(番外編)軍師たちの初日の出
あけましておめでとうございます。お正月なのでちょっと番外編です
ここはミルウォーキー大陸最北端に位置するゴコウ山。
俺は遠路はるばるこんな辺境の地までやって来ていた。理由は勇者討伐の凄い作戦を考えついたと言って城から出て行ったきり消息不明になった馬鹿二軍師捜索の為。
当然乗り気ではなかったのだがミックスベリー将軍からの頼みだった事もあり渋々承知していた。
そしてこのゴコウ山山頂付近での二軍師目撃情報があった為、急な斜面を登りやっとこさ山頂まで到着したのであった。まだ十月だと言うのに辺りは雪景色、そして眼下には闇のような海が広がる。
しかし麓から山頂まで歩いて来たが未だに二人は見つからない。やっと死んでくれたのかな?
ゴンッ! その時俺の足に何かがぶつかる。
「い、痛い……さ、寒いぞぉ……」
ん?
夜明け前の薄暗い空の下、聞き覚えのある声が聞こえる。足にぶつかったその物体を覗き込むと死にそうな顔をしたキュービックが毛布に包まりガタガタ震えながらこちらを見ている。
「……キュービック……殿。何してるんです?」
「ま、まさかピクルス? ピクルスなのか!? す、すまないがマッチを……マッチを擦ってはくれないか? は、早く暖かいストーブと七面鳥を……」
俺は言われるがままにマッチに火をつけそのまま毛布に火をつける。
「ぐわぁぁぁ!!」
燃えさかるキュービック。ゴロゴロと火に包まれながら転げまわった後そのまま雪の中にダイブして火を消す。
「何をするかぁ! ピクルス!」
(ちっ。回復させてしまったか、失敗だ)
「いや、キュービック殿が火をつけろと言うから……」
「たわけがぁ! 貴様という奴は本当に気の利かない男だな! マッチはそういう風に使う物ではないわ!」
マッチはストーブや七面鳥も出すものでもないけどな。
「ところでキュービック殿。何をしているのですか? スクエア殿と出かけてからずっと戻ってこないとミックスベリー将軍も心配していましたよ」
「ふん! ピクルスよ、私たちには貴様が想像もつかないような勇者殲滅の秘策があるのだ。その為にこのゴコウ山まで来ているのだぞぉ!」
「へ~」
興味なさそうに返事する俺。
「聞きたいか? 聞きたいだろう? どうしてもと言うなら教えてやらない事もないぞぉ!」
「あ、いいです。下でサイ君が待ってるんでさっさと降りましょう」
「はははー! その名もオペレーション『ハツヒノデ』! 勇者殲滅のとっておきの作戦だぁ!」
聞いてねぇよ。
「異国の地に伝わる伝承では太陽暦最初の月の日に昇って来る太陽を拝み、タッカラプト・ポッポルンガ・プピリット・パロと唱えるとどんな願いでも一つだけ叶えてくれる不思議な龍が現れると聞く」
めでたいポルンガが出てきそうな伝承だな。
「そして『ハツヒノデ』に我々の願いを叶えてもらうというわけだ! はははー! これで勇者もおしまいだ!」
「……でも太陽暦最初の月の日って、まだ二ヵ月は先ですよ?」
「そうなのだ。どうやら少し早く着きすぎてしまったようでな。だからこうしてその時が来るのを寒さに耐えジッと待っていたのだ」
山を一度下るという選択肢はなかったのか?
「ところでスクエア殿は何処に行ったのですか?」
俺は辺りを見渡しながらキツネに尋ねる。ヤギ爺だけでもくたばっていてくれると嬉しいのだが……
「ほほ、わしはここにおるぞピクルス」
岩場の影からひょっこりと顔を出すヤギ爺。なんだ、こいつは随分と元気そうだな。
「(ちっ!)スクエア殿、お元気そうで何よりです。しかしこの山頂の寒さは堪えたのではないですか?」
「ほほ、なぁに平気じゃよ。何せ数日に渡って身に降りかかる全ての害悪から身を守ってくれるという世界に一つしかないビースト軍の秘法、無敵障壁酒を飲んで来たからの」
平気じゃねぇよ。そんな便利な秘法を防寒対策に使うな!
「ピクルスも丁度良い所に来たわい。わしらとここで『ハツヒノデ』に祈りを捧げようぞ」
「いや、しかし太陽暦最初の月の日はかなり先ですし……」
「心配するなピクルスよ」
ヤギ爺はゴソゴソと手荷物から長方形の箱を取り出す。その箱の表面にはJengaと書かれている。
「コレじゃ」
(ジェンガだと……!? 俺は別に暇を潰せるかどうかの心配はしてないぞ!?)
「と、とにかくキュービック殿もスクエア殿も一度下山しましょう」
「何を言うかピクルス! ここまで寒さに耐えた私の苦労を無駄にしろと言いたいのかぁ!」
「そうじゃのぉ、それに下りてまた登るというのは時間効率がいいとは言えんからのぉ」
時間効率の意味知ってるか?
面倒くせぇ、もう放っておきたいが一応ミックスベリー将軍から引き受けた仕事だしなぁ……
コホンと咳払いを入れてから二人に諭すように話しかける。
「実は大変言いにくいのですが、どうやらこのゴコウ山。通常と時間の流れが違うようなのです」
「な、なにぃ!? まさかジェンガの仕業か!?」
なんだその超理論。
俺は手に持っていたコンパスを膝に叩きつけ壊す。
「私もついさっき気づいたのですが、ほら。このように磁場が乱れてコンパスも機能していないのですよ。で、どうやらその影響で我々の時間の感覚もずれてしまうようでして……」
「なんだとぉ!? 気づいていた、当然気づいてはいたが、では今は一体いつなのだ?」
「コンパスの壊れ具合から見ると恐らく今日が……」
「太陽暦最初の月の日じゃと!?」
焦るキュービックとスクエア。その時東の空から光が差し込む。
「ま、まずい! スクエア殿、早くあの呪文を!」
二人は昇って来る朝日の方向へと全力で走る。
「任せておくのじゃ! ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ!」
おい、さっきと呪文が変わってるぞ。
それ呪文じゃなくて滅びの呪文に滅ばされる奴の名前だからな。
そして二軍師は大きく両手を広げて地平線からゆっくりと昇って来る太陽に向かって大声で叫ぶ。
「「今年もビースト軍の皆が健康でありますように!!」」
声を揃えて二軍師の願いが山頂にこだまする。
水面に反射した太陽の光が二人の願いを聞き入れたかのようにキラキラと輝く。そして二人はその場でハイタッチをすると清々しい顔をして昇る朝日をただただ眺めているのだった。
「いや、勇者殲滅をお願いしろよ」