【番外】11話:決断
「どうやら追手はいないようですね」
見回りに出ていたリオロザからの報告を受けやっと一息つく俺。
広いとは言えない宿の一室のベッドにゴロンと寝転がる。
「おい、狭いぞ。スペースを取るな」
「あ、すいません」
リファリーからの指摘を受けベットの隅に座り直す。
(居心地悪いなぁ……このパーティー……)
そんな俺よりもっと居場所がなさそうに小さな椅子にうつむいて座っている白いフードの女性。
俺が助けたこの女性はエイプルというこの国の王女らしく、リオロザもリファリーも一目でピンッと来るほどの有名人だった。
黒服を一掃した後、騒ぎに集まって来る人ごみから逃げるように中心地から少し離れた場所に宿を取った俺たちは、当然王女を置いて行くわけにもいかず結果的に匿う形になってしまったのだ。
「で、さっきの黒服はなんなんですか? 何故自分の国で王女である貴方が追われているんですか?」
俺は一人椅子に腰かけてフードを深々と被る王女エイプルに質問を投げかける。
「……先程の黒服は王宮の警護団です……私が城から抜け出したことを悟られない為に軽装ではありましたが」
「あ、そうなんですか……でもなんでまた王宮の警護団が貴方を?」
少し沈黙した後、王女エイプルは語る。
「……それは私が婚姻の儀を拒否し、城から逃げ出したからでございます」
「はぁ……結婚が嫌でって事ですか」
「相手はここから少し東にある王都ウエディの第四王子。この王都カレンダの為に勢力を拡大する必要があるのは分かっています……そして私の立場も……。しかしやはり好きでもない殿方と結婚など考えられません!」
なるほど、国同士の政略結婚って奴か。どの時代も、どの世界にもそういうのはあるものなんだな。それにしてもさっきの黒服たちには悪いことしちゃったな。
「勇者様! 私をこの国から連れ出してはくれませぬか!? もう鳥かごの中の鳥ではいたくない……自由に羽ばたきたいのです私は!」
「いっ!?」
王女エイプルはフードを取り思いつめた表情で俺に懇願する。
「駄目です」
「駄目だな」
そして何故か俺より早くNOの返事を王女に突き付けるリオロザとリファリー。
「ふふ、エイプル王女……王女というステイタスを使ってチェーンソー様に近づこうというのですね、そうは問屋がおろしませんよ。確かに私はしがない修道女……でも身分の違いなど愛の前ではゴミ屑に等しいのです」
(おいおい……さっき会ったばかりの王女を完全に敵視してるよ……)
「戯言を言うな王女よ、鳥かごの中で焼き鳥にされたいのか? さっさと城に戻ってその男と結婚したらいい。それを拒否するなら我々のやる事はただ一つ。お前を餌に王に身代金を要求するだけだ」
(こいつは全然更生してねぇ!)
「そ、そんな。では私はどうしたら……」
手で顔を覆いシクシクと泣き出してしまう王女エイプル。
「な、何も泣かなくても……お、王女には約束された素晴らしい人生があるんですから。それを大事にすべきだと私は思うのですよ」
「そ、そうだぞ王女。何も自ら茨の道を選ぶ必要はない。鳥かごの鳥で何が不満なのだ、インコは可愛いではないか」
途端におろおろしだす二人。泣かせてうろたえるくらいなら言わなきゃいいのに……
「嫌です! 王都ウエディの第四王子とはお会いしたこともありますが人を人とも思わぬ非道な性格……それでなくとも嫌なのにあの方と結婚など死んだ方がマシです!」
熱くなる王女エイプル。見るに見かねて俺はコホンと咳払いを一つ入れてから話に割って入る。
「エイプル王女、この縁談の話の出所はどこですか? 王様である貴方の父親が組んだ縁談なんですか?」
「い、いえ……お父様は唯一この縁談には反対しておりまして。この話は大臣たちが勝手に盛り上がって進めているというか……」
涙を拭きながら答える王女エイプル。
ふーむ。王様はこの結婚には反対ってわけか。まあ評判の良くない男に自分の娘を嫁がせたくはないよな……
「じゃあ取りあえず王様に会わせて貰えませんか?」
「え? 父上にですか?」
「このまま逃げ回っていても問題は解決しませんし、それに王様が反対しているなら話のつけようもあるでしょうから」
視線を落として少し考えた後俺の案への回答を述べる王女エイプル。
「……分かりました。確かにこのまま逃げ回るわけにはいきませんものね……」
観念したように力なく答える。
(まあこのまま放っておくわけにも行かないし王女について来られても困るしちょっと面倒だけど仕方ないよな。それに王様から何か有益な情報が聞けるかもしれないし……)
自分に言い聞かせるように手助けする理由を作る。
こうして王都カレンダの中心にある王宮へと図書館とは別の目的で向かう事になるのであった。
そして……この決断がチェーンソーの運命を大きく左右する事になる……