63話:ロンズデードラゴン戦
小柄で金髪の青い目をした少女がヤギ爺に向かって大きく手を振る。
準備が整った前提での話だが俺がこの世界で今一番会いたいのがノワクロ。そして二度と会いたくなかったのがこいつ等だ。
ポシェット……生きていたのか……
メカチックシティの処理班からも死体発見の報告はなかった為「やはり」と言うべきかもしれない。巫女装束の女も、キャップ帽子の女もいる。『聖域』までの道中に感じた視線はこいつ等だったのか、しかし何故俺たちをつけて来た?
『オォォォォォ!』
綿のようにフワフワ浮いていたロンズデードラゴンがポシェットたちを敵と認識し威嚇の咆哮をあげる。
「加速乃窓!」
ドドドドドドォォン!!
無数の光の流星がミスリルの化物を射抜く。
衝撃によって壁に磔となり蜂の巣にされたロンズデードラゴンはそのまま動かなくなった。
「やっぱり的がデカいと当てやすいなー。石ころもそこら辺にいっぱい転がってるし」
キャップ帽子の女はそう言って足元に転がったミスリルをヒョイッと上空へ放り投げる。
「……クレスタは手の平サイズの硬い物を全部石ころと言うのをやめた方がいいと思うの、馬鹿っぽいの……」
「う、うっさい! 化学は成績2だったんだよ!」
「……化学は関係ないと思うの……」
「ちょっと~クレスタも巫女姫もやめなよ~」
ガヤガヤと言い争う三人の少女。
「ったく。じゃあ私はちょっとヤギに挨拶でもしてくるわ」
「……クレスタがウキウキしてるの……」
「ぶっ飛ばすよ巫女姫!」
プンスカと怒りながらヤギ爺の方へと向かって行くキャップ帽子の女。
(しかし相変わらず怪物じみた戦闘力だな……だが三人だけか? ブリキ将軍は一緒じゃないのか?)
ポシェットが生きているならブリキ将軍も多分生きているだろう、もし死んでいるならポシェットはとち狂ってすぐにでも俺たちを攻めに来ているだろうからな。
問題はあのポンコツが俺の事をどう伝えているか、だ。俺、最後ブリキとどんな別れ方したっけ? 思い出せねー。
「ネズミさん」
「は、はひ?」
急なポシェットの呼びかけにビクッと反応する。
「ネズミさんも久しぶりだね~。巫女姫がね、ずっと会いたがってたんだよ~」
「(巫女姫? あ、巫女装束の子か)は、はあ?」
「……ネズミさんやっぱり可愛いの、チューチューなの……」
巫女装束の女がネズミの真似をしながらこちらに近づいて来る。
(寄るな! 馬鹿力女!)
「と、ところで、その……プラムジャム将軍は……?」
俺は自ら地雷原かもしれない話題に足を踏み入れる。
「ショーグン? ショーグンは元気だよ~」
お、おぉ。そうなのか。
俺はホッと胸を撫で下ろす、これで無条件に殺される事はなくなった。
「でもショーグン。ネズミさんに対して随分怒ってたよ」
(げ……)
「いつまで経っても木工用ボンドを返してくれないって~」
(あのポンコツが俺に抱いてる一番の感情がソレなのかよ!?)
……これは大丈夫そうか?
「あ、えっと。返す暇なかったので……それより勇者ポシェット。プラムジャム将軍はどこへ? 我々をつけて来たのもプラムジャム将軍の指示なのか?」
ポシェットたちの穏やかな表情から敵意はないと判断した俺は疑問をそのままぶつける。
「ショーグンはこの事知らないよ~。実は偶然ヴェルンド村でヤギさん達の話を聞いて追いかけて来たの。中々話しかけるタイミングなかったんだけどね~」
「……ネズミさんたち村の話題で持ちきりだったの、可愛いから当然なの……」
「私たちちょっと目的があって各地を転々と旅してるんだけどね~『お尋ね者』らしいからあまり人目につかないようにお助け隊みたいな事をして代わりに宿を借りてるの」
クワ爺が言っていた女性の来訪者ってこいつらかよ。お助け隊ってようは用心棒とかそういう類のものか? 相手が可哀想すぎるだろ。
「ネズミさん、ショーグンに会いたかった?」
(いや、別に)
「今ショーグンは船の手配をしに港町に行ってるの~。見つからないように海を渡るの大変だからどうしようかなって困ってたんだけどヤギさん達に会えて良かったよ」
船? 海?
「どこかへ渡る予定だったのか?」
「うん。イーシオカ大陸、でももうその必要もないかも」
そう言ってポシェットはニコニコと笑う。
「こら馬鹿ヤギ。とっとと起きろ!」
両手を腰に当ててスクエアを見下ろしながら怒鳴りつけるクレスタ。
「ほ? どちらさんじゃったかのぉ?」
仰向けに寝転がりながらとぼけた口調で答えるスクエア。その返答にクレスタは一瞬寂しそうな表情を見せた後すぐに顔をずいっと寄せて言葉を続ける。
「正義の味方だよ。ほらほら起きた起きた。そっちの雀もだよ! いつまで地面に埋まってる気?」
「ふわ~手厳しいでちゅ」
翼をバタつかせて地面から起き上がるニュウナイス。
「それにしても今の帽子のおねえちゃんがやったでちゅか? 凄いでちゅ。あっという間にあのドラゴンを倒しちゃったでちゅ!」
「ふふん、まあねー」
クレスタは鼻を擦りながら得意げな表情を見せる。
その時ロンズデードラゴンの額の白銀色の鉱物が先ほどと同じように輝きを放つ。そして穴の開いたミスリルの体があっという間に復元されていく。
「マジ? あれでも再生するの?」
再び動きたし、グオォォォォォ! と怒ったような声でたけり叫ぶロンズデードラゴン。
「馬鹿ヤギ! 早く起きろって!」
「し、しかし起き上がったらパンツが見えんようになってしまうではないか」
「死ねぇ――!!」
スクエアの顔面を踏み抜くクレスタ。
「ちぇ、もう一回倒すしかないか」
「でも壊しても壊してもすぐ元通りになっちゃうのに勝てるんでちゅか?」
「雀ちゃん。誰に向かって言ってるの? 私ら史上最強の先生の教え子だよ。今回だけは一緒に戦ってあげるからよーく見てなよ!」