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【番外】10話:王宮の姫

 女盗賊リファリーとの死闘から三日。

 俺は元の世界に戻る方法を見つける為この大陸の王都に来ていた。


「リファリーさん、あまりチェーンソー様にくっつかないで頂けますか?」

「私がくっついているのではない。チェーンソーがくっついて来るのだ仕方あるまい」

「あら、とんだ勘違いをされているのですね。なんでも自分の所有物だと思ってしまうのは盗賊時代からの悪い癖なのかしら」

「お前こそ修道女ならきちんと分をわきまえて神でも信仰していたらどうだ? 付きまとわれてチェーンソーもさぞ迷惑だろう」

「ふふ、リファリーさん。私一応あなたより年上ですからね。敬語くらい使えるようになりましょうね」

「ああ、済まなかったですね、年増修道女」

「ふふ……二つしか年……変わらないんですよリファリーさん。あまり口が過ぎるようならお姉さんが教育の為に爪でも剥いで差し上げましょうか?」

「私の爪が剥がれる前にお前の首を落としてやろうか?」

 

 王都を歩きながらチェーンソーを取り合う修道女と女盗賊。二人の間に強烈な火花が散る。


(怖い、怖いよこの子たち……なんでこんなに仲悪いの。それにそもそもソレ俺の装備品なんですけど)


 一歩下がって歩く俺はその光景を見ながら、はぁ……と無意識に溜息を零す。

 修道女と女盗賊では馬の合わない事もあるんだろうが流石にずっとこの調子では胃がキリキリしてくる。


(ほんと仲良くして……お願いだから)


 目の前で言い争っているリオロザとリファリー。俺は三日間の道中で二人からこの世界のことをそれとなく聞き出し、今いる異世界の世界観を概ね把握したつもりである。



 まずお約束の勇者と魔王の対立構図だがどうやら百年近い戦いの歴史があるようだ。と、言っても人間側はほぼ魔物に支配されっぱなしで数々の勇者が魔王に挑んでは敗れていった。

 勇者の資質がある者はそこそこいるが、実際に魔物と正面切って戦えるせいぜい五十名程度しかおらず、あとは勇者見習いとでも言うのかレベルの低いひよっこ勇者ばかりらしい。


 それを考えるとペルシャの町で盗賊団を追い払った時、町の人々が押し寄せて来たのも分かる。世界に数十人しかいない腕利きの勇者が町を盗賊団から守るって図なわけだし。もっともあの時の俺のレベルって7だったんだけど……


 また魔王には大量の魔物の他に四大将軍と呼ばれる魔王直下の配下がおり、それぞれの大陸の支配を任せている。

 俺が今いる大陸はアールグレイという将軍が支配するイーシオカ大陸。世界地図でいうところの西側に位置しており『魔王空軍』と呼ばれる勢力が猛威をふるう広大な大陸との事だった。


 そして俺がやって来たのはそのイーシオカ大陸の中でも五本の指に入る大きさの都である王都カレンダ。

 『聖水結界』で身を守るだけではなく定期的に遠征に出ては魔物を討伐しているという強力な戦士を幾人も抱えた都らしい。

 また王宮の図書館には多くの書物も保管されており世界各国の様々な情報を調べる事ができる。申請すれば一般人でも入館する事は可能である為、まずはそこで情報収集といったところだ。


(でも図書館で異世界からの戻り方とか書いた本なんてあるかなぁ? RPG的に考えれば魔王を倒せば元の世界に戻れるのかな? もうこの世界に来て五日も経ってるしマズイなぁ……無断欠勤って何日まで許されるんだろう……)


 ドンッ!


「っ痛」


 考え事をしながらボーッと歩いていたら白いフードを被った人とぶつかる。


「きゃっ!」


 白いフードの人はその場に倒れこみ、その拍子にフードが捲れ可愛い顔をした女性の顔があらわになる。

 パッチリとした大きな瞳にブラウンの髪。年齢は俺より少し若いくらいだがどこか気品のあふれる女性であった。


(あら、可愛い)


「はぁ、はぁ……すみません」


 女性はすぐフードを被り直しペコリと俺に頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。よそ見しながら歩いてて……」


 それにしても随分と息切れしているな。ずっと走ってたのか?


「はぁ、はぁ……では、先を急ぎますので……」


 そう言って俺の横をすり抜け駆け出す。


「!?」


 しかし駆け出した進行方向の建物の角から黒服を着た男たちがフードの女性の前に立ちふさがる。


「っ……こんなところまで……」


 振り返って元来た道を戻ろうとするがそちらの方向からも同じく黒服を着た男たちが数人現れる。そしてその中の一人が声をかける。


「あまり勝手をされては困りますな。さぁ帰りますよ」

「嫌です! あんなお城に帰りたくはありません!」

「何を馬鹿な事をさあ行きますよ」


 強引にフード女性の手を掴む黒服。俺は咄嗟にその黒服の手を更に掴みそしてフード女性に問う。


「もしかして追われているんですか?」


 俺の問いに声には出さずただコクリと頷く。


(どう見ても相手の方が悪人……だよな多分)


「ちょっと待っててくださいね」


 俺はそういって少し前で言い争っているリオロザとリファリーの元まで走って追いつくと、言い争いの種であるチェーンソーをヒョイッと奪い取る、そして……


「広域必中・形式変化型刃カッティングアタッチメント『星雲』(ネビュラ)!」

「ぐはぁぁぁ!!」


 フード女性に群がる黒服をチェーンソーで一閃し薙ぎ払う。

 空中を舞って地面に叩きつけられる黒服たち。一瞬の事にポカンとしているフード女性。


「大丈夫ですか?」


 俺はチェーンソーの安全装置をロックしながらその場でへたりこんでいるフード女性に話しかける。


「え、ええ……でもこれは?」

「ああ、チェーンソーって言うんですよ。便利でしょ?」


 そう言って手を差し伸べる。


 ドカッ!


「痛っ!」


 強烈な前蹴りが俺の背中にヒットする。振り返ると凄い剣幕でリオロザとリファリーが立っていた。


「何勝手にチェーンソー様を持って行ってるんですか? 空気読めないんですか? それとも頭が悪いんですか?」

「いい度胸だなバッサイザ―。死にたいのか?」


 強烈な殺気が俺に向けられている。


「す、すいません」


 その時俺の手を取って立ち上がった勢いでフード女性のフードがまたも捲れる。


「あ……」

「?」


 何かに驚いている様子のリオロザとリファリー。その対象はフードの女性に対してであった。


「王女エイプル……」


 なぬ!?


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