も三時間以上掛かりましたので随分時間は稼げると思いますよ」
いや、俺が心配しているのはそういうことではないんだが。それに以前捕縛する時って……彼のこの国での立ち位置ってどうなってんの?
いや、今は何も言うまい。ただただ気高き戦士の無事を祈るばかりだ。
「な、なんだ貴様ら!」
「(やばっ……)」
バッタリと宮内の見回りをしていた近衛兵と遭遇する。そりゃあ城門前に強烈な不審者がいたとしても城の中がもぬけの空になるわけないか……どうしよう。
「く、くせも……ぐふっ……」
近衛兵が声をあげる前にリファリーの手刀が首筋に炸裂する。
「さあ、行くぞ」
そう言って走り出すリファリー。
移動の時になんか残像みたいなのが見えたぞ……相変わらず凄いスピードだな。それにしても躊躇なく王宮兵士を卒倒させるのはいかがなものか。まあ王女の頼みでもあるし少しくらいは大目に見て貰えるかな……
「ん、何奴……ぐほぉ!」
「貴様ら見ぬ顔……ぐはっ!」
その後も目に映る全ての兵士を一撃の元に葬って行くリファリー。
多少騒ぎになっても普通に事情を説明して王に会わせてもらえば良かった……そう思わずにはいられないほど大量の兵士が俺の目の前で倒れて行く。
(……大目に見て……貰えるよな?)
――――カレンダ宮殿玉座の間
「お父様!」
「おぉ! エイプル心配したぞ! よくぞ無事で……」
随分と大きな騒ぎにしてしまった気もするがようやく目的であった王都カレンダの王との対面を果たす俺たち。
玉座の間で一人椅子に座っていた王に抱き着くエイプル王女。王もまたエイプル王女の頭を優しく撫でる。
「なんとか王様とお会いする所まではこぎ着けましたね」
「しかし王ともあろう者がこんな場所に一人でいるとは不用心な城だな」
(正確にはお前がここを守護してる兵をぶっ飛ばして入っただけだけどな……)
しかし強力な戦士を幾人も抱えている王都なんだよな……いくらリファリーが強いと言っても流石に一人で王の所まで突破されるのはマズいんじゃないかな?
「お父様……私、私は結婚などしたくありません。ずっとこのお城に居たいのです」
泣きながら王に懇願するエイプル王女。
「おぉエイプル……わしもじゃ。大事な一人娘を嫁がせたりなどしたくはない」
おっ? なんだ。案外簡単に丸く収まりそうじゃん。
「しかし……」
歯切れが悪くなる王。
「しかし……? しかしなんなのですかお父様!」
「いや、実は今回の婚姻の儀、賛成している者などおらんのじゃ」
「でも、あれは大臣たちが……」
「大臣たちも今回の事を良しとしているわけではないのじゃ……じゃが……」
暗い顔で目線を落とすカレンダの王。
「何か事情があるのですか? 王様」
俺はついつい口を挟む。
「エイプル、そういえばこの方たちは誰なのだ?」
「城下町で偶然知り合った勇者バッサイザー様ご一行でございます。ここまで私を送り届けてくれたのですよ」
「!!」
驚いた表情のまま椅子から立ち上がりそのままガシッ……と俺の両手を掴む王。
「おぉ……神はこの国を見捨ててはいなかった……」
「は、はぁ……? そうですかね?」
「お父様、本当に一体何があったのですか? 今回の婚姻の儀と何か関係があるのですか?」
王女の声にピクッと反応する王。そして俺の目をジッと見据えて口を開く。
「勇者バッサイザ―様、どうかこの国を救って下され……」