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53話:脱出

 ノワクロはヒュッと外壁から飛び降りると魔物の死骸の上に着地する。そして赤い刀を一振りするとこちらに向かって人差し指をチョイチョイっと動かしかかって来いと煽って来る。


(安い挑発だな……)


 俺は目配せして生き残っているグリズリーとオークをけしかける。雄叫びをあげながらノワクロに向かって行く数体の魔物。


 ザンッ!


 苦も無く襲い掛かって来た魔物を上下真っ二つに切り裂くノワクロ。そして笑いながら話しかけてくる。


「おいおいおいぃ~。こんなくたばり損ないの魔物をこき使ってるんじゃねぇよ。てめぇ等はまだピンピンしてるじゃねぇか。もう少しここに魔物が集まって来るまで暇つぶしに遊んでくれよぉ」


 ちっ、時間稼ぎにもならないか。これはポシェットとメカチックシティで戦った時以来のピンチだな……

 しかしこんな危機にも慣れて来たのか意外にもあの時ほどの焦りはない。


(とにかく今は援軍が来るまでの時間を稼がないと……その為にはノワクロの興味を引く話題だ)


 俺は冷静にヘラヘラしながらこちらへ向かってくるノワクロに対して話を切り出す。


「勇者ノワクロよ、私たち魔物の中でお前たち勇者は危険度ごとにランクされているのを知っているか?」

「あぁ!? なんだそりゃ?」


 ピタッとその歩みを止め聞き返す。


「勇者の危険度はレベルや実績に応じてAからEまでに分類される」

「へぇー初耳だな。俺は当然Aなんだろうなぁ?」

「Aだ。しかしお前の危険度は実績によるものというよりレベルに対する危険度の意味合いが強い」

「あ? なんだと?」

「レベル99なんだろ?」

「……ひゃは! よく調べてるじゃねぇか魔物どもぉ!」


 少し間を空けた後ケタケタと声を出して笑い声をあげるノワクロ。


「つまり私たちはお前の能力を全て把握しているという事だ」


 ノワクロは笑うのをやめこちらを睨みつける。


「おいおい……牽制してるつもりかネズミィ!」

「事実だ。お前の強さでもこの軍勢なら潰せると踏んでいた。思えば先ほどの偽ノワクロは確かに違和感があったよ、思いのほか手ごたえがなくてな。そういう意味でも『聖水結界』内に誘き寄せるのはいい考えだ。賞賛に値するよ」


 ノワクロは怪訝な表情を浮かべながら語りかけてくる。


「……魔物がいくら馬鹿でも『聖水結界』内には中々入って来ねぇからな」

「そうだな。ただ中の人間が全滅していたら話は別だ、お前の言葉を借りるなら先ほどの偽ノワクロは王都ウエディまで誘導する餌でウエディの国民は王都内に誘導する為の餌と言った所か」


「……ひゃは! なんだよぉ! 獣の中にも頭が回る奴がいるじゃねぇかよぉ。なるほどな、お前が噂のどこぞの大陸の軍師かぁ!」


 パチパチと手を叩くノワクロ。


「結果として見事術中に嵌った私たちが言うのも何だがお粗末な作戦だな。魔物約二千体を閉じ込めるのと引き換えに一国を滅ぼすとは……」

「ひゃはは! いいんだよぉ! こいつ等は魔王を倒す役になんて立たねぇんだから体を張って魔物の集客くらいはしてもらわねぇとな。それに十分対価には見合ってるぜ? なにせ俺がこれだけ楽しめたんだからなぁ!」


 ペロリと赤い刀身を舐める。


「命乞いをするウエディ王は最高だったぜぇ、まさか! って感じでよぅ。金ならいくらでも出すとか泣き叫んでたなぁ……それに必死になってかかって来る兵士に己の無力さを痛感させるのも、逃げ惑う民を斬り殺す瞬間も……魔物を倒す時には得られねぇ快感だ……」

「そうか……興味がないな」

「ま、時間の関係でほとんどは魔法で一掃しちまったのが残念と言えば残念か。だから代わりにお前たちが楽しませてくれよぉ期待してるぜ!」


 そう言ってノワクロは刀を構える。俺はすかさず懐から手の平サイズの玉を取り出し投げつける。咄嗟に目の前に放り投げられた玉に切り込むノワクロ。


 チュド――ン!


「!?」


 辺りを煙が覆う。俺とノワクロは互いの姿を視認できなくなる。


「……これは!? 煙幕? 魔物が使うだと? ……てめぇネズミィ! 魔物風情が生意気に人間様の真似してんじゃねぇぞ!」


 ノワクロの怒り声と共にブンブンと刀を振る音が聞こえてくる。


(やっぱりな。こんな煙、魔法で吹き飛ばせばいいはず。それをしないって事は……魔法が使える条件は場所、か)


「なめやがって……黒焦げにしてやる」


 そう言って空高くジャンプするノワクロ。その姿はこちらからはしっかり確認できた。


「ピクルスちゃん逃げるんじゃないんでちゅか?」

「いや、援軍が来るまで逃げるのはやめだ。それよりニュウナイス。全力で飛ぶ準備だ。高度が低ければある程度の速度はここでも出せるだろ?」

「飛ぶってどこにでちゅか?」

「ノワクロが立ち止まった塀の下だよ」

「?」


 ノワクロは先ほどと同じ城門近くの塀の上まで移動してブツブツと呪文を唱え始めた。


(やっぱりあそこか!)


「トレスマリアぁ!! 城門から北西に十メートルの位置の壁だ! ぶちかませぇ!」


 ドガァァン!

 けたたましい音を立ててノワクロが立っていた城壁の下部が破壊される。


「んだとぉ!?」


 ノワクロは衝撃でバランスを崩し地上に落とされる。


「ニュウナイス! あそこだ!」


 ニュウナイスは俺を掴んで勢いよく空いた城壁の穴へと飛び込む。落ちて行くノワクロを横目に俺たちは町の外への脱出に成功する。


「良くやったぞトレスマリア」


 俺は恐らくパンチで壁を破壊したであろうトレスマリアに労いの言葉を掛ける。


「べ、別にピクルス君の為にやったわけじゃないんだからね。ただちょっといい壁があったから、壁ドンしたくなっただけなんだからね!」

「ふわ~凄いでちゅトレスマリア! 壁の外からとはいえよくそんな力が出せまちたね」


 俺はこちらを見ながら歯ぎしりをしているノワクロに聞こえるように言う。


「普通は城壁の外でも付近は『聖水結界』の範囲内のはずなんだがな。どうやらこの王都ウエディには結界が網羅しきれないスポットがいくつかあるようだ」

「ほえ~そうなんでちゅか」

「もしかしたら別の町や城もそんな場所があるのかもしれないな。これは貴重な情報だ。馬鹿な勇者が教えてくれて助かったよ」

「てめぇ……ネズミィ!!」

「さて、と」


 俺が手をあげるとウエディの外で待機していた残りの千五百程の魔物たちが次々と集まって来る。


「正々堂々勝負しようかノワクロ、ここなら思う存分戦ってやろう。俺以外がな」

「……ひゃは! 屑だなお前」

「それはお互い様だろう。俺が今まで戦ってきた勇者はお前より弱かったが誇りのような物を持っていたぞ。貴様くらいだ、こんな下衆なやり方はな」


「つまり馬鹿って事だろ?」

「小物が……殺せ」


 俺の指示で魔物が隊列をなして一斉にノワクロに襲い掛かる。

 その通りだよノワクロ。馬鹿の中でもお前の思考回路は危険だ。ここで死んでもらおう。


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