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54話:勇者の超魔法

 ノワクロには二つの選択肢があった。

 襲い掛かって来る魔物を迎え撃つか王都ウエディに逃げ込むかの二択である。普通に安全策を取るなら王都ウエディに逃げ込む方が良い、なにせ今いる場所から少し後退すれば『聖水結界』内に入る為、量で勝るこちらも迂闊には手が出せなくなるからだ。


 『聖水結界』外で戦えば千五百の魔物とガチンコ勝負、『聖水結界』内で戦えば十分の一以下に力を抑えられた千弱の魔物とハンデ付きの勝負。どう考えても後者の方が有利に見える。

 しかしもし俺がノワクロならすぐに『聖水結界』内に逃げるような真似はしない。プライドなどではなく単純に生き残る確率が下がるからだ。

 結界内で勇者の力が落ちる事はないが魔法は使えない。力の落ちた千の魔物を魔法無しで倒すのはノワクロの力なら可能かもしれないが間違いなく疲弊はする。


 ノワクロの立場からすればこの状況からいかにして逃げるか? が争点だ。町中で時間をかけて戦っている間に援軍でも呼ばれたら目も当てられないだろうからな。いずれは脱出しなくてはいけない王都ウエディ内に残って戦う愚策を選ぶ男ではないだろう。

 それならば結界の発生しない境界線のポイント……今ノワクロがいる城壁の穴の位置こそ戦うにはベストなポジションだ。外の様子が見える位置でここからの脱出の機会を図りつついざとなれば結界内に逃げ込むこともできるからな。


(それにノワクロにはあの魔法がある……勇者観測記の情報が確かならここから逃げ切る為にどこかで必ず使うはずだ)


 タンッ! 


「!?」


 ノワクロは城壁の穴から飛び出し襲い掛かる魔物の群れに向かって行く。


(……馬鹿か!? 自分のアドバンテージを捨てやがった)


「逃がすな! 囲え!」


 『聖水結界』から離れたノワクロを数体のグリズリーが四方を囲うように襲う。

 ザシュッ! 襲い掛かった全てのグリズリーの首が綺麗な血しぶきをあげて飛ぶ。


「ちっ! 怯むな、休む間を与えず攻め続けるのだ!」


 今度はコンドルとハヤブサの魔物が空から突撃するがノワクロの扱う赤い刀身は二羽の鳥の脳天を苦も無く捉える。


「ひゃは! 遅ぇ!」


 あのスピードでも問題にしないとは……剣技もさっきの偽ノワクロ以上という事か、レベル99は伊達じゃないな。しかしこのくらいは想定内……


雷閃雷鳴(エゼキエル)


 魔物の猛攻から身を躱し反転しながらノワクロが左手で放った魔法は雷光の道筋を描いて前方の魔王連合軍を蹴散らす。


「ひゃは! ネズミィ! 大丈夫かこいつらで。見通し甘ぇんじゃねぇか?」

「……想定内だ」


 ちっ、調子に乗るなよノワクロ。せいぜい派手に戦って派手に消耗すればいい。魔力も体力も尽きた時がお前の最後だ。

 

 ノワクロはその後も力を出し惜しむ事なく全開で戦っているように見えた。高い身体能力と強力な魔法を扱う勇者に魔王連合軍の精鋭部隊は次々と斬られ焼かれて行く。


「しかし凄い切れ味ね。あれが勇者ノワクロが振るう世界屈指の剣、咎ノ柄無(とがのつかなし)か……」


 俺の横で戦況を眺めていたトレスマリアが興味深そうに声をあげる。


「あぁ。厄介な事この上ないな」

「私の刀とどちらが切れるのかしら……興味があるわ」

咎ノ柄無(とがのつかなし)は一振りごとに寿命が一日縮むと言われる凶剣だからな。流石にそこらの刀とは比較にならないだろう……というかトレスマリア、お前刀が装備できるのか?」

「あら? 女性のたしなみよ。それくらい使えないと魚をさばく時どうするの?」


(それ出刃包丁な……)


「すごく切れ味がいいの、この前もクジラを一頭さばく時に使ったばかり……って、べ、別にピクルス君に食べてもらう為にさばいた訳じゃないんだからね!」


 それをさばけたのは99パーセントお前の腕力のお蔭だけどな。


「でもでも~ピクルスちゃんなら咎ノ柄無(とがのつかなし)も装備できるんじゃないでちゅか? 勇者ノワクロから奪っちゃえばいいでちゅよ」


 一振りごとに寿命が一日縮むって言ってんだろ。誰が装備するか。

 ……しかし嘘か本当か知らないがそんな曰くつきの剣を惜しげもなく振るうノワクロはやはり頭のネジが飛んでいるな。俺は笑いながら戦い続ける勇者を見ながら狂気を感じる。


(しかしいつだ? いつ動く?)


 すでに二百を超える魔物がノワクロの餌食となっている。とは言え今のままノワクロも戦い続けられる訳がない。どこかで逃走する機会を伺っているはずだ、その時確実に仕留める為にまだニュウナイスとトレスマリアは動かせない。

 いつだ……いつ動く……


 魔物の群れとの戦闘の最中こちらを見て舌を出し狂ったような笑みを見せるノワクロ。

 

(……!? まさか……こいつ本気で……)


「本気で俺たち全員をこの場で倒すつもりか?」

「ひゃはは! 今さら何言ってんだぁ! ビビってんのかネズミィ!」


 弧を描くように刀を振って目の前の魔物を薙ぎ払う。そしてその勢いのままノワクロは後方に跳びこちらとの距離を取る。


「さぁて、それじゃあそろそろとっておきを見せてやるかぁ! ビビり過ぎて漏らすんじゃねぇぞ」


(っ……! 『アレ』か!? こいつ本当に逃走じゃなくて戦闘に使うつもりか?)


「ニュウナイス! トレスマリア! 俺の前に出ろ!」


 ノワクロが手を合わせて不相応な祈りにも似た構えを取ると全身から薄く青い光が迸る。

 来る! 現在ノワクロのみ使用を確認できている勇者専用の超魔法……


「いくぜぇ……『可算無限集合慈愛ヒュブリス・ユークリッド』」


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